リウマチ因子(RF;Rheumatoid factor)
とは何か
RF
リウマチ膠原病内科には健診でリウマチ因子(RF)が高いと指摘された、というご相談を多く受けています。
「リウマチ」というキーワードが入っているため、この数値が高く出た場合は、
・リウマチなのではないか?
・リウマチだとしたら、早く診断を受けて治療を始めないと関節が変形してしまうのではないか?
と心配されて受診される方も多くいらっしゃいます。
リウマチ因子は自己抗体の一種で、免疫の異常が起きていることを示唆していますが、すなわち関節リウマチが見つかる可能性が高いわけではありません。
検診で指摘されたため2次検診として受診される方を見ていますが、多くの方は自分では症状を感じていません。たまたま検診で言われたから不安になって来てみた、あるいは血縁者にリウマチの方がいる場合は自分もリウマチになったのではないか、とおっしゃいます。しかし私の経験ではそのようなルートで受診した方の中に関節リウマチが見つかったケースはとても少ないです。
リウマチ学会のホームページにある一般向け情報にも、専門医への相談のポイントとして、「RFが陽性、高値であっても患者が無症状の場合には、必ずしもで専門医へ相談をする必要はありません。」と記載されています。
強調したいのは、関節リウマチはあくまで関節は腫れて痛むといった“症状ありき”の疾患であるということです。ですから症状がない人がリウマチを心配する必要はほとんどないのです。この点で症状がなくても治療を考える糖尿病や高コレステロール血症などとは明確に異なります。
ではなぜ関節リウマチでもないのにリウマチ因子が陽性となってしまったのか?
リウマチ因子は関節リウマチの患者さんで陽性となる他に、感染症や肺、肝臓疾患、いくつかの膠原病で陽性となることがあります。それらは多くの場合、別の検査値異常や症状があらわれますから、RFだけが病気発見のきっかけになることは少ないですが、一応それらについて考えてみる必要があります。
リウマチ因子が陽性になりうる疾患と頻度 (引用文献1)
関節炎が起きる病気
関節リウマチ 70~90%
乾癬性関節炎 <15%
反応性関節炎 <5%
その他の膠原病
シェーグレン症候群 75~95%
混合性結合組織病 50~60%
全身性エリテマトーデス15~35%
全身性強皮症 20~30%
皮膚筋炎・多発性筋炎 20%
血管炎(PAN、GPA) 5~20%
感染症
亜急性細菌性心内膜炎 40%
梅毒 8~37%
結核 15%
コクサッキーBウィルス 15%
デングウィルス 10%
EBV/CMV 20%
A、B、C型肝炎ウィルス 25%
C型肝炎ウィルス 40~76%
ヘルペスウイルス感染症 10~15%
HIVウィルス 10-20%
麻疹ウィルス 8~15%
パルボウィルス 10%
風疹ウィルス 15%
寄生虫疾患 10-25%
その他の疾患
混合性クリオグロブリン血症II型またはIII型 100%
肝硬変症 25%
原発性胆汁性胆管炎 45∼70%
悪性腫瘍 5∼25%
ワクチンの後 10∼15%
サルコイドーシス 5∼30%
50歳の健常人 5%
70歳の健常人 10-25%
※コメント
・感染症でみられるRFは通常一過性で、有害ではなく、感染症からの防御のために役立つと考えられいます。
・C型肝炎ウィルス感染症では持続的な免疫系への刺激によりRFが上昇していると考えられています。
・健常人でみられるRFの力価(数値の高さ)は、通常低~中程度です。健常人でも高齢になればなるほどRFがみられる割合が増えてくることがわかっており、加齢による適切な免疫制御からの逸脱を反映していると考えられています。
上記を考慮してみても当てはまるものがなく特に体調に異常がなくリウマチ因子のみが陽性ということであれば、病気としての意味合いはほとんどないと考えてよいでしょう。実際に健康な方でも若年者の4%、75歳以上では25%が陽性となるとされています。
リウマチ因子は、多くの原因で高値を示します。
さて、関節の痛みや腫れがあるという方は、もう一つの血清因子である“抗CCP抗体”も測定してみる必要があります。実は抗CCP抗体の方が関節リウマチと関係が深く、抗CCP抗体が陽性の場合は現時点ではっきりと関節リウマチと診断されなくても、将来的に関節リウマチと診断される確率が比較的高いです。
(だから健診で調べるのはRFではなく抗CCP抗体にすればよいと思うのですが、なぜかそうなっていません)。
ある調査では、健診受診者のうち11%程度の方がリウマチ因子陽性となりましたが、そのうち抗CCP抗体が陰性の場合は0.9%の方のみが将来関節リウマチと診断されました。しかしリウマチ因子と抗CCP抗体の両方が陽性の場合、約30%が将来関節リウマチと診断されました(下図)。
また別の調査では、実際に関節の症状があって医療機関を受診した人ではリウマチ因子と抗CCP抗体が陽性であれば、80%と高い確率で将来関節リウマチと診断されています(下図)。
PROMPT study. Arthritis Rheum. 2007 56(5):1424-32
左図は抗CCP抗体陽性。右図は抗CCP抗体陰性。
実線はプラセボ、点線はメトトレキサート
診断未確定関節炎の抗CCP抗体が高値の人が、プラセボまたはメトトレキサートを12か月まで使用したところ、プラセボ使用者では90%が関節リウマチを発症したが、メトトレキサートを使用した人では20%しか発症しなかった。しかし12か月以降にメトトレキサートを中止すると、30か月までに70%近くの人が関節リウマチを発症した(30週以降に分かった分を含めると最終的に83%が関節リウマチを発症した。
一方で、抗CCP抗体陰性の診断未確定関節炎ではメトトレキサートを使用してしなくても(プラセボでも)、関節リウマチの発症はさほど変わらず、4割程度の人が関節リウマチと診断された。
診断未確定関節炎の方にメトトレキサートを使用すると、発症を遅らせることはできたが、最終的な発症は減らせなかった、と結論づけた。
上記の研究結果からは、関節の症状がない状態でRF高値を指摘されても現在の関節リウマチの診断や将来の予測にあまり役立たないようにみえる一方で、RFが高値の場合は将来の関節リウマチ発症予測に役立つとする論文もあります。
デンマークで9000人超の一般人を対象として大規模に行われた研究で、特に関節リウマチの発症リスクが高い要素が重なった集団(RFが100以上、関節リウマチの後発年齢である50-69歳、女性、喫煙あり)からは、10年間での関節リウマチ発症率は32%と高かったのです(引用論文2)。短期ではRF高値であることは将来の発症予測材料にはなりにくいものの、長期には関節リウマチの発症リスクになることが読み取れます。RFが正常値を超えていても少しの上昇ならばあまり気にする必要はないものの、RFが特に高値(100以上)や抗CCP抗体が高値と分かった場合は注意が必要です。
RFは何度も測定するべきか
発症早期の関節リウマチの方では、RFは50%の方に検出され、関節リウマチ患者全体では70-80%にみられることと比べると低いです。つまり発症初期にはRFが上昇しておらず、遅れて上昇してくることがあるということです。そのため、関節リウマチを疑って検査したがRFが陰性の場合でも、再度調べてみる価値はありそうです。
また、治療によってRFの値が上下する場合と、しない場合があります。病気の活動とRFの値の動きが一致することは必ずしも多くはないため、一部の人を除いて頻回にとる必要はありません。リウマチ性間質性肺炎やリウマチ性血管炎(悪性関節リウマチ)の場合などでRFが高値の場合、活動とRFの値の動きが連動することがあり、その場合は定期的に調べる価値があります。一般的なRF定量(IgM-RF)よりも、IgG-RFの方が活動性を反映するとされています。
関節リウマチが発症するのではないかと心配な方へ(予防)
関節リウマチの発症には、体質(特定の遺伝子型=HLAを持つ)、喫煙、歯周病が関わっています。近い親戚に関節リウマチの方がいる場合は一般人よりも数倍関節リウマチになる確率が高いと言えます。少し自分の関節の具合に注意して、症状があれば実際に診察を受けてみることをお勧めします。またそのような方は喫煙習慣や歯周病があれば、禁煙・歯周病ケアをしておくと関節リウマチの発症予防になるでしょう。なお上記のような遺伝子型を調べることは現在の臨床現場において一般的ではありません。特定の遺伝子型をもつことと抗CCP抗体が陽性であることはかなり重なりが大きく、抗CCP抗体が陽性であればHLAを持つ可能性が高いといえます。直接HLAを調べたい場合、自費ならば数万円の費用で調べることができます。
参考資料;様々なRFの種類と特徴
RF定量(IgM-RF)
ラテックス凝集比濁法 正常 15 IU/ml未満
一般的に言うリウマトイド因子はこれを指します。
リウマトイド因子(Rheumatoid Factor;RF)は変性したIgGに対する自己抗体であり、凝集反応によるリウマトイド因子の検出は凝集力の強いIgMクラス(IgM-RF)を検出している。対応抗原として変性ヒトγ-グロブリンを用いた免疫比濁法である。
抗ガラクトース欠損IgG抗体定性(carbohydrate in reumatoid factor; CARF)
ECLIA法
抗ガラクトース欠損IgG抗体定量
レクチン酵素免疫測定法
関節リウマチ患者のIgGの糖鎖には、ガラクトースが欠損していることが著明に多いことが明らかとなっています。抗ガラクトース欠損IgG抗体精密測定は、この糖鎖の異常を持つIgGと特異的に反応するリウマトイド因子です。すべての免疫グロブリンのサブタイプを検出できるため感度が高くなります。従来のリウマトイド因子測定法(RF定量、RAPA)で陰性の関節リウマチ症例の約半数で陽性となり、早期関節リウマチ患者の診断の補助として用いられます。CARFの関節リウマチに対する感度は80-90%です。
IgG型RF(IgG-RF)
IgG-RFは、一般に検査されるIgM-RFに比較して陽性率は低いが特異度は高い。また、IgG-RFはIgGに対するIgGなので自己連結を起こし免疫複合体を形成し、病態に寄与する。関節リウマチの活動性や、リウマチ性間質性肺炎、リウマチ性血管炎(悪性関節リウマチ)などの関節外病変との関連も示唆されており経過観察に有用と考えられる。一方IgM-RFは免疫複合体性病変の発症を増強的に、または逆に防御的に働くという二面性の意義が推定されている。
RAテスト・RAPA・RAHA
RAテスト ;ラテックス凝集法 正常 陰性(-)
RAPA ;粒子凝集試験 正常 40倍未満
RAHA ;粒子凝集試験 正常 正常 40倍未満
定性検査でスクリーニングに使用されていたが、今はほとんど使用されない。
参考資料;発症早期関節リウマチを対象とした臨床試験
血清反応の有無が薬剤中止および生物学的製剤の反応性に影響するか?
血清反応陽性(RFや抗CCP抗体のいずれかが陽性であること)はいくつかの生物学的製剤の反応性と関連しています。
血清反応陽性の患者では陰性の患者と比較して薬剤中止にいたる危険性はTNF阻害薬で1.01倍 (95% CI 0.95, 1.07)、トシリズマブで0.89倍、アバタセプトだと0.80倍、リツキシマブだと0.70倍でした(下図)。
血清反応の有無による治療効果への影響は、TNF阻害薬では影響なし、トシリズマブ<アバタセプト<リツキシマブの順で血清反応陽性の方が高い効果が見られました。 参考文献(4)
しかし別の論文では、TNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ)への治療反応性は、RF陰性の患者の方がRF陽性患者よりも高いという結果でした。(文献5)
また別の論文では、TNF阻害薬はRFの高さと反比例していたと報告しています。アダリムマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブ、エタネルセプトの効果に関して、治療開始前のRFが陰性の方が陽性の場合よりも効果が高く、陽性であってもRFが低い方が高いよりも効果が高かったとしています(発症後6ヵ月以上の関節リウマチ患者に対するTNF阻害薬の効果の評価)。
ほかの生物学的製剤では、リツキシマブ、トシリズマブの効果はRF陽性の方が高かったが、アバタセプトの効果はRF陽性かどうかに関係しなかったと報告しています(文献6)。
ただしこの論文の解析では統計学的に差が示されなかったものの、アバタセプトの効果もRF陽性患者さんの方がRF陰性患者さんに比べてやや効果が高い傾向にあります。
RFの多くはIgM型抗体で、5個の抗体をつなげたような形をしています。RFが認識するものは、IgG抗体のFc部分(抗体のおしりの部分)です。RFには5x2=10カ所のFcと結合できる部分があります。RFはIgGと結合したあと、細胞の中に取り込まれて消化されます。つまり、RFが多いとIgGも早く除去されます。この仕組みによって、RFが高い患者さんでは抗体製剤が利きにくくなるのではないかと考えられています。
一方で、下図の様に抗TNF抗体の形を改変した薬であるセルトリズマブ・ぺゴル(商品名シムジア®)では、Fc部分がありません。そのためRFによって除去されることがなく、RFが高くても効果が弱まらないと報告されています。
RFが高い方でTNF阻害薬の中から治療薬を選ぶときは、シムジア®が良い候補になるでしょう。
引用文献
(1) Dis Markers. 2013; 35(6): 727–734.
(3) Arthritis Rheum. 2007 May;56(5):1424-32.
(4) Courvoisier DS et al. Rheumatology (Oxford). 2021 Feb 1;60(2):820-828.
(5) Ann Rheum Dis. 2009 Jan;68(1):69-74.
(6) Semin Arthritis Rheum. 2013;43(1):9–17.
最後まで読んでいただきありがとうございます。
記事作成 2022年3月5日(2023年1月2日・2023年12月14日・2024年12月4日追記) リウマチ専門医 深谷進司