メトトレキサート(Methotraxate; MTX)は、関節リウマチ治療を語る上で、きわめて大事な薬です。
この薬はリウマチ治療の中心役であり、使用できない理由がない限りまず最初に使用すべき薬剤と位置付けられています。
当院では関節リウマチ患者さんのおよそ6-7割の方がメトトレキサートを使用中であり、その半分の方はこの薬だけで治療目標を達成することができます。
このように正しく使えば効き目が良い割に、費用も比較的リーズナブルです。
しかし飲み方がやや煩雑なため、病院まかせにせず患者さん自身が正しく理解しておく必要があります。
葉酸の働きを抑えることで効果を発揮します。
葉酸を抑えると、関節の中で活発に働いて炎症を起こしている細胞が減って、活動も減ります。これにより、関節炎が治まります。
葉酸をずっと抑えたままだと、胃腸の調子や血球にも影響してくるため、時間差をつけて葉酸を補給します(メトトレキサート8mg/週以上の場合)。
食事中の葉酸は気にする必要はありませんが、葉酸入りのサプリメント、特にクロレラと青汁には葉酸が多量に含まれているため、メトトレキサートの効果が落ちてしまいます。サプリメントを使用したいときは主治医と相談して決めてください。
メトトレキサートの正しい飲み方①
良い薬ではありますが、決められた曜日だけ内服する必要があり(下図)、多く飲みすぎてしまうなど誤った飲み方をすると副作用が出てしまう可能性があります。
また普段正しく飲めていても、体調不良の時には服薬をお休みするなどの工夫が必要です。メトトレキサートを内服されている方全員にチェックシートをお渡しし、正しく内服できているか点検し、理解が不十分な点があれば医師または看護師から指導させていただいております。
より詳細には「メトトレキサートを服用する患者さんへ」という小冊子に記載されていますので、お持ちでない方はお声がけください。
※分割方法は表の方法以外にもいくつかあります。
例:3錠を1回あるいは3回、6錠を3回に分けて飲むなど
メトトレキサートの
内服方法
・飲む個数によって1~3分割にする
・最後に飲むメトトレキサートから24~48時間あけて、葉酸(フォリアミン®)を飲む。
メトトレキサートの正しい飲み方②
正しい飲み方には3つの要点があります。
①メトトレキサートと日をずらして飲むフォリアミンを飲む曜日と個数を覚えておく。
②関節の症状によって自己判断で増やしたり減らしたりしない。
③ 空咳、息切れ、発熱、口内炎、下痢、吐き気、嘔吐、リンパ節腫脹などの副作用かもしれない症状がある時、感染症の症状や下痢や嘔吐があり副作用がでやすい状況の時は休薬し、体調が回復してから再開する。
です。
当院で調査をした際、すべて理解していた方は約20%のみでした。
飲み方は正しく覚えている方は多いのですが、体調によって休まなければならないときがあるということを知らない方が多かったです。
処方された薬は、ふつうは袋に書かれたとおりに飲み忘れないことが大事と考えるかと思いますが、この薬に限っては体調が優れないときは休む、ということを認識してください。
副作用が出たことがないから気にしていなかったという方もおられますが、副作用が出た時、または出やすくなる時に自分で気づいていただき、ご自身で休薬という行動をとる必要があるので、メトトレキサートで起きる可能性のある副作用はできる限り覚えていただくようにお願いします。
具体的には咳、発熱、口内炎、下痢、吐き気、嘔吐がある時などで、続けているとさらに体調を崩してしまう可能性があるので体調が戻るまで休薬するようにお願いします。
感染症と思われる兆候があるときも休薬してください。薬により免疫が低下していますので、市販薬で様子をみるよりも医療機関で相談するようにしてください。
また、空咳、息切れ、呼吸困難、発熱は間質性肺炎の可能性があるので休薬して医療機関にご相談ください。※関節リウマチ自体によっても間質性肺炎が生じることがあります。
リンパ節の腫れに気づいたときにも中止して様子をみる必要があります。
その他に、肝機能障害や血球減少が起こることがありますが、自覚しにくいものです。定期的に血液検査を受けてメトトレキサートが体に合っているか確認していく必要があります。
「メトトレキサートを服用する患者さんへ」というパンフレットにわかりやすく記載されていますので時々読み返して、正しく安全に治療を続けていきましょう。
メトトレキサート内服中のワクチン接種について
生ワクチンは受けられません。
