混合状態

mixed state(E), Mischzustand(D)

抑うつ状態躁状態の混合している状態を指す。抑うつ状態躁状態は躁うつ病の対極にある病像とされているが、実際の臨床像は二つの典型的な病像に当てはまらないものが少なくない。混合状態はそのようなときに使われる理論的な概念である。したがって、混合状態を積極的に認める立場もあれば、Schneider,K.のように症状の混合を否定する見解もある。これを認める立場から説明すると、抑うつ状態と躁状態とが同時に出現した場合にそれらは決して中和することがない。程度「5」の抑うつ状態と程度「5」の躁状態が混合したとき、状態の強度は「5+5=10」になるだけで相殺して「0」にはならない。抑うつ状態と躁状態それぞれには各症状の組み合わせによって複数のパターンがあるので、混合状態にも様々なバリエーションが存在する(Kraepelin,E.によれば、躁病性昏迷、不安躁病、興奮うつ病、思考貧困躁病、観念奔逸うつ病、制止躁病)。例えば、気分は抑うつ的で重苦しく何をする意欲もわかない一方で落ち着きがなくウロウロとしながら多弁に自分の苦しみを周囲の人間に訴え続けるものも混合状態の一種であり、一般的に、同状態は自殺の危険性が最も高いとされている。混合状態をKraepelinは躁うつ病の基本状態として重視したが、後代の精神科医の中にも同じ見解を持つ者が少なくない。近年、躁状態にまで至るケースつまり双極Ⅰ型障害の減少と相関するかのように、抑うつ状態躁状態が交互に出現する病型(双極Ⅱ型障害)あるいはこれらが混合して出現する病型が増加傾向にあることは明らかである。DSM-Ⅳでは大うつ病エピソードと躁病エピソードが同時出現している場合を混合エピソードと定義していたため、診断記載上は混合状態の範囲が非常に狭くなり実臨床に合わないという批判があったが、2013年に改定されたDSM-5で「混合性の特徴を伴う」という指標が導入されより多くの混合状態を遺漏なく記載できるようになった。


(芝伸太郎)