ステロイド
(副腎皮質ステロイド)
(副腎皮質ステロイド)
ステロイドの使用目的とその効果
リウマチ・膠原病の治療において、ステロイドが使用される場面は非常に多いです。一般に「ステロイド」と聞くと副作用のイメージが先に立ち抵抗を覚えることもあると思いますが、注意して使用すれば、自分の体に働いている免疫反応(自己免疫)や炎症を急速に押さえ込むために他の薬剤に代えられないくらい効果を発揮し、ほかに安価であるなどのメリットがあります。使用するにあたって以下に注意点をまとめています。主治医とよく相談して、治療を進めていきましょう。
関節リウマチでは、抗リウマチ薬の使用を基本とし、ステロイド単独で使用することは極力避けます。抗リウマチ薬はゆっくり効き始める薬が多く、ステロイドは即効性があるため、抗リウマチ薬が十分に効いてくるまでの橋渡し役として抗リウマチ薬に併用されます。
薬剤の種類
ステロイドには多くの種類がありますが、
リウマチ・膠原病診療において多く使われるのは、
「プレドニゾロン」あるいは「プレドニン」です。
「5mg錠」、「1mg錠」等があります。
味はとても苦いです。
病状によって細かく量を調整します。
内服ステロイド薬の使用法と注意点
ステロイドは体にとって必須のホルモンです。ふだん体内で一定量のステロイドが作られていますが、ステロイドを継続使用していると体内でのステロイド産生が減少します。その状態でステロイドの使用を急にやめると、体内でのステロイドが不足してしまい、低血糖、血圧低下、低ナトリウム血症、意識障害などのステロイド欠乏症状をきたします。病気自体が再発・悪化するだけでなく、最悪の場合生命の危険があります。
そのため、自己中断は絶対にしてはいけません。これ、めちゃくちゃ大事です!!
病気がよくなれば減量していきますので焦らないでください。そのペースは必ず医師と相談して決めていってください。
一日の合計量が重要ですので、飲み忘れてしまった場合は、食事のタイミングにこだわらず、同じ日のうちに飲むようにしてください(次の内服分と重なってもかまいません)。
飲み忘れた時の対応について
例①:朝の分を飲み忘れた→ 昼に合わせて飲む
例②:昼の分を飲み忘れた→ 夕に合わせて飲む
例③:夕の分を飲み忘れた→ 寝る前に合わせて飲むか、翌朝に合わせて飲む
(食事にあわせるのが難しい場合は、食後にこだわらず飲んでください)
起こりうる副作用とその対処法
ステロイドの副作用は長期間多く使うと出やすくなります。治療のためには十分な量が必要ですが、副作用予防のためにはできるだけ少なくということになり、バランスが大事です。量の調整は自己判断せず、医師と相談しましょう。副作用には薬により予防できるものもあります。
免疫力低下
ステロイドを含む免疫抑制療法は、異常な炎症(悪い免疫)を抑えるために使用されますが、本来体にとって必要な病原体と戦うための炎症(良い免疫)も同時に低下してしまいます。免疫抑制療法の内容によっては、感染予防の抗生物質(バクタ®またはダイフェン®)や口腔・食道にカビがつくのを予防するためのうがい薬(ファンギソン®)を使用します。不特定多数の人との接触が予想される外出時はマスクを着用し感染症を有する方との接触がないように注意してください。また外出後は手洗いやうがいを行い、感染予防に心がけてください。
感染予防のため、原則として肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス®)やインフルエンザワクチンの接種をお勧めします。その他のワクチンは行ってよいかどうか医師に確認してください。ステロイドを含む免疫抑制療法中の方は、生ワクチンは禁止されています。
生ワクチン・・・BCG(結核)、麻疹(はしか)、風しん、水痘(みずぼうそう)、ムンプス(おたふくかぜ) 、ポリオ
不活化ワクチン・・・ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオワクチン、日本脳炎、インフルエンザ、ヒブ(インフルエンザ桿菌b型ワクチン)、肺炎球菌、子宮頸がん、A型肝炎、B型肝炎
骨粗鬆症
ステロイドは骨密度を低下させてしまいます