神経衰弱状態

neurasthenic state(E), neurasthenischer Zustand(D)

19世紀末に米国のBeard,G.M.が神経衰弱を最初に記載したと言われている。全身倦怠感、頭痛、頭重感、肩こり、耳鳴り、眩暈、不眠、手指振戦、不眠など症状は多岐にわたる。森田正馬は従来診断での神経症を神経質とヒステリーに大別し、前者を更に普通神経質、強迫観念、発作性神経症に分類したが、Beardの提唱した神経衰弱はおおむね森田の普通神経質と合致する。諸症状は不定愁訴的であって、精神疾患に特有のものではなく純然たる身体疾患でも出現しえる。神経衰弱の中の「神経」という語が精神科的および神経内科的な意味の両方で使用されるため、この概念は文脈によっては輪郭が曖昧になる場合がある。ちなみに、日本において神経衰弱は特異な用法がとられてきた経緯があり、具体的には、統合失調症(以前の精神分裂病)のような重篤な病名の告知に際してスティグマに配慮して言い換える、あるいは、診断困難なケースに対して暫定的に診断をつけるという目的においてである。近年では加藤敏が神経衰弱を再評価し、それを敷衍する形で、多忙な現代社会特有の病態として「職場結合性うつ病」という概念を提示している。


(芝伸太郎)