自閉症

autism[E], Autismus[D], autisme[F]

オーストリア出身Kanner L.は1943年にアメリカで、現在でいう自閉症児11例について「情緒的接触の自閉的障害」として詳細に報告した1。オーストリアのAsperger H.は翌1944年に「自閉的精神病質」を提唱した2。Aspergerの概念はヨーロッパでは比較的知られていたものの、英語圏ではあまり顧みられなかった。イギリスの精神科医Wing L.は、自身も関与したイギリスでの種々の疫学研究の成果も勘案して、KannerとAspergerが別々に提唱した二つの障害は連続的であると考えて統合した。そして1981年以降は、Autistic Continuum、後には Autistic Spectrum Disorders(邦訳は「自閉症スペクトラム障害」など)と呼んだ3

Wingはすべての自閉症スペクトラム障害の患者は、社会的相互性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害という三つ組の障害を持つとした。彼女によれば、三つ組の障害の根底にはより基本的な問題の本態があるが、現在のところは検出が難しく、それに対して個人の発達と行動がわかれば三つ組の障害はわかるため、三つ組みの障害および狭く固い反復的な活動や興味のパターンが診断的に重要であると言う。


Wingの自閉症概念は、アメリカ精神医学会の診断マニュアルであるDSMにも影響を与えた。第4版テキスト改訂版DSMTR4 までは「広汎性発達障害」の下位分類だった「自閉性障害」と「アスペルガー障害」が、第5版DSM‒55からは「Autism Spectrum Disorder(ASD:自閉スペクトラム症)」(Wingとほぼ同じ語だがわずかに異なる)として一つに統合され、「広汎性発達障害」の名称は廃棄された。それに伴って診断基準にも変更が加えられた。広汎性発達障害では①対人的相互反応の質的な障害(Wingの社会性の障害に関連する)、②コミュニケーション伝達の質的な障害、③行動、興味、および活動の限定された反復的で常同的な様式、の3つが主要な診断基準だったが、自閉スペクトラム症では①と②が一つにまとめられ、①社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害、②限定された反復する様式の行動、興味、活動の 2 つになった。つまりDSM5ではそれ以前に比べて、「行動、興味、および活動の限定された反復的で常同的な様式」が相対的に重要になったと言える。


 DSM5における他の変更点としては、年齢の要件が緩やかになったこと、言語発達の遅れが必須ではなくなったことなどが挙げられる。また「社会的(語用論的)コミュニケーション症Social(Pragmatic)Communication Disorder」が新たに追加された。DSMTR で特定不能の広汎性発達障害の診断を受け、限局した興味の障害がない患者は、社会的コミュニケーション症に診断される可能性が指摘された6

 なおWingは、DSM5では女性症例が診断されにくくなるとして批判している7


(清水光恵)



  1. Kanner L. : Autistic Disturbances of Affective Contact. Nervous Child, 2 : 217-250, 1943.
  2. Asperger H.: Die "Autistischen Psychopathen" im Kindesalter". Archiv für Psychiatrie und Nervenkrankheiten. 117 (1): 132–135,1944.
  3. Wing,L. : The Autistic Spectrum: A Guide for Parents and Professionals. Constable, London, 1997.(久保紘章、清水康夫、佐々木正美 訳:自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック.東京書籍、東京、1998.)
  4. American Psychiatric Association : Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Text Revision of Forth Edition. American Psychiatric Publishing, Washington, D. C., 2000
  5. American Psychiatric Association : Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition. American Psychiatric Publishing, Washington, D. C., 2013
  6. 齊藤卓弥、岡田俊、田中究:神経発達症群/神経発達障害群と秩序破壊的・衝動制御・素行症群:DSM-5 を理解するための基礎知識.精神経誌;116 (4):332-338,2014
  7. Lorna Wing,Judith Gould,Christopher Gillberg : Autism spectrum disorders in the DSM-V: Better or worse than the DSM-IV?. Research in Developmental Disabilities : 32(2) ; 768-773, 2011