妄想知覚

delusional percept(E)Wahnwahrnehmung(D)

妄想知覚とはSchneider,K.によれば,合理的了解や感情的了解が可能な動機なしに,真の知覚に異常な意味が付与されるものである。すなわち,妄想知覚における特別な意味内容は,患者の気分や感情からも,また先行する妄想気分からも,了解的に導き出すことができない。たとえば,患者は自宅の前に自動車が止まっているのを見ると,「自分を狙っている組織があり,見張られている」と確信する。このように,付与される意味はほとんどが被害的自己関係付けである。知覚と異常な意味付けとの間の時間的間隔が長い場合,妄想知覚は追想妄想となる。


Schneiderによれば,妄想知覚の体験構造は「二分節性」である。すなわち,患者から知覚された対象に関する了解可能な意味解釈までからなる第1分節(上の例では「家の前に自動車が止まっている」)と,了解可能なあらゆる意味解釈の背後で始まる,合理的にも情動的にも了解不能な意味付けである第2分節(上の例では「自分を狙っている組織がある」)からなる。この場合の知覚は視覚など感覚によって捉えられた対象だけでなく,聞いたり読んだりした言葉の了解可能な意味も含まれる。了解可能なあらゆる解釈はなお第1分節であり,第2分節とはこうした解釈の背後できっかけなく始まる意味づけである。この「二分節性」という体験構造において,妄想知覚は患者から着想までの一分節しかない妄想着想から区別され,また内容的に感情的背景に指示された方向に厳密に保たれた,基本的に了解可能である妄想反応からも区別される。この了解不能な第二分節の付与という特徴から,Schneiderは妄想のなかでこの妄想知覚のみを統合失調症の1級症状に数え入れた。


Jaspers,K.とSchneiderが妄想知覚において知覚自体は正常であると想定したのに対し,Matussek, P.は,知覚行為においてすでに特定の本質属性の突出と,知覚関連の弛緩による変容が生じていることを示した。


(針間博彦)