体感異常

(体感幻覚)


cenestopathy (E), abnorme Körpersensation, Zönästopathie, Coenästhesien (D), cénestopathie(F) 

体感とは,五感(視覚,聴覚,味覚,嗅覚,触覚)による外部感覚に対比され,身体内部からの感覚すべてを指し,通常ではほとんど意識されることはなく,意識されること自体が何らかの病理を反映しているといえる。体感異常と体感幻覚はほぼ同義で用いられており,相応する身体疾患が認められないのにもかかわらず訴えられる身体内部の実体的異常感覚であり,一般には奇妙で了解しがたいが,患者は確信をもって明確に断言する,と定義され,例えば,「脳に鉛が詰まっている」「腹の中を蟻が動いている」「背骨がグスグスと崩れている」等と陳述される。皮膚や粘膜に起こる幻触との境界が必ずしも明確ではないこともあり,また「性器に何か入れられて子宮や卵管が動かされる」など,身体的被影響体験と結びついて訴えられることもある。歯牙, 歯肉, 軟口蓋などの口腔内を主とする体感異常を訴えるものは口腔内セネストパチーと呼ばれる。


 こうした訴えはDupré,E.らにより体感症(セネストパチー)と呼ばれ,体感の幻覚症とされ,単一症候で,慢性的に経過するために,単一疾患であるとして報告されたのが始まりである。その後,体感異常を一症状として注目したのはHuber, G.やGlatzel ,J.であり,体感異常を主体とする体感異常型統合失調症や,身体感情障害(体感異常),疎隔体験(離人症),思考障害をトリアスとする内因性若年–無力性不全症候群を提唱している。体感異常が二重心や二重身などの実体的意識性や離人症とともに同一症例で同時期にみられることがあることは,臨床的に知っておくべき重要な事項であり,その形成機序については中安信夫が「対象化性質の異常態」論を提出している。

(関由賀子)