インフルエンザウィルス、肺炎球菌、コロナウィルスに対するワクチンは受けることをお勧めします。コロナウィルスワクチンについては病状安定を前提に接種後にメトトレキサート内服を休薬する場合がありますので主治医と相談してください。ワクチンに関する記事もご参照ください。
飲み忘れ防止の工夫
定番のお薬カレンダーにセットする以外にも、お薬ケースで管理する、スマートホンのアラーム機能を使う、前日に薬をテーブルにセットしておく、手帳に書いておく、家族に教えてもらう、などの工夫があります。
効きはじめるまで少し時間がかかります。
飲み始めてすぐに効果が実感できる薬ではなく、十分な効果がでるまでに1~2か月かかります。
「いつの間にか腫れが取れてきて、体が軽くなった」というような感じの実感になるかと思います。
1-2回飲んでみて効果が実感できないとしても、続けてみてください。
メトトレキサート理解度確認
〇か✕をつけてください
◆ メトトレキサートは毎日飲む
◆ メトトレキサートは週の決められた曜日のみ飲む
◆ 口内炎が出ている時は飲む
◆ 熱で調子が悪いからといって休んではいけない
◆ 首や脇、足の付け根のリンパ腺が腫れている時は飲む
◆ 胃腸炎で下痢・嘔吐している時は飲まない
◆ 咳や息切れがある時は飲む
◆ 関節が腫れていないときも内服を続ける
◆ 関節が痛くない時は飲まない方が良い
◆ 妊娠を考えている場合も続けていて良い
✕ メトトレキサートは毎日飲む
毎日飲んではいけません。自己判断で増やして飲んではいけません。
〇 メトトレキサートは週の決められた曜日のみ飲む
決められた日だけ飲みましょう。
忘れてしまった場合、半日違いでその後のメトトレキサートと(その週は飲まないと指導している先生もおられます)
✕ 口内炎が出ている時は飲む
〇 熱で調子が悪いからといって休んではいけない
✕ 首や脇、足の付け根のリンパ腺が腫れている時は飲む
〇 胃腸炎で下痢・嘔吐している時は飲まない
✕ 咳や息切れがある時は飲む
〇 関節が腫れていないときも内服を続ける
✕ 関節が痛くない時は飲まない方が良い
✕ 妊娠を考えている場合も続けていて良い
妊娠を考えている方、妊娠成立した方、授乳中の方、はいずれもメトトレキサートは飲んではいけません。
流産、先天奇形のリスクがそれぞれ約3倍になってしまいます。
メトジェクト;新しい剤型(皮下注射タイプ)のメトトレキサート
世界ではすでに発売されている、皮下注射タイプのメトトレキサートが日本でも発売されました。
(※2024年5月25日追記:発売当初シリンジタイプのみだったのですが、ペンタイプも発売されました)
用量は、7.5mg から2.5mg刻みで15mgまで4種類の剤型があります。
内服薬があるのに、わざわざ手間のかかる注射剤が発売されるのはどうして?と思いませんか?世界ではすでに50か国で発売されていて、欧州を中心に比較的よく使われているそうです。それならば、何かしら優れていることがあるのでしょう。
それはなにか。一つは、消化系副作用が少ないことです。内服剤が胃腸から吸収されるのに対して、皮下注射剤は胃腸を使わず、皮膚から吸収されるので胃腸障害を減らすことができます。国内の臨床試験で、メトトレキサートを未経験のリウマチ患者さんが、メトジェクト7.5mgを使用した人と内服メトトレキサート8mgを使用した人を比べると、前者では7.7%、後者では22.0%の患者さんが胃腸障害の副作用を報告しました2)。この差は比較的大きいのではないかと思います。一方、皮膚障害の報告は、前者で3.8%, 後者では報告がありませんでした。皮下注射ならではの副反応の可能性が示唆されています。
もう一つは、量を間違えてしまうことが少ないことでしょう。メトトレキサートは間違えて多く飲んでしまうと強い副作用が出てしまう可能性があります。注射剤だと一回投与で終わるし、1回量を間違えることはないでしょう。
同じmg数でも注射剤は内服剤よりも多く血液中に取り込まれます。ある論文によると、皮下注は97%、内服は85%が血液中に取り込まれます(1)。10-20%の違いがあり、内服→注射に切り替える場合は注意が必要です。
写真:日本メダック株式会社HPより
1) Jundt JW et al. J Rheumatol. 1993;20(11):1845–1849.
2) MC-MTX.17/RA試験
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
記事作成 2022年3月10日 深谷進司
記事追加 2022年11月3日 メトジェクトの内容を追加