visual hallucination (E), Gesichtshalluzination (D), hallucination visuelle (F)

視覚性の,あるいは視覚領域に生じる幻覚である。幻視は統合失調症などの内因性精神病にも現れることがあるが,てんかん,レビー小体型認知症や脳血管障害等の脳器質疾患,症状精神疾患アルコールや覚醒剤をはじめとした中毒性疾患など,その多くは何らかの外因が関連していることがあるため,各々の幻視の特徴を知っておくことで病因に接近することが可能である。


臨床的には主として意識変容状態あるいは睡眠-覚醒機構の障害など脳機能全体の変化によるものと,意識清明下における局在病巣によるものとに区別される。脳機能全体の変化によるものとしては, せん妄時の閃光・幾何学模様・人物・情景, 振戦せん妄における小動物幻視,ナルコレプシーにおける入(出)眠時幻覚(正しくは実体的意識性:西山詮)などがある。局在病巣によるものの多くは,意識障害が合併していないかぎりにおいて,本人がそれを実在するとは考えておらず,Goldstein, K.のいう偽幻覚である。眼球から第一次視覚領へと至る経路の損傷による視覚路性(視野欠損領域の要素幻視), 第一次視覚領や第二次視覚領の刺激による後頭葉性(主として前者は要素幻視, 後者は複雑幻視),側頭葉の外側面や上面, あるいは扁桃核, 海馬, 海馬傍回の刺激による側頭葉性(経験幻覚[Penfield ,W.]), 脳幹に局在する睡眠中枢とより上位の構造との乖離が原因と推定される脳幹性(夢幻的特性を伴う動物・人間などの複雑幻視:脳脚幻覚症[Lhermitte ,J.])などがある。


Charles Bonnet 症候群は,視力低下のある高齢者の意識清明時にみられる複雑幻視で,単一症候の偽幻覚であるが,損傷領域との関連については明確には定義されていない。欠損視野に一致してみられる幻視は,盲視野内幻視と呼ばれ,視覚認知を構成するための視覚入力が減少すると,脳は失われた部分を自らの中に貯蔵された視覚性記憶を用いて補おうとすることによって生じると考えられている。


そのほか,考えていることが文字になって見えるという考想可視,災厄的光景が次々と展開していくという夢幻様体験型(oneiroide Erlebnisform[Mayer-Gross ,W.])や自己身体を外界に幻視として見る自己像幻視などがある。

(関由賀子)