更年期障害といえばホットフラッシュが有名ですが、手指のしびれ、知覚異常、関節痛、筋痛を呈することがあります。閉経後は手根管症候群のリスクが上昇することが知られています。
これらは卵巣機能の低下による身体的変化の影響が大きいです。そのため、40-50歳台でこわばりを自覚してきます。
非常によくある問題で、「関節リウマチのような病気ではないか?」と心配してリウマチ科を受診されるこの年代の女性は非常に多いです。
これまでに複数の医療機関を受診して、加齢、使いすぎという説明を受けたが、特に指を使いすぎたという自覚はなく、利き手と反対にも症状があるし、説明に納得していない方もいらっしゃるかと思います。実はこれらがホルモンの作用によるものと聞けば、ある程度納得いただけるのではないでしょうか。
閉経前後のホルモンの変化
閉経が近づいてくると卵巣機能の低下により、以下のような変化が起きます。
40歳台 女性ホルモンの量が不安定になってくる
45-55歳 女性ホルモンの急な低下
55歳以降 絶対的不足
閉経後の女性は、男性よりも女性ホルモン(エストロゲン)が低くなるとされています。
エストロゲン受容体にはERαとERβの2つがあり、生殖関係(乳腺、子宮)はERα、ERβは骨、滑膜、腱を含む全身各臓器に分布しています。
更年期に腱鞘炎や手根管症候群が多くなるのは、ERβを介したエストロゲンの作用低下によると考えられ、手根管症候群がホルモン補充療法により改善することも報告されています。またERβは骨粗鬆症、認知症、脂質代謝などにも関わりがあるとされています。
そこで女性ホルモンを補充すれば女性ホルモン欠乏症状は改善できるのですが、閉経後に女性ホルモンを補充すると乳癌や子宮癌のリスクがわずかに上昇します。また子宮筋腫や子宮内膜症がある方は悪化する可能性があります。そのためリスクと得られるメリットを勘案して治療を決める必要があります。
閉経後の女性ホルモン補充による乳癌や子宮癌のリスク上昇はERαを介したものでありますが、大豆イソフラボン(エクオール)は女性ホルモンと似た構造をしていますが、ERβへの作用が強くERαへは作用が少ないです。またERβはERαの作用を抑制することから、エクオールの摂取は腱鞘炎や手根管症候群へプラスの作用を持ちつつ、乳癌や子宮癌のリスクを上げないと考えられています。
エクオールの作用は女性ホルモンに比べると弱いため、更年期障害を「治す」というよりも「緩和する」というイメージの方が合うでしょう。エクオールでは効果を感じにくい時、婦人科で婦人科疾患の健診を受けた上でエクオールよりしっかり効果の出るホルモン補充療法を行うのが良いでしょう。
大豆を食べればよいのか?
サプリメントとしてエクオールを飲むべきか?
エクオールは40後半~50歳前半を中心とした年齢の女性で、更年期症状を自覚されている方には有効性が期待できます。
大豆イソフラボンを材料にして、腸内細菌がエクオールを体内で作ります。エクオールを作るタイプの腸内細菌を持っているかどうかで決まります。
•エクオールを作れる人⇒大豆製食品をとれば、エクオールを補給できます。
•エクオールを作れない人⇒エクオールをサプリとして飲む必要があります。
エクオール検査「ソイチェック」
大豆製食品を食べた後にどれくらいエクオールが体内で作られるかを、尿中のエクオールを測定して教えてくれるサービスです。これはヘルスケアシステムズという会社の製品です。
①Amazonなどでエクオール検査キット「ソイチェック」(4,000円程度)を購入
②オンラインまたは紙面で検査申し込みをする
③前日に大豆製食品を摂り、朝起きたら採尿し封筒に入れてへポストへ投函
④約2週間後に結果報告(オンラインまたは紙面)。5段階で判定。5はエクオールが理想量つくられている
エクオールを作る腸内細菌を持っている日本人は半数以下です。若い世代ではもっと少ないです。つまり、検査の結果エクオールが必要と判定される方の方が多いということです。エクオールが作れるタイプと分かったとしても大豆製品を食べるのが苦手だったり面倒で、手軽にサプリで摂取した方が楽だと考える方もいらっしゃるでしょう。そのような方はソイチェックを飛ばして、エクオールを飲むことにしてもよいでしょう。
エクオール製品について
いくつかの会社から製品が発売されています。
サプリを飲むのと同じ量のエクオール10mgの元になる大豆の量は、
豆腐2/3丁(200g)、納豆1パック(50g)、豆乳1杯(200g)です。
エクオールが作れる人の場合は、毎日これくらいの量を目安に食べましょう。
リウマチ科医としての経験上、エクオールは効く人にはとてもよく効きます。以前は保険で認められていないサプリメントを薬のように勧めるのはどうかなと思っていたのですが、よく効く人を目の当たりにして、今ではターゲットゾーンの方には積極的にお勧めしています。
