罪責妄想

delusion of guilt(E), Schuldwahn(D)

重大な過失や罪を犯したと罪責感を抱く妄想。心気妄想および貧困妄想とともに,微小妄想の1つとして位置づけられる。世俗的・法的な過失に悩むものを罪責妄想,宗教・道徳的な罪を負っていると悩むものを罪業妄想 delusion of culpability(E), Versündigungswahn(D), Sündenwahn(D)と分けることもできる。しかし,いずれにしても問題となる罪は,取り返しのつかない負い目として背負いこまれる。


罪責妄想は患者の過去の体験としばしば関連している。その体験は最近のものであることも,幼いころの嘘や過失,若き日の妊娠中絶といった遠い過去のものであることもある。一方,過去の体験との関わりなく罪責妄想が生じることもある。患者は自らの罪や過失として何ら具体的なものを挙げることができないにもかかわらず,自分は悪人・罪人であるという考えに固執し,この世の苦悩は自分の罪のために生じるのだと思いこみ,さらには永劫の罰が下されることを予期するまでに至る。罪責妄想から被害的な妄想が展開することもある。また,自分の過失によって家族に不幸や迷惑が及ぶなどと考える例も多い。これらの要素が組み合わさると,たとえば「自分が魔法瓶を洗うのを怠ったせいで,そのお湯を飲んだ夫が癌になって死んだ。それをマスコミがかぎつけており,ヘリコプターを飛ばして自分の動向を探っている」などと訴えられる。


うつ病にみられる妄想は抑うつ気分から二次的に生じた妄想様観念ないし体験反応として,いわば「気分に一致した」妄想としてある程度は理解できる。たとえば,うつ病の患者が抑うつ気分や制止などの体験を,病気ではなく自分自身の過失や怠慢によるものとして捉えることが罪責感に,さらには罪責妄想に展開してゆくという見方である。しかし,微小妄想は発生や規模の点で了解可能な範囲を超えており,反応としては解釈しがたいという見方もある。退行期メランコリーでは原不安が露呈し,罪責妄想などの微小妄想が規模の点でも発生の点でも了解不能真正妄想として出現する。

 

(植野仙経)