肥満症治療薬として期待されているGLP-1作動薬は、食欲を抑える作用があります。血糖値を下げる効果もとても高いため糖尿病薬として使用されているが、肥満症治療薬として期待されています。
糖尿病のいくつかは血糖を下げる代わりに体重増加作用があります。例えばインスリンが作用すると血液中から糖を細胞の中に入れるため、使われなかった糖分は細胞内にエネルギーとしてため込まれる方向に働き、太りやすくなります。
一方でGLP-1作動薬は糖尿病治療薬として非常に優れた効果があり、食欲抑制作用による体重減少効果もこれまでになく強いため高度の肥満を伴う糖尿病患者さんに使われています。非常に画期的な薬剤だったため、供給が追い付いていない状況になっています。
実は糖尿病がない、病的とまでは言えない程度の肥満患者にも自費の美容目的で使用されている状況がありよけいに医療に必要な薬が不足してしまう事態となっており、保険外使用は控えるよう呼びかけられている状況です(それくらい人気化している)。
ウゴービ®(セマグルチド )
2023年3月に肥満症に対して承認されました(発売はこれから)。
ただし、単なる肥満ではなく、疾患としての「肥満症」に対してのみ使用されます。
対象となる患者
肥満症という疾患として、以下のすべてに当てはまる人です。
「肥満症」の基準を満たしている(肥満度を示すBMIが35以上か、27以上で肥満による2つ以上の健康障害(詳細は下の欄外に記載)がある)
食事・運動療法で効果が得られない人
※「肥満」だけでは投与対象にならない。
適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく
治療を6ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、
この間に2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。なお、食
事療法・運動療法関しては、患者自身による記録を確認する等により必要な対応が実施できている
こと。
使い方・増量法
週1回皮下注射する。
0.25mgから開始し、4週毎に0.5mg、1mg、1.7mg、2.4mgと増量し、2.4mgで継続する。
いつまで続けるか(続けて良いか)
投与は最大 68 週間。
投与中も適切な食事療法・運動療法を継続し、2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けること。治療計画の作成を受けること。毎月体重、血糖、血圧、脂質等を確認すること。十分な減量効果が認められた場合には、投与継続の必要性を慎重に判断し、投与開始から 68 週を待たずに本剤の中止と食事療法・運動療法のみによる管理を考慮すること。本剤中止後に肥満症の悪化が認められた場合は、本剤の初回投与開始時と同様に、本剤を投与する施設において適切な治療計画に基づく食事療法・運動療法(2ヵ月に1回以上の管理栄養士による栄養指導を含む)が実施できているかを確認し、当該計画に基づく治療を原則として6ヵ月以上実施しても必要な場合に限って本剤を投与すること。
なお、本剤中止後に一定期間患者の状態を確認し、肥満に関連する健康障害の増悪が認められ、やむを得ず6ヵ月を待たずに投与再開を検討する場合には、その必要性について十分に検討し治療計画を作成したうえで本剤の投与を再開すること。
薬価
1回1,876~10,740円 (維持量2.4mgを3割負担で使用した場合、4週で12,890円)
確認されている効果
上記の対象者の条件と同じ条件を満たす患者に対して、
2.4mgを68週間使用し11.8kg、13.4%の体重減少効果があった。(本調査に参加した患者のうち90%が日本人。ウゴービ添付文書より)
血圧と悪玉コレステロール、中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールを増やす作用もみられた(収縮期/拡張期血圧 -11/-5mmHg、LDLコレステロール-12mg/dL、HDLコレステロール+10mg/dL、中性脂肪-14mg/dLなど)。
副作用
低血糖のリスク(脱力感、倦怠感、高度の空腹感、冷汗、顔面蒼白、動悸、振戦、頭痛、めまい、嘔気、視覚異常等)
<施設基準ならびに治療責任医師の基準>
内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科又は糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。
施設内に、学会専門医(日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本内分泌学会)いずれかを有する常勤医師が 1 人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。また、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。
高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療(参考:高血圧治療ガイドライン、動脈硬化性疾患予防ガイドライン又は糖尿病診療ガイドライン及び肥満症診療ガイドライン、肥満症の総合的治療ガイド)を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の医師要件)の指導のもとで本剤の処方が可能な医療機関であること。以下の医師要件に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
→基本的には大学病院などの肥満診療を専門的に行っている施設に限られる。
コメント
糖尿病治療薬として用いられてきた「オゼンピック」が肥満治療用にも利用拡大された。
減量が成功し、肥満症の基準を満たさなくなった後は、いつまで継続可能か?
