脱抑制

disinhibition(E), Enthemmung(D)

抑制が外れた行動のことを指す。具体的には,躁状態や知的機能とは関係なしに,我慢ができない,あるいは社会的に許されないモラルに反した行動をすることであり,衝動制御困難とも称される。浪費,性的逸脱行為,余計な口出しや暴言,暴力などが衝動的に出現し,対人関係を著しく悪化させることが多く,社会機能に多大な悪影響を与える。眼窩部を中心とした前頭葉損傷や行動異常型前頭側頭型認知症など脳器質疾患に関連して出現する。脱抑制の機序としては,ある行動を決定する際にわれわれはその行動によって起こりうる結果を予想するのであるが,前頭葉眼窩部損傷があるとその予想が情動や自律神経と連合せずに,短絡的な意志決定に至るという仮説がある。


把握現象,道具の強迫的使用/利用行動,模倣行動など外部からの刺激にためらいもなく反応してしまう被影響性の亢進ないしは環境依存的な行為/行動を脱抑制から説明する立場もあるが,これらの症状は前頭葉内側損傷で出現し,上記のモラルや社会性に関した衝動制御困難という意味合いは乏しい。前頭葉による制御が外れて後部脳の機能が解放される,前頭葉性の解放現象(frontal release signs)と捉える方が分かりやすい。


(船山道隆)