新しいリウマチ治療のジャンルとして期待されている、「JAK阻害薬」について紹介します。
JAK阻害薬は、生物学的製剤と同等かそれ以上に効果があるのに加え、内服薬であるという点が大きなメリットです。
生物学的製剤が一つだけの炎症物質をばちっと抑えるのに比較して、JAK阻害薬はヤーヌスキナーゼ(Yanus kinase;JAK)という分子を阻害して炎症のシグナルを止めます。
たくさんの種類の炎症の信号がJAKを経由しており、JAK阻害薬はそれらの信号を同時に抑えます。
そのため、生物学的製剤の効果が不十分な方でもJAK阻害薬が効くこともあります。
現在、以下の5種類目のJAK阻害薬が発売されています(2022年3月現在)。
ゼルヤンツ® (トファシチニブ)
オルミエント®(バリシチニブ)
スマイラフ® (ペフィシチニブ)
リンヴォック®(ウパダシチニブ)
ジセレカ® (フィルゴチニブ)
※発売された順
これらのJAK阻害薬同士の違いについては、薬の排泄経路(腎臓から尿に出る、肝臓で分解されるなど)が一つのポイントです。
効果の面では、どの薬もよく効きますが、細かくみるとやや長短あるようです。例えば臨床試験において関節破壊の抑制効果が既存薬と比較して優れていることを示せているかどうかは若干薬剤により異なります。ただし効果を直接比較した公式データはありません。
副作用の面では、免疫力低下、特に帯状疱疹のリスクが上昇します。JAK阻害薬を使いたいけれども帯状疱疹が心配、という方は帯状疱疹ワクチンをうけることをお勧めします。帯状疱疹がどんなものか事前に把握して、でたら早く抗ウィルス薬をのむのが良いでしょう。
妊娠を希望している場合、安全性が確認されていないため妊娠中は使用できません。
血液検査でクレアチンキナーゼ(CK)値の上昇などがみられることがあります。原因ははっきりと解明されていません。数値が上昇しても実害が起きることはほとんどないようです(わずかな横紋筋融解症の報告があるのみ)。
日本人は特に帯状疱疹になりやすくJAK阻害薬を使うと1年で100人中7-13人くらいが帯状疱疹を発症するため、帯状疱疹の見た目を知っておき早期発見・早期治療を心がけること、帯状疱疹のリスクを約10分の1に下げる帯状疱疹ワクチンとセットで使用することをお勧めします。 参考「ワクチン」の記事へ
2019年のヨーロッパリウマチ学会の推奨では、生物学的製剤とJAK阻害薬は同等に扱うことになっていました。しかしトファシチニブ(ゼルヤンツ®)とTNF阻害薬との安全性を比較検証した臨床試験が2021年に発表されました。その結果によると心血管イベントと癌の発生の点でトファシチニブがTNF阻害薬に比べて安全性が負けていない(非劣勢といいます)ことを証明できませんでした。そのため、JAK阻害薬の使用優先順位は患者の条件によっては生物学的製剤よりも低く位置づけられるようになっています。
ヨーロッパリウマチ学会から出された2022年の最新の推奨1)によると、JAK阻害薬を使用する場合は心血管イベントや悪性腫瘍のリスクを考慮するべきで、以下の①-⑤の要素を持つ患者では先に生物学的製剤の使用を優先し、ほかに優先するべき薬剤がない場合にJAK阻害薬を使用するような薬剤の優先順位付けを勧めています。一方でこれらの要素を持たない患者では、TNF阻害薬とJAK阻害薬の間に安全性に関する違いが見いだせないため、薬剤の優先順位付けは決める必要はないとしています。
①65歳以上
②過去または現在の喫煙
③心血管リスク(糖尿病、肥満、高血圧症)
④悪性腫瘍リスク(完治した悪性黒色腫以外の悪性腫瘍の既往または罹患中)
⑤血栓塞栓症リスク(心筋梗塞または心不全の既往、悪性腫瘍、遺伝性血液凝固異常、血栓症既往、経口避妊薬、ホルモン補充療法、大手術を受けたばかり、不動)
トファシチニブ以外のJAK阻害薬では癌や血栓症のリスクに関する同様の大規模研究が行われていないためデータがありません。バリシチニブ(オルミエント®)も血栓症のリスクが高まるかもしれないという懸念を持たれています。ほかの薬剤も同様の傾向がないとは言い切れないとされています。
それぞれの薬の特徴
ゼルヤンツ® (トファシチニブ)
通常10mg/日 1日2回にわけて内服
肝代謝と腎排泄が半々
JAK1 ,JAK3阻害作用が強い
アダリムマブとの比較をみたORAL strategy試験では、アダリムマブ+MTXに対して、ゼルヤンツ+MTXの非劣勢を示した(ほぼ同等の効果)。あとから発売されたJAK阻害薬ではアダリムマブに対して優越性を示した薬もあるので、今となってはやや物足りなさを感じる。
ORAL surveillance試験で、ゼルヤンツ®とTNF阻害薬を比べた場合、悪性腫瘍と重要な心血管イベントの発生率がTNFに劣らず少ないことを示せなかった。つまり相対的に悪性腫瘍と重要な心血管イベントのリスクが高いことが示された。これがJAK阻害薬全体に当てはまるのか、ゼルヤンツ®だけの特徴なのかはわかっていない。
オルミエント®(バリシチニブ)
通常4mg/日 1日1回内服
腎排泄(eGFR 30-60:半量に減量する、eGFR<30:使用不可)
JAK1 ,2 阻害作用が強い
効果が発揮されれば、半量に減らしてもうまくいくことが多い、というデータがある。
スマイラフ® (ペフィシチニブ)
通常150mg/日 1日1回内服
肝代謝
※ほかに肝臓で分解される薬剤を併用している場合、相互作用に注意する必要あり。
JAK1 ,2, 3, TYK2(すべてのJAK) 阻害作用が強い
リンヴォック®(ウパダシチニブ)
通常15mg/日 1日1回内服
肝代謝(腎臓が悪い方でも蓄積しない)
※ほかに肝臓で分解される薬剤を併用している場合、相互作用に注意する必要あり。
JAK1 ,2 阻害作用が強い
アバタセプト(オレンシア®)との比較で、総合疾患活動性指標であるDAS28-CRPでリンヴォックが優越性を示している。ただしCRPの低下には大きく差をつけてリンヴォックが優っていたが、主観的改善や疼痛の改善の差はあるものの少なく、腫脹関節の改善にはほとんど差がみられていない。参加した患者の抗CCP抗体陽性率は60%強とやや少ない。オレンシアは抗CCP抗体陽性の方に対して強みを発揮するので、それが少ないのはややオレンシアに不利ではある。また、リンヴォックの方が副作用が多かった。
N Engl J Med 2020; 383:1511-1521
ジセレカ® (フィルゴチニブ)
通常200mg/日 1日1回内服 (eGFR 15-60の間の方は、100mgに減量して開始)
腎排泄(eGFR15以下の場合使用不可。eGFR 15-60:100mgに減量。)
JAK1 阻害作用が強い
ジセレカ200mg+MTXとアダリムマブ+MTXの比較で、ジセレカがJAK阻害薬として初めて、アダリムマブよりも骨破壊の抑制に優れていることを示した(FINCH 1試験)。
直接JAK阻害薬同士を比較した検討ではないため単純比較はできないが、臨床試験において報告されている帯状疱疹の発生がJAK阻害薬の中では少ない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2022年6月29日 深谷進司
1) Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis 2022; 0:1–16.