「2つ以上の健康障害」とは?
肥満症診療ガイドライン2016で定義される肥満症の診断基準に必須の11の疾患とされ、組み入れられた被験者の割合は次のとおり。
(1)耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
(2)脂質異常症
(3)高血圧
(4)高尿酸血症・痛風
(5)冠動脈疾患
(6)脳梗塞
(7)非アルコール性脂肪性肝疾患
(8)月経異常・不妊
(9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
(10)運動器疾患
(11)肥満関連腎臓病
なお、オゼンピック®(セマグルチド)GLP-1受容体作動薬はウゴービと同じ成分(セマグルチド)だがこちらは糖尿病治療薬であり、肥満治療薬ではありません。
ウゴービ®と基本の維持量と最大量が異なります。
ウゴービ:0.25, 0.5, 1.0, 1.7, 2.4 (2.4mgで維持)
オゼンピック:0.25, 0.5, 1.0 (0.5mgで維持、1.0mgまで増量できる)
数回分の注射が1本に入った2mg製剤があります。インスリンデバイスのように針を取り換えて、数回分を使用できます。最初から針がついているオゼンピックSDよりも細い針を取り付け可能で痛みを軽減できます。インスリンと同様、空打ちが必要です(初回使用時のみ)。
マンジャロ®(チルゼパチド) GLP1/GIP受容体作動薬
ウゴービ、オゼンピックと同じGLP-1受容体作動薬です。GIPにも結合する性質を持ちGIP/GLP-1デュアル作動薬と呼ばれています。インスリン分泌促進作用や胃腸の動きが鈍くなり満腹感を長時間維持する効果があります。糖尿病治療薬であり肥満症治療薬の適応はありませんが、強力な血糖降下作用とともに体重減少作用があります。副次作用として食欲抑制、体重減少、脂肪肝の改善が知られています。米国では「ゼップバウンド」という名称で肥満症治療薬として販売されています。
国内でベースラインHbA1c 8.2%、体重76.5kg程度の患者を対象として行われた臨床試験で、マンジャロ®(チルゼパチド)を52週後使用したところ、HbA1cの変化は、通常量(5mg/週)で-2.37、増量(15mg/週)で-2.82と大きな改善効果を示しました。また体重の変化は、通常量(5mg/週)で-5.8kg、増量(10mg/週)で-8.5kg、増量(15mg/週)で-10.7kgと大きな体重減少効果を示しました。 減量効果の個人差が比較的小さく、幅広い患者さんに有効がありました。参考文献2)
海外の臨床試験では、糖尿病になりやすい肥満症の方(BMI30以上または27以上で糖尿病以外の肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸または心血管疾患のいずれか1つ以上を有する2型糖尿病のない成人)が使用したところ、1年半で体重が15.0%(5mg/週使用時)~20.9%(15mg/週使用時)減少し、3年間の観察では糖尿病発症を94%予防できたという報告があります(SURMOUNT-1試験)。参考文献3)4)
プラセボを使用した方では13.3%が糖尿病に進展したのにくらべ、マンジャロ®(チルゼパチド)を使用した方では1.3%のみが糖尿病に進展しました。HbA1cは平均0.5-0.65%の低下を示しました。マンジャロ15mgを使用した方からは一人も糖尿病を発症しませんでした。
腹囲の減少は、マンジャロ使用者で8倍であった。プラセボでは1インチ(2.5cm)の減少にとどまったのに対して、マンジャロ15 mgで7.9インチ(20.1cm)、10 mgで7.2インチ(18.3cm)、5 mgで5.1インチ(13.0cm)でした。
血圧の改善効果も見られた。収縮期血圧/拡張期血圧は、プラセボ群で0.2/1.9 mmHg低下したのに対して、マンジャロ使用者では5.9〜8.5/4.2~5.9mmHg低下しました。
脂質の状態にも改善がみられた。HDLと中性脂肪(TG)について、プラセボでそれぞれHDL 2.5%増加とTG 4.2%減少であったのに対し、マンジャロ使用者ではHDLの平均14%の増加、TG 32.4%減少がみられた。
既存の肥満薬で睡眠時無呼吸症候群を改善させることを実証したものはありませんでしたが、マンジャロによる睡眠時無呼吸症候群への効果をみたSURMOUNT-OSA試験では(文献 7)、プラセボに比べて明らかな良い効果がありました。BMI 30以上で睡眠時無呼吸症候群を合併した方を対象に1年間のマンジャロとプラセボ薬の効果を比較し、介入前におよそ50だったAHI(無呼吸低呼吸指数)が、-25~-29と大幅に改善しました。一方でプラセボ使用者は-5程度の改善にとどまりました。睡眠時無呼吸症候群の重症度と体重には明らかな相関があり(文献5)、減量により改善することが知られていますので(文献6)、マンジャロ使用に体重減少により改善が期待できます。
