緊張病症候群

catatonia syndrome(E), katatonisches Syndrom(D)

緊張病に伴う症候群であり,突発的に目的や状況との意味関連が不明な行動に出て,自らの意志によって行動がコントロールされていない緊張病性興奮,意識は清明であるが刺激に対してほとんど反応ができない緊張病性昏迷,筋緊張,同一の姿勢をとり続けて蝋細工のように動かされたままの姿勢を保持することが特徴的なカタレプシーなど主徴とする症候群である。その他,無言症,一点凝視,しかめ面,同じ行動を繰り返す常同症,わざとらしさや不気味な奇妙さを呈する衒奇症,拒食や指示を拒絶する拒絶症,逆に命令に対して自動的に従う命令自動症や言われた言葉をそのまま繰り返す反響言語が認められる。しばしば自律神経症状や身体疾患を伴う。緊張病症候群は幻聴妄想のように言語を基盤とした症状というよりは,運動面や身体面を基盤とした症状が中心である。


緊張病症候群は統合失調症,気分障害,発達障害,脳器質疾患などさまざまな疾患に出現するが,それらに共通した発症機序を,精神面や身体面に対して極度のストレスがかかった状況(生体における緊急事態)に対する原始的な反応と捉えると理解しやすい。


高熱や発汗や頻脈といった自律神経症状を伴う緊張病症候群を悪性緊張病という。悪性緊張病は特に身体疾患を伴いやすい。死にまで至る場合を致死性緊張病と呼ぶ。出現しやすい身体疾患は,誤嚥性肺炎,深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症,頻脈性の不整脈,尿閉,横紋筋融解症,脱水やそれに伴う腎前性腎不全などである。悪性緊張病は抗精神病薬による悪性症候群と類似した症候を呈するため,両者を同一の病態とみなす立場もある。遅発緊張病は,中高年期に発症し,緊張病概念を提唱したKahlbaum,K.の緊張病の経過と類似し,気分障害の症状で始まりながら昏迷を中心とした緊張病症候群を呈する極期を経て,さまざまなレベルの精神荒廃状態への移行する病態を指す。


緊張病症候群への治療は,ベンゾジアゼピンの投与,重症例では修正型電気けいれん療法が有効である。


(船山道隆)