妄想気分

delusional mood(E), Wahnstimmung(D)

妄想気分は真正妄想の形式の一つであり,同じく真正妄想の一つである妄想知覚に先行する準備野,前段階である。妄想気分では,患者は「なにかが起きている」というただならぬ気配,不気味な雰囲気を感じ,自分がそれに巻き込まれていると感じるが,それが具体的に何であるかはまだ明確にわからない。すなわち,外的事象の知覚に対する漠然とした意味付け ( 自己関係づけ傾向 ) が生じているが,特定の意味付けはまだ生じておらず,したがって妄想観念はいまだ形成されていない (「妄想観念なき妄想」) 。知覚に対する漠然とした自己関係付けに特定の意味が伴うと,妄想知覚が形成される。だたし,妄想知覚の特別な内容は,不特定である妄想気分から了解することはできない。妄想気分に続いて妄想着想が生じることもある。妄想気分は統合失調症の急性期に生じる最初の症状とされるが,臨床上この体験が明確に聴取されうることはさほど多くない。

(針間博彦)