さらに、マンジャロの脂肪肝改善効果に関する、SYNERGY-NASH 試験という研究結果を紹介します。
肝生検で代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH) を有することが確認され,肝線維化が中等度または高度(F2-F3)の方に、マンジャロを5, 10, 15 mgの3通りで週1回,またはプラセボを投与する群に無作為に割り付け、52 週間経過を追いました。
参加した190 例中157 例から52 週の時点で肝生検を行われました。
脂肪性肝炎の消失は,プラセボ群で10%,マンジャロ 5mg群 44%,10mg 群 56%,15mg 群 62%で得られました。
MASHの悪化を伴わない肝線維化ステージ1 以上の改善は,プラセボ群 30%,チルゼパチド 5 mg群 55%,10 mg群 51%,15 mg 群 51%で達成されました。
肝炎はマンジャロの用量依存性に改善した方の割合が増加し、線維化は用量依存性は見られませんでした。マンジャロは脂肪肝の改善に役立つと考えられ、脂肪肝を合併したメトトレキサートを使用中の関節リウマチ患者さんにとっても有用と考えます。リウマチ診療をしているとこのような状況は珍しくないため、実際に使用して肝機能が改善した方を何人もみています。同様のことでお困りの方はぜひご相談ください。
このように、肥満要素の強い糖尿病の方には、脂肪肝や高血圧、睡眠時無呼吸などその他の要素も同時に改善できる可能性があります。
【マンジャロの投与方法】
1週間ごと、腹部、大腿部、上腕部に皮下注射します。
2回目以降、前回の投与部位からは3cm以上離して投与してください。
1回2.5mgで開始し、4週後に1回5.0mgに増量します。通常の維持量は5.0mgです。
効果不十分の場合、4週以上あけて7.5mg-10㎎-12.5mg-15mgの順で増量できます。
【起こりうる副作用】
・臨床試験では消化器系の副作用は20-30%の方に観察されました。マンジャロの添付文書では、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退などの副作用が5%以上の方にみられると記載されています。
・腹部膨満、胃食道逆流、注射部位の発赤やかゆみ、疲労感が1~5%の方に認められます。
・心拍数増加、低血圧、鼓腸、胆石症、糖尿病性網膜症、過敏症、味覚障害、異常感覚が1%未満の方に報告されています。
・低血糖を生じる可能性があります(脱力感、高度の空腹感、冷汗、顔面蒼白、動悸、振戦、頭痛、めまい、嘔気、視覚異常等)。高所作業時や車の運転時には上記症状がないか注意する必要があります。
・下痢、嘔吐から脱水を続発し、急性腎障害に至る恐れがあります。
・薬剤アレルギー(アナフィラキシー)
・その他注意すべき副作用:急性膵炎、胆石症、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸。
SGLT2阻害薬
その他、やせる方向に作用する糖尿病薬としてSGLT2阻害薬があります。通常、血液を濾して尿が作られるときに糖は尿へ出ないようにSGLT2という通路を通って回収されます。このSGLT2という糖が尿から血液に戻る通路の働きを抑え、糖を尿にわざと漏らして体外に排出する薬です。SGLT2阻害薬は複数ありますが、どれも肥満症治療薬としては認められていません。糖尿病患者さんでは一日200-400kcal分の糖を尿中に排出することができます。この薬はGLP-1作動薬とは逆にむしろ食欲が増進します。
参考資料
1) ウゴービ添付文書
2) Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Sep;10(9):623-633. (SURPASS J-MONO試験)
3) N Engl J Med. 2022 Jul 21;387(3):205-216. (SURMOUNT-1試験 52週の結果)
4) 日本イーライリリープレスリリース2024年8月23日(SURMOUNT-1試験 176週の結果)
5) 栄養学雑誌 2010 68(3):166-172
6) Am J Respir Crit Care Med. 2021 Jan 15;203(2):161–162
7) N Engl J Med. 2024 Oct 3;391(13):1193-1205.
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2023年12月15日 深谷進司
2024年11月10日 追記