シュナイダーの1級症状

Schneiderian first-rank symptoms(FRS)(E), Symptome 1.Ranges(D)

Schneider,K.は統合失調症における異常体験様式のうち,非精神病性の障害に対する鑑別診断と循環病(躁うつ病)に対する鑑別類型学にとって特に重要なものを1級症状と呼んだ。それは考想化声,言い合う形の幻声,自身の行動とともに発言する幻声,妄想知覚,身体的被影響体験,考想伝播,他の考想被影響体験,他の領域の他者によるさせられ体験・被影響体験である。これらは(1)3種の幻聴(考想化声,言い合う形の幻声,自身の行動とともに発言する幻声),(2)妄想知覚,(3)自我障害(身体的被影響体験,考想被影響体験 [考想奪取,考想吹入,考想伝播] ,他の領域の他者によるさせられ体験・被影響体験)と群別しうる。1級症状はこれらの症状に限定されたわけではなく,「概念的にも診察上もさほどの困難なく把握しうる症状」として提示された。


Schneiderは「(1級症状という)体験様式が異論の余地なく存在し,身体的基礎疾患を見出しえない場合,我々は臨床上,謙虚さを持ちつつ統合失調症と呼ぶ」と述べた。体験形式において,1級症状は心理学的にそれ以上還元できない一次体験であり,したがってその存在は非精神病性の障害との区別を可能にする。統合失調症の異常体験様式のうち,1級症状以外のものは2級症状と呼ばれた。診断上,これらの異常体験様式は行動や表出症状といった客観的所見に優先するとされた。1級症状は一次性の症状として取り出された異常体験様式であり,形式面において発生的了解が不能である。そのうち特に自我障害の諸症状は,Jaspers,K.によれば追体験不能/感情移入不能,すなわち静的了解不能である。SchneiderはJaspersと同様に,こうした了解不能な症状は統合失調症を特徴づけるものであり,気分障害や非精神病性の障害には出現しないとみなした。1級症状は身体疾患を基盤とした精神病状態,すなわち器質性,症状性,中毒性精神病にも時に出現する。「謙虚さを持ちつつ…と呼ぶ」とは,統合失調症と循環病は身体的原因に基づく疾患単位ではなく,状態と経過からなる精神病理学的な単位であるので,両者の鑑別は厳密には鑑別診断ではなく,鑑別類型学にすぎないことを戒めたものである。


1級症状はDSM-III,-III-Rおよび-IV,またICD-10における統合失調症の診断基準に大幅に取り入れられた。


(針間博彦)