ホルモン補充療法について
急にやめると、女性ホルモン作用が急に低下するため、更年期症状が急に悪化する場合があります。ホルモン補充療法は、更年期のホルモン低下に体がついてこない場合の緩和として行われます。全体で5年程度とし、その間に徐々の補充量を減らしていくのが良いようです。ただしホルモン補充療法ガイドライン2017年度版では、「ホルモン補充療法の投与継続を制限する一律の年齢や投与期間はない」と記載されています。
閉経後に女性ホルモンを補充すると乳癌や子宮癌のリスクがわずかに上昇します。また子宮筋腫や子宮内膜症がある方は悪化する可能性があります。そのためリスクと得られるメリットを勘案して治療を決める必要があります。
子宮がある人:エストロゲンとプロゲステロンを用いる。
例:ディビゲル連日+プロベラ(1か月のうち、7-10日)
例:ディビゲル連日+エフメノ
子宮がない人:エストロゲンを用いる。
子宮がある人にエスロトゲンだけを半年以上使うと、子宮がんのリスクが高くなります。
黄体ホルモン製剤を併用する必要があります。黄体ホルモンには内膜の増殖を防ぐ働きがあります。
子宮がある人にエストロゲンとプロゲステロンを用いた治療を行った場合、乳がんの発生率は1.28倍であった(治療あり 年率0.45%に対し、治療なし 年率 0.36%)。死亡数は増加していなかった。1)
子宮がない人にエストロゲンだけを使うと、乳癌の発生率は0.78倍に低下した(治療あり 年率0.30%に対し、治療なし 年率 0.37%)。1)
米国で行われた無作為化比較試験で、2つのやり方のホルモン補充療法(エストロゲン単独またはエストロゲン+プロゲステロン療法)の両者とも、全死因死亡率および全癌死はプラセボ療法と比較して増加していなかった。
参加者は1993-1998年に登録され、50-79歳、様々な人種の閉経後女性27,347人。
エストロゲン単独またはプラセボの治療期間中央値5.6年、エストロゲン+プロゲステロン療法の治療期間中央値は7.2年であった。累積18年観察された。
全死亡はホルモン補充療法群27.1%、プラセボ群27.6%であった(HR:0.99, 95%CI:0.94~1.03)。
CEE+MPAのプラセボに対するHRは1.02(95%CI:0.96~1.08)、CEE単独の同HRは0.94 (同:0.88~1.01)であった。
全癌死は、ホルモン補充療法群8.2%に対してプラセボ群8.0%であった。(HR 1.03, 95%CI:0.95~1.12)
ホルモン補充療法(エストロゲン)を行わない方が良い方
乳がん、子宮がん患者
血栓症、塞栓症
心不全、腎不全、肝疾患により水貯留(胸水や腹水)のある方
肝機能障害のある方
ホルモン補充療法(エストロゲン)を使うときに注意する必要のある方
子宮筋腫、子宮内膜症の患者
高血圧の患者
インスリンを必要としている糖尿病患者
ホルモン補充療法を実施中の注意事項
肝機能 影響は少ないのですが、長期間の投与では肝機能障害や胆石症の発症に影響が出ることがあります。
子宮内膜の細胞診と経腟超音波検査 子宮体(内膜)がんについて調べるために、子宮内膜の細胞診、子宮内膜の厚さや筋腫の有無、卵巣の状態などを調べるために経腟超音波検査を行います。性器出血があってもなくても行いましょう。
乳癌健診 HRTを行っていても行っていなくても、閉経後は乳がんのリスクが高くなりますので、早期発見のために、触診やマンモグラフィーの検査を受けましょう。また、月に1回は乳房の自己検診を行いましょう。
高齢者や高度の肥満者は頻繁に血栓の検査 血栓症のリスクが高くなります。足のむくみや痛みなど
その他の更年期障害の治療について
漢方が用いられることがあります。
当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸 などが用いられます。ほかにもいろいろあります。
冷え性でむくみやすい方に
→ 当帰芍薬散(当帰、川芎、芍薬、茯苓、蒼朮、沢瀉)
イライラしがちな方に
→ 加味逍遙散(柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷)
のぼせて足は冷える方に
→ 桂枝茯苓丸(桂皮、芍薬、桃仁、茯苓、牡丹皮)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2022年8月1日 深谷進司
参考文献
1) Chlebowski RT, et al. JAMA. 2020;324:369-380.
2)Manson JE, et al. JAMA. 2017;318:927-938.