アクテムラ
(一般名:トシリズマブ)
(一般名:トシリズマブ)
アクテムラ®(トシリズマブ)は、2008年に登場しました。先行して発売されていたTNF阻害薬と異なる作用機序の薬剤として注目されました。IL-6(インターロイキン-6)阻害薬というグループに属します。関節リウマチの病状に大きく関わる、IL-6という炎症介在物質を抑え、関節炎を改善させる働きがあります。
IL-6阻害薬にはアクテムラ®とケブザラ®の2種類があります。いずれもオリジナル品のみで、バイオ後発品はまだ発売されていません。
2者の違い・選び方
・点滴で行いたい場合はアクテムラ®。
・アクテムラ®皮下注ならば価格も月20,000円で生物学的製剤の中では比較的安いため、価格重視ならばアクテムラ®皮下注。
・皮下注射の場合はどちらの注射デバイスが好みか。ボタンがないタイプのデバイスが好みならばケブザラ。
・有効だが不十分で効果を高めたい時は、投与間隔の短縮ができるアクテムラ。
・同じ2週間ごとの投与法の場合、効果の持続力(半減期)が長いのはケブザラ。
などの要点で選ぶのがよいでしょう。
2つのIL-6阻害薬に共通する最も重要な利点は、メトトレキサートとの併用があまり重要ではないことです。IL-6阻害薬の一つであるアクテムラ®はJAK阻害薬と同様、メトトレキサートと併用しなくても効果が出やすいです。なんらかの理由でメトトレキサートが使えない方にとっては、IL-6阻害薬は優先順位の高い選択になるでしょう。
IL6阻害薬はTNF阻害薬と比較するとメトトレキサートの併用がそれほど重要ではありません。
メトトレキサートでは十分な効果が得られなかった患者様で、アクテムラ®単独治療に切り替えた方と、メトトレキサートにアクテムラ®を追加併用した場合と、の効果の違いを検証したSURPRIZE試験の結果をみると、アクテムラは単独で使う(青のバー)のと、MTXに追加併用する場合(オレンジのバー)の差は小さく、半年後(24週)ではメトトレキサートの追加併用の方がやや効果が高いですが、1年後(52週後)ではほとんど同じになります。
一方でTNF阻害薬は、単独で使用するよりもメトトレキサート(MTX)と併用する方が高い効果が発揮されます。逆に言えば、メトトレキサートを併用しないでTNF阻害薬を使った場合効果が落ちることになります。その傾向は下記のグラフの通りゴリムマブ(GLM)、アダリムマブ(ADA)、エタネルセプト(ETN)など複数の薬剤で共通して示されています。
※縦軸はACR50=50%の改善が得られた患者様の割合。患者背景や評価時点が薬剤間で異なるのでGLM-ADA-ETNの間では比較できません。
IL6阻害薬はTNF阻害薬と比較してメトトレキサートの併用の重要度が低いということを、IL6阻害薬とTNF阻害薬で直接比較したADACTA試験という臨床試験があります。
メトトレキサートに忍容性がないまたは治療継続が適切でない患者様に、メトトレキサートを併用せずにIL-6阻害薬であるアクテムラと、TNF阻害薬であるアダリムマブの効果・安全性を比較した試験で、DASという指標でみた寛解率は、アクテムラ®は39.9%, アダリムマブは10.5%でした。
このようにTNF阻害薬とIL-6阻害薬はメトトレキサートとの併用の重要度が異なります。IL-6阻害薬はメトトレキサートが使えない方でも効果が出やすいことがわかります。
そのほかのアクテムラの利点は、②点滴と皮下注射の投与方法を選べることです。生物学的製剤は皮下注射が多く、注射のやり方を覚えて自分で打つのが基本ですが、自分で皮下注射したくない!という方には点滴が適しています。皮下注射は体格に関係なく一定の量を打つのに対して、点滴で用いるアクテムラの量は体重に合わせて変更するため(体重1kgあたりアクテムラ8mg)、体の大きな人には向いています。
さらに、③皮下注射の場合は投与間隔短縮ができます。通常アクテムラ皮下注射は2週に一回ですが、有効なのだが効果が不十分、という場合には毎週一回投与にして効果を補強することができます。
逆に弱点としては、①感染症が起きた時に通常上昇するCRPがアクテムラを使用中は低く抑えられるため、CRPの有無で感染症や治療効果を判断しにくくなることが挙げられます。感染症にかかった時はIL-6が体内でつくられ、発熱や倦怠感を生じ、CRPが上昇します。治療によりIL-6を抑えると感染症にかかっているにもかかわらず発熱や倦怠感などの症状が生じにくくなるため、比較的軽度でも体調の変化に気づいたときは医療機関を受診することをお勧めします。
アクテムラを使うと、強くCRPを抑えて多くの場合陰性になります。IL-6はCRPを作る信号伝達に直接関わっているため、IL-6阻害薬によりCRPが陰性化するのです。CRPはリウマチ診療において最も着目される炎症指標ですが、CRPが陰性になっているにも関わらず関節腫脹が残ることがあるため、CRPが陰性というだけで寛解とは言うべきでないことは注意しておく必要があります。
②大腸憩室があると、大腸憩室炎のリスクや大腸穿孔のリスクが上がります。これは腸粘膜が傷ついたときに修復のためIL6が必要で、IL-6阻害によりそれが遅れるからと考えられています。ほかに血球減少、肝機能障害などの副作用があります。
③アクテムラは胎盤を通じて胎児の血液に入るため、妊娠がわかった方は中止する必要があります。
アクテムラ®の費用と、特徴のまとめ
皮下注射と点滴のどちらを使うか選べる。
2週ごとに皮下注を行ったときの1か月分の薬剤費;
1割負担で¥7,000、2割負担で¥13,000、3割負担で¥20,000
4週ごとに点滴を行ったときの1か月分の薬剤費(体重60㎏として);
1割負担で¥9,000、2割負担で¥18,000、3割負担で¥27,000
・ヒト化抗体
・メトトレキサートが併用できなくても効果がでやすい
・AAアミロイドーシスを改善させる
・感染症の時発熱や倦怠感が生じにくくなりCRPが陰性化するので、感染症を見つけにくくなる。
・副作用として大腸憩室、大腸穿孔のリスク上昇、血球減少、肝機能障害
・妊娠した場合は中止する必要あり
以上、参考となれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
2022年10月30日 深谷進司
参考文献
SURPRIZE試験:Kaneko Y. et al. Ann Rheum Dis(2016) 75:1917-1923
ADACTA試験:Gabay C, et al. Lancet 2013;381:1541-1550.
GO-FORWARD試験:Keystone et al. ARD, 68:789-796, 2009
PREMIER試験 :Breedveld F., Weisman M.H., Kavanaugh A.F.,et al.A rthritis Rheum.,54:26-37,2006
TEMPO試験:van der Heijde Arthritis Rheum.,54:1063-1074, 2006.