ゼルヤンツ
(一般名;トファシチニブ)
(一般名;トファシチニブ)
ゼルヤンツは現在5種類あるJAK阻害薬の中で、1番最初に登場しました(2012年)。
JAK阻害薬は炎症の信号を伝えるJAKという中継物質の働きを抑え、関節炎を改善させる働きがあります。JAKを経由する炎症の信号は複数あり、同時に多数の炎症の信号を抑えます。JAK(ヤーヌスキナーゼ)の種類は4つあり、どのJAKを抑える働きが強いかによって、薬の効果や副作用の性質に違いが現れます。また、薬は肝臓で分解されるか、腎臓から尿中に排出されるかという点が大きく異なります。
ゼルヤンツはJAK1とJAK3を抑える作用が強く、肝臓と腎臓からそれぞれ排泄されます。腎機能が悪い(eGFR<60)場合や中等度以上の肝機能障害(肝硬変)がある場合は排泄が遅れ効きすぎて副作用のリスクが高まるため減量が必要です。さらに重度の肝・腎機能障害がある時は使用禁止となります。
内服薬としてはとても関節炎を抑える効果が高く、生物学的製剤と比べても同等の効果が期待できます。TNF阻害薬のアダリムマブと比較した臨床試験がありますが、有効性で同等でした(ORAL-Strategy試験)。1日2回の内服となります。他の製剤は1日1回で済むのでゼルヤンツの方が飲む回数が多くなります。
JAK阻害薬はメトトレキサートとの併用がそれほど重要ではなく、①メトトレキサートと併用した方が効果は高いですが、併用しない場合との差は小さいです。つまり、単独でも高い効果を発揮できます。ただし学会としては安全性を担保するためにメトトレキサートが十分量使える患者さんに対して使用することを推奨しています。
JAK阻害薬全般に免疫抑制作用がありますが、生物学的製剤と比べて帯状疱疹がでやすいです。通常量のゼルヤンツを100人が一年間使用した場合、7~9人に帯状疱疹が起きます1)。
また、ORAL surveillanceという試験でゼルヤンツとTNF阻害薬の発癌リスクや心血管事象のリスクが検討され、TNF阻害薬に比べて同等とは言い切れない、つまり癌の発生や心血管事象が少し多いかもしれないという結果が示されました。4年の観察期間において、癌はゼルヤンツで4.2%、TNF阻害薬使用者に2.9%発生しました。心血管系事象はゼルヤンツで3.4%、TNF阻害薬使用者に2.5%発生しました。このことから、癌の既往があったり心血管系が弱い人(動脈硬化があって血管が詰まるリスクがもともと高い人)は少し慎重になるべきかもしれません。これがゼルヤンツだけの特徴なのか、JAK阻害薬全般に言えることなのかは分かっていません。ゼルヤンツJAK3を抑えることを通じてIL(インターロイキン)-15の働きを抑え、その結果ナチュラルキラー細胞の増殖・分化を抑えてしまいますので、そのせいで癌のリスクが高まるのではないかと考える専門家もいます。
ゼルヤンツ(トファシチニブ)の費用と特徴のまとめ
4週分の値段は、1割負担で¥15,000、2割負担で¥30,000、3割負担で¥45,000
・高い効果。アダリムマブと同等。
・1日2回内服(他のJAK阻害薬は1日1回)。
・肝機能および腎機能が悪い時は減量が必要。高度の肝・腎機能障害の場合は使用不可。
・メトトレキサートを併用しなくても効果が高い(JAK阻害薬全般)。
・高額である(JAK阻害薬全般)。
・帯状疱疹が出やすくなる(JAK阻害薬全般)。
・癌や心血管系事象のリスクがTNF阻害薬よりも高い可能性がある。
以上、参考となれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
2022年8月15日 深谷進司
1) 帯状疱疹の発生頻度
http://www.toyama-ra.com/topic/wp-content/uploads/2018/03/8535fe65f5602011690f32ffa88deccb.pdf