局在症状

local symptom(E)

脳の特定の部位の局所的な機能障害として理解しうる症状を言う。脳損傷症例や脳血管障害症例などにおいて見られ、広義には片麻痺などの局在性運動症状や同名半盲などの中枢性感覚症状も含むが、狭義で用いられる場合は失語・失行・失認を始めとする神経心理学的症状を指す。歴史的には、脳の局所に存在する病巣focusを原因とする症状という意味で「巣症状focal symptom(E), Herdsymptom(D)」と呼ばれてきた。


脳損傷症例や脳血管障害症例においては、損傷部位の機能が欠落した結果としての種々の欠落症状として現れ、局在する大脳皮質の部位によっていくつかの症候群としてグループ化されている。すなわち、アパシー・環境依存症候群などを含む前頭葉症候群、健忘症候群・クリューヴァー=ビューシー症候群を含む側頭葉症候群、ゲルストマン症候群・バリント症候群・半側無視を含む頭頂葉症候群、視覚失認を含む後頭葉症候群、拮抗失行を含む脳梁症候群などである。


一方、局在関連てんかん(部分てんかん)症例においては、大脳皮質の特定の部位にてんかん原性焦点が存在することによって、身体の特定の部位の痙攣や、幻視のような特定の感覚異常の症状が現れるが、これらも局在症状と呼ばれる。これらの症状は、欠落症状としての巣症状とは反対に、脳の局在機能が過剰に発動された結果としての刺激症状と解される。


なお、近年では脳科学の進歩により、さまざまな認知機能や情動機能を脳の特定の部位に対応させることが可能となってきており、それらの知見に基づいて、歴史的には局在症状と見なされてこなかった不安抑うつ・強迫症状などの精神症状も脳の特定の部位の機能障害として理解されるようになりつつあるが、これらの症状が局在症状と呼ばれることはない。


(深尾憲二朗)