了解不能

Unverstehbarkeit/Unverständlichkeit [D], incomprehensibility/ununderstandability [E], incompréhensibilité [F]

Jaspers,K. 、Schneider,K. らの精神病理学では、了解が不可能な精神現象がみられる場合、その背後に病的な身体的過程を想定し、因果的な説明を要請する。ここで言う身体的過程とは、狭い意味の精神病のことである。つまり、了解不能な精神現象は精神病の徴候とされる。了解の項で述べたように、通常は共有された意味連関によって我々の相互了解が成立している。


正常な精神現象においても身体的過程は働いているはずだが、我々は互いの体験を了解できる場合には、その背後に何があるのか不問に付している。精神病では、その人のそれまでの精神生活との関連を欠く異質な現象を生じ、そこで通常の意味連関が断たれる。シュナイダーの1級症状を主とする統合失調症の症状がこれにあてはまる。また、気分変調も、身体的に体験される症状を伴い、周囲の出来事への心理的な反応性が乏しくなる点において、了解不能な水準に達する場合があり、そのような場合には内因性のうつ病、躁うつ病と診断されてきた。


他方、Jaspersは、人間全体を一挙に了解することなど不可能であることも承知しており、他者の精神はその都度徐々にしか明るみに出ないとも指摘している。


(熊崎努)