患者の皆さんは、”リウマチの良くない状態”と聞けば、どんな状態を想像するでしょうか。
痛みがあること、生活や仕事が妨げられること、美容的な問題を感じること・・・などでしょうか。
リウマチの治療は1999年のメトトレキサート承認、2003年の初めての生物学的製剤の発売、2013年の初めてのJAK阻害薬の登場が貢献して、20年前と比べて劇的に改善しました。その結果、現在のリウマチ患者さんの7-8割の方は、寛解か低疾患活動性という状態にまで改善しています。
しかしそれでも、一定の割合で満足な状態に至っていない患者さんがいるのも事実です。
様々な薬の種類がある中で標準的な治療を進めていっても、満足いく状態まで改善していない(できない)患者さんにフォーカスして問題に取り組もうという動きが出ています。
2021年の論文で、欧州リウマチ学会がこの患者さんの像(Difficult-to-treat RA;難治性関節リウマチ)を定義しました。
難治性関節リウマチ 欧州リウマチ学会(EULAR)の定義 (引用文献1)
以下の1,2、3のすべてをみたすものを、治療困難関節リウマチとする。
1.欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨に従った治療を進めていても、従来型抗リウマチ薬による治療でうまくいかず、作用機序の異なる2種類以上の生物学的製剤/JAK阻害薬による治療でもうまくいっていないもの※4
2. 以下の少なくとも1つの活動性/進行性の徴候を認めるもの
a. 少なくとも中疾患活動性がある ※1
b. 活動性疾患を示唆する徴候および/または症状がある ※2
c. ステロイドをプレドニゾロン換算で7.5mg/日未満に漸減することができない
d. 急速なレントゲン上の関節破壊の進行(疾患活動性徴候があるなしに関わらず) ※3
e. 上記の標準治療を行っていて疾患のコントロールが良いにも関わらず、関節リウマチによる生活の質を低下させる症状を有する
3. リウマチ医および/または患者により、徴候および/または症状の管理がやっかいだと認識されている
※1 DAS28-ESR > 3.2またはCDAI > 10
※2 関節の症状以外も含む
※3 シャープスコア 5/年の進行
※4 社会経済的要因により治療が制限されている場合は除く。わかりやすさのため、csDMARDs→従来型抗リウマチ薬、bDMARDs→生物苦学的製剤、tsDMARDs→JAK阻害薬と原文から書き換えています
専門家の意見として、関節リウマチ患者さん全体の1割程度の方がこの基準に該当すると考えられています。そのほかにも経済的な理由や合併症などの理由で生物学的製剤やJAK阻害薬を関節炎寛解という治療目標の達成には本来必要だけれども実際には使えない方も含めると、2-3割の方が広い意味での治療困難状態に陥っていると考えられます。
多様な患者さんの中で治療困難RAに含まれる要因には、
抗リウマチ薬に対して効きが悪く、炎症が持続すること
副作用や併存疾患のため抗リウマチ薬の選択肢に制限がかかること
治療方法を守らないこと
などがあげられます。
欧州リウマチ学会からこの定義に基づいて、現時点で考えられるポイントがまとめられています(3)。以下にいくつかピックアップして記載します。
当然のことですが、医師と話し合って決めた治療を守らなければいい結果が生まれるはずはありません。治療がうまくいかない場合、本当はただ薬を使っていないだけなのに治療が効いていないと判断され、治療内容が不必要に変更されてしまうかもしれません。治療をきちんと受けようとしてもできない場合は、どうすればよいか相談しましょう。また治療内容に疑問があれば、再度医師とよく話し合いましょう。
治療困難関節リウマチとされる中には、線維筋痛症や変形性関節症、あるいは心理的な要因による炎症性でない症状(痛み)が炎症活動に似た症状として現れている可能性があります。
治療が効果的ではない場合、関節リウマチの診断自体を見直す、あるいは非炎症性の症状を炎症とみなしている可能性を考えるべきです。炎症の活動の有無をはっきりさせるために、関節エコーは有用な方法です。体の負担も少なく費用も高くありません。
また、機能障害、痛み、疲労を減らしてうまく付き合うために、薬以外の方法、つまり運動療法、心理学的手法、教育、自己管理を取り入れると良いです。
教育の中には、治療目標を明確に”寛解”とし、そのための治療選択肢をよく医療者と共有して知っておくことを含みます。
心理的手法には、自己効力感を高めるための取り組み、リラックス法、認知行動療法などを含みます。
治療困難関節リウマチは、その言葉通り簡単には解決しない問題です。これからも重要な課題として議論されていくものと思われます。新しい情報がありましたら、随時更新していきます。
参考文献
(1) Nagy G. et al. ARD. 2021 80(1):31-35
(2) Ochi S et al. Clin Exp Rheumatol. (2021) 40:86–96.
(3) Nagy G. et al. ARD 2022 Jan; 81(1): 20–33.
2022年12月31日 深谷進司