自閉

autism [E], Autismus [D], autisme [F]

Bleuler, E.は、統合失調症にみられる「内面生活の・・・優位を伴う現実からの遊離」を自閉と呼んだ。患者の発言や態度が外界と齟齬をきたすのは、感情に占められた表象複合(コンプレックス)が、正常な思考の流れを妨げるためだとされていた。ここには精神分析の影響がみられる。Bleulerは、自閉を、統合失調症に特徴的な「基本症状」とする一方で、自閉は他の精神疾患でもみられるとも述べ、鑑別診断上の意義については否定していた。


その後、Kanner, L.(1943)は、乳幼児期から「感情的な接触の自閉的障害(autistic disturbances of affective contact)」を来す症例を記述した。ほぼ時を同じくして、Asperger, H.(1944)も、幼児期から周囲との相互的な関係に障害を来す症例を記述し、「自閉的精神病質(autistische Psychopathie)」と名づけた。これらの症例は、症候的にも、また先天的と判断されることでも統合失調症とは異なっていた。


のちにWing, L.らが、疫学的な調査に基づき、幼児の自閉症を(上記のKanner、Aspergerの症例を含め)連続体として把握した。そして連続体的な把握により、自閉症に含まれる範囲が拡がった。これが現在の自閉スペクトラム症の概念へとつながっている。


このように「自閉」の意味は、その歴史的な経緯のために多義的である。臨床的にも、統合失調症の「自閉」と自閉スペクトラム症の自閉との違いについて議論されている。


(熊崎努)