関係妄想

delusion of reference(E), Beziehungswahn(D)

他人の何気ない言葉や態度,周囲の出来事を自分にとって特別な意味を帯びていると自分に関係づける妄想。本来,自分に関係のない事柄を自分に関係があると誤って確信する。たとえば,会社の同僚や近所の人たちが話をしているのを見て「あれは間違いなく自分のことを話しているのだ」と思いこんだり,電車やエレベーターなどに偶然に乗り合わせた人を,自分をつけ回している一味の者であると確信したりする。このように,関係妄想はネガティブな価値づけを帯び,被害的な妄想としばしば結びつく。しかし「あの人は私に好意を抱いているのだ」「人々は私の言動に注目しているのだ」などとポジティブな価値づけを帯び,恋愛妄想や誇大的な妄想に展開することもある。


関係妄想には,妄想知覚妄想着想の形式で,理由のない自己関係づけとして生じるものと,了解可能な動機から妄想様観念として生じるものとがある。たとえば刑務所から釈放されて故郷に帰った人が,人が自分を避ける,以前とは態度が違う,自分のことを噂している,といった着想を抱く場合である。このような了解可能な動機をもつ自己関係づけは,Jaspers, K. のいう妄想様観念,ないしSchneider, K. のいう妄想様体験反応である。


Kretschmer, E.1)はパラノイア研究のなかで,性格・体験・環境の三要因から発展する妄想を主とする病態の代表的なものとして敏感関係妄想 sensitiver Beziehungswahn を挙げた。感情の繊細さや傷つきやすさ,自らの内面を倫理的に監視する傾向といった無力性性格を基本としつつ,そこにある種の自意識に満ちた野心,自尊心といった強力性性格の要素がアクセントとして加わり独特の緊張関係をなしている性格を,敏感性性格という。


この敏感性性格の人に,性欲や恋愛感情に関する罪悪感や葛藤,対人状況での失敗,職業ないし社会的役割上の過失といった,倫理的敗北や羞恥心を呼び起こす不全感の体験(鍵体験)が生じる。すると,その体験を契機として注察妄想,被害妄想,関係妄想などが発展してゆく。これを敏感関係妄想と呼ぶ。


敏感関係妄想の病像は統合失調症と似ており臨床上の区別は難しい。敏感関係妄想が統合失調症の初期症状としてみられることもある。敏感関係妄想と統合失調症との関係であるが,Schneider, K.によれば、妄想の主題と内容が敏感性性格とその体験から了解できたとしても妄想の存在は了解できず、そこにはなにか「新しい」ものの介入が想定される。「敏感関係妄想」は体験反応性に誘発された統合失調症である3)。一方,Kretschmerは,敏感関係妄想と統合失調症などの内因性精神病とには,あらゆる移行形態,心理的動因と過程的動因のあらゆる組み合わせがあり,両者は明確な境界では区別できないという見解をとる。



(植野仙経)