自明性の喪失

der Verlust der natürlichen Selbstverständlichkeit [D], the loss of natural self-evidence [E], la perte de l'évidence naturelle [F]

ドイツの精神病理学者Blankenburg, W.は、自験例アンネ・ラウの陳述に基づき、自然な自明性の喪失(der Verlust der natürlichen Selbstverständlichkeit)こそが統合失調症の基礎障碍であるとした。ただし、自明性は、固定した症候として記述されるものでは無く、患者が存在する様式の分析により見出される事柄である。正常な体験においては、自明性は部分的に疑問に付され、内省の対象となり、非自明的となりつつも、自然に「そのつど新たな自明性によってとって替られ」て、均衡が保たれるという。このような自明性と非自明性とのあいだの運動の均衡が、統合失調症においては崩れているとされている。そして、患者本人にとっての自明性の喪失は、「外部からの了解がうまくいかないことと相関して」おり、さらには他者との関わりにおいて構成されるはずの共同世界の外部に患者が生きていることを示していると、Blankenburgは指摘している。


なおBlankenburgと異なる立場から、小出は、人間における自明性はむしろ「言語によって規定された「人工的・文化的な自明性」」であり、言語的な世界からはみ出す体験が統合失調症の病的体験だとしている。


(熊崎努)