関節リウマチ患者の血液では亜鉛が低いことが多数の研究で示されています(文献1)。
関節リウマチの病態に大きくかかわるインターロイキン6やTNF‐αを介した炎症により、金属結合蛋白であるメタロチオネインが誘導されることや、肝細胞上の亜鉛インポーターZIP14の発現が亢進することにより亜鉛は血漿から除去されます。
亜鉛は多くの蛋白質の働きに関わっており、免疫や炎症の制御にも関わりが強いです。
関節節リウマチの発症や悪化に関わると考えられている環境要因として歯周病と喫煙が知られていますが、亜鉛欠乏によってこれらの環境要因の影響を強くさせてしまう可能性があります。
亜鉛の粘膜防御や免疫調節作用を考えると、亜鉛欠乏により歯周病菌であるP.gingivalisの影響を受けやすくなると考えられます。ただし亜鉛補給による関節リウマチの発症予防や歯周病菌抑制の効果はまだ十分証明されていませんので、今後この分野の研究が発展することが期待されています。
たばこ中に含まれるカドミウムは、亜鉛の吸収を阻害します。毎日20本喫煙する場合、食事に含まれるカドミウム(21μg/日)の10分の1程度(1-2μg/日)を喫煙により追加で摂取することになります。ただし、この増加量はカドミウム耐容週間摂取量から考えると多くはありません(文献2)。
亜鉛欠乏が関節リウマチの状態に悪影響があるか、亜鉛のサプリメントを服用して関節リウマチの病状を改善させることができるかを評価した研究結果をみると、一定した結果が得られていません。現時点では、関節リウマチの方が積極的にふだんから亜鉛を積極的に摂取する根拠は乏しいように思います。以下のような症状があるときには、主治医に相談して亜鉛欠乏の有無をチェックしてもらうのが良いでしょう。
亜鉛欠乏症の症状 (文献3)
味覚障害、食欲不振、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、難治性褥瘡、発育障害、性腺機能不全、易感染性、不妊症などを生じます。
DNAが複製される際に亜鉛を含んだタンパク質が働きます。
したがって亜鉛が不足すると上記の様な細胞分裂が盛んな組織に障害が起きます。
亜鉛を直接測定し低値を確認する以外の亜鉛欠乏による血液検査値の異常としては、血液検査上アルカリフォスファターゼ(ALP)が低値を示します。
血清亜鉛の基準値(早朝空腹時に測定することが望ましい)日本臨床栄養学会
亜鉛欠乏症 60μg/dL未満
潜在性欠乏症 60~80μg/dL
基準値 80~130μg/dL
亜鉛の1日摂取量と補給
一日の必要摂取量は、成人男性11mg、成人女性は8mgです。妊娠・授乳中は必要量が多くなります(参考文献4)。
亜鉛欠乏症はノベルジン®(酢酸亜鉛水和物)で治療します。亜鉛として1日150mg(最大250mg)を服用します。胃潰瘍治療剤であるプロマック錠®(ポラプレジンク)にも、1日量で亜鉛が34mg含有されています(ノベルジンがない時代には、これで代用していました)。服用した亜鉛の30%が吸収されるとされています。
食品では、牡蠣、赤身肉、鶏肉、カニやロブスターなどの魚介類および朝食用栄養強化シリアル類、豆類、ナッツ類、全粒穀などに多く含まれます。
文献
J. Trace Elem. Med. Biol. 2019;56:81–89.
厚生労働省「食品に含まれるカドミウム」に関するQ&A
日本臨床栄養学会 亜鉛欠乏症の診療指針 2018年
厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 「亜鉛」の項
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。
2023年11月6日 深谷進司