2003年に関節リウマチの治療における初めての抗体製剤(生物学的製剤)であるレミケードの登場は、それまでの関節リウマチの治療を一変させました。特定の炎症介在物質と結合することにより、劇的に炎症を止めることができたのです。抗体がターゲットとする炎症介在物質はTNF‐α、IL-6、CTLA‐4と追加され、治療選択肢も増えていきました。現在では後発品も発売され、生物学的製剤は12種類もの製剤が使用可能となっています(2023年11月現在)。
レミケードは劇的に効果を発揮する一方で問題点もありました。それは、マウスの成分をもとに作られたため25%ほどマウスの成分が残り、人間の体内には本来存在しない(キメラ抗体という)ため投与後の急性アレルギー反応が生じたり、時間が経ってから中和反応が起きて効かなくなってしまうことです。
そのため、レミケード以降に発売されたアダリムマブ(ヒュミラ®、2008年発売)にはマウス由来の部分を減らす改良が加えられました(ヒト化抗体といいます)。さらに完全にマウス由来の部分をなくした完全ヒト型抗体ゴリムマブ(シンポニー®、2011年発売)が加わりました。
実際、これらの改良された生物学的製剤ではアレルギーや中和反応は少なくなりました。
このように関節リウマチ領域における最初の10年での生物学的製剤の改良は、本来のヒトの抗体に近づけて異物反応を減らそうという取り組みでした。
ゴリムマブという完全ヒト型抗体が登場し、これで抗体医療の進歩は終わりか・・・というとそうではありません。本来のヒトの抗体の機能を超える新たな抗体の開発が進められています。
トシリズマブはIL-6レセプター抗体です。IL-6という炎症介在物質の信号伝達を抑制します。
一般に抗体は2つの腕でターゲットを捕捉した後は、細胞の中に取り込まれて分解されます。
中外製薬資料から引用
抗体は一度使われると消滅してしまうため、治療のために捕捉したいターゲット物質がたくさんある場合にはそれに応じて抗体の投与量も多くしなければならない点がこれまでの抗体医療の限界と問題点の一つでした。
その問題を解決するために改良された抗体は、ターゲットを捕捉した後にターゲットだけを細胞内に残して、抗体自体は再び血液中にリサイクルされるという仕組みを実現しました。それにより一度投与した生物学的製剤が長持ちするようになります。これをリサイクリング抗体と呼びます。技術的には2010年にすでに報告されていましたが、2020年にトシリズマブ(アクテムラ®)の改良版として実用化されました。
中外製薬資料から引用
トシリズマブ(アクテムラ®)の改良型であるサトラリズマブ(エンスプリング®)はリサイクリング抗体であり、視神経脊髄炎という疾患に使用されています。関節リウマチに対し、アクテムラ®は162mgを2週に1回皮下投与が必要ですが、エンスプリング®は(視神経脊髄炎と違う疾患に対してですが)1回120mg4週に1回使用するだけです。残念ながら、エンスプリング®は関節リウマチのための開発はされていないようです(2023年11月現在)。リウマチ医としては関節リウマチに対して使用できるように開発してほしいですが・・・
新しい抗体の形をもう一つ紹介します。
ナノゾラ(オゾラリズマブ)はTNF阻害薬の一つで、ヒトの抗体とは異なりラクダの抗体を原型とした新しい構造をもちます。
ヒトの抗体は重鎖と軽鎖が組み合わさった形をしていて、全体で分子量15万という大きな分子です。
それに対してラクダの仲間が持つ抗体は重鎖のみからできており、抗原結合部位は分子量1.5万とヒト抗体の10分の1です。TNFをキャッチする部分はヒトの抗体と同じような親和性を持ち、ヒトと同じように2つあります。ナノゾラはこのようなラクダ型のTNF結合部位2つとアルブミン結合部位を1つ持つ構造に設計されています。
構造が簡単なので合成が容易で熱に対して安定であることや、血液中でアルブミンと結合し炎症部位に運ばれやすいというメリットもあります(マウスの写真。オゾラリズマブの方が手足が早く赤くなる=薬が多く届いていることを示す)。
さらに、血液中で長持ちするため、4週ごとの皮下投与で済みます。
メトトレキサートで効果不十分であった関節リウマチ患者さんや、メトトレキサート非併用の関節リウマチ患者さんに対する効果が臨床試験で確認されています。副作用も許容範囲内(これまでの生物学的製剤と大差ない)でした。
投与時のアレルギーが特に多いという問題は指摘されていませんが、マウス成分を含むレミケードは投与時のアレルギーや中和反応による効果減弱がみられたように、ラクダ由来の蛋白質であるナノゾラ®は効果減弱がおきやすいかどうか今後見ていく必要があります。
ほかにも、スイーピング抗体やバイスペシフィック抗体など、人工的に機能強化された抗体が考えられ、すでに一部は実用化されつつあります。これからの医療の発展に目が離せませんね!!
参考文献
1) Nat Biotechnol. 2010 2010 ;28(11):1203-7.
2) 中外製薬資料
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
2023年11月12日 深谷進司