関節リウマチは女性に多い疾患で、妊娠可能年齢の女性が罹患することも少なくありません。結婚、妊娠、出産といった人生の一大イベントにとって病期がどう影響するのか不安に思われるのではないかと思います。関節リウマチの活動性と妊娠への影響、妊娠中の治療薬の使用は胎児に影響があるか、について記載します。
日本人全体で晩婚化、晩産化が進んでおり、治療を優先している間に妊娠可能年齢を逃してしまわない様に、早いうちから家族計画について主治医と話し合っていきましょう。
欧州リウマチ学会が発表している全体的な考え方を示します。
妊娠前、妊娠中、授乳中の基本的考え方
欧州リウマチ学会 推奨文2016年版(患者目線で読みやすいように改変しています)
A. 家族計画について指導を受け、妊娠は計画的に行い、必要ならば妊娠前に治療の調整をする
B. 妊娠前、妊娠中、授乳中の治療は、母が健康であり、胎児あるいは乳児に害がないように配慮する。
C. 妊娠中は、病期の治療薬を使うことのリスクと、母親が病気を治療しないことで母の健康状態が悪化することのリスクを比較して判断する
D. 妊娠および授乳中の薬剤治療は、内科/リウマチ専門医、産婦人科および患者、他の医療提供者とよく話し合って決める
妊娠・出産のための治療の最適化・準備
妊娠が判明してから慌ててリウマチ治療への影響を考えるのではなく、
計画的に妊娠・出産に適した治療を合わせていきましょう。
関節リウマチの活動性と妊娠
関節リウマチの患者さんでは、一般人口と比べて不妊の割合が多いと言われています。その一つの原因として
不妊に関係あるもの
加齢、疾患活動性、NSAIDs、ステロイド(プレドニゾロン)7.5mg/日以上の使用
不妊に関係なかったもの
喫煙、罹病期間、抗CCP抗体やRFの有無、サラゾスルファピリジン、メトトレキサート使用は関係ない、
関節リウマチの状態が良くないと、妊娠しづらくなります。以下の表は、リウマチの状態を寛解~高疾患活動性の4つに分けて、妊娠できなかった患者の割合をみています。線が下にいくほど希望していても妊娠しなかった人が少ないことを示します。疾患活動性が高ければ高いほど妊娠しづらいことがみてとれます。ですから妊娠を希望した時は、まずは関節リウマチの状態を良い状態にすることが先決です。
妊娠の関節炎への影響
妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンといった性ホルモンが増加し、炎症が収まる方向に働くことから、関節の炎症は妊娠前よりも改善することが多いです。6割の方が改善、2割不変、2割悪化、という報告があります。
出産後には、上記2つのホルモンは低下することでプロラクチンというホルモンが相対的に多い状態となり、炎症が起きやすくなります。そのため出産後は関節炎が悪化することが多いです。1割の方が改善、2割不変、7割悪化、という報告があります。3)
妊娠希望/妊娠中の治療
メトトレキサート
生物学的製剤とJAK阻害薬
ステロイド
従来型合成抗リウマチ薬
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
メトトレキサート
関節リウマチ治療の中心的治療薬であるメトトレキサートは、流産や先天奇形の確率が3倍程度に上昇するため妊娠計画中や妊娠中は使えません 1)。関節リウマチ治療の中心的位置づけであることや価格も比較的安価なため、若い方でも妊娠を考えるまでは内服している方は多いです。妊娠を希望するようになったら医師と相談して、妊娠中でも継続できる薬に計画的に変更しておきましょう。
生物学的製剤とJAK阻害薬
生物学的製剤のうち、TNF阻害薬の「エンブレル」と「シムジア」は胎盤を通る量が非常に少ないため胎児への薬剤暴露が少なく、妊娠中も使用しやすいと考えられています。そのほかの生物学的製剤(エンブレルとシムジア以外のTNF阻害薬、オレンシア、IL6阻害薬)は妊娠前に中止しておくか、妊娠が判明したら中止するのが望ましいです。JAK阻害薬も妊娠中の使用について安全性が確認されていないため、妊娠前に中止する必要があります。
オゾラリズマブ(TNF阻害薬)も胎児血への移行は3%強と少ない
ステロイド
ステロイドの妊娠中使用、胎児への影響
ステロイドを使用中の母乳を介した乳児への影響
母乳への移行による乳児への移行は、母体の血中濃度に対して乳児の血球濃度が10%以下なら安全と考えらえています。プレドニゾロン(=プレドニン®)の場合母体の血中濃度の0.35-5.3%、メチルプレドニゾロン(メドロール®)は0.46-3.15%ならにしかならず、高用量で使用した場合の乳児への悪影響は示されていません。継続的にプレドニゾロンを40mg/日服用する場合は、数時間あけてから授乳するという方法もあります。4)
従来型合成抗リウマチ薬
タクロリムス(プログラフ®)、アザチオプリン(イムラン®、アザニン®)、サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN®)は妊娠中に服薬を継続しても差し支えないと考えられています。サラゾスルファピリジンを使用するときは葉酸が不足しますので1日2mgの葉酸を補充しましょう。
非ステロイド性消炎鎮痛剤 (NSAIDs)
NSAIDsはプロスタグランジンを阻害して鎮痛効果を発揮する薬剤です。妊娠初期のNSAIDs使用により、着床に関与するプロスタグランジンを阻害することによって着床を阻害され流産リスクが増加します(アセトアミノフェンはリスク増加なし)。またNSAIDsによる胎児の腎機能障害、尿量減少、羊水過少のリスクが指摘されています。
また、妊娠後期(28週以降)でもNSAIDsの使用により動脈管早期閉鎖という胎児の血液循環の問題が起こりやすくなります。胎児の心不全や死亡など影響が大きいため、妊娠後期ではNSAIDsの使用は禁止です。
費用について
茨城県のマル福という制度で、妊婦は外来診察代が最大600円、薬代は無料になります。茨城県のホームページをみると、「母子手帳の交付を受けた方で、妊娠の継続又は安全な出産のために治療が必要となる疾病又は負傷の場合に限る。(妊娠届出日の属する月の初日から出産日の属する月の翌月末日まで) 」と書かれています。この間の関節リウマチ・膠原病治療もこの制度による補助に含まれます。ただし市町村によっては所得制限があります(つくば市の場合は年間所得622万円以下の場合に適用される:つくば市のマル福説明ページへ)。妊娠・出産にあたりなにかと出費がかさむ心配があろうかと思いますが、この制度を利用して必要な治療を中断しないようにしましょう。
2022年6月26日 深谷進司
参考文献
1) Park-Wyllie L et al. Teratology. 2000;62(6):385-392.
2) Cowchock FS et al. Am J Obstet Gynecol 1992;166:1318-1323
3) Barret JH et al. Arthritis Rheum 42:1219-1227,1999
4) アウトカムを改善するステロイド治療戦略 岩波慶一編 日本医事新報社