コルサコフ症候群

Korsakow/Korsakoff syndrome(E)

Korsakow,S.S.は1887年に、アルコール依存症患者に特徴的に認められる見当識障害・記憶障害・作話と多発性末梢神経炎をまとめて「多発神経炎性精神病psychosis polyneuritica」という症候群として提起し、この症候群はその後「コルサコフ精神病」と呼ばれるようになった。コルサコフ精神病の概念から多発性末梢神経炎を外し、精神症状としての見当識障害・記憶障害・作話だけを抜き出したものがコルサコフ症候群である。今日では、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症に伴うもの(ウェルニッケ・コルサコフ症候群)とアルコール依存症に伴うもの(アルコール・コルサコフ症候群)に限定して使われる傾向が強いが、頭部外傷、低酸素脳症、脳血管障害、脳炎なども原因となり、また意識障害からの覚醒過程で通過症候群として出現することも多い。責任病巣としては間脳、特に乳頭体と視床背内側核が重視されている。


多くの例では一過性であるが、慢性・持続性に経過する例もあり、軽度の欠陥を残す例も少なくない。見当識は時間と場所に関しては障害されるが、人については保たれていることが多い。記憶障害は記銘障害が目立ち、前向健忘と逆向健忘の両方が見られ、過去の記憶を時間系列に従って秩序づけることが困難である。即時記憶と遠隔記憶は比較的保たれる。作話は必須症状ではないが、特徴的な症状である。基本的には記憶の欠損を埋めるための作話、すなわち「当惑作話」であるが、見当識障害と記憶の時間系列の障害による混乱した陳述が認められる。記憶障害に比べて他の認知機能障害が少なく、思考力や判断力も保たれるため、作話やそれに伴うパーソナリティの変化が目立つ。


(深尾憲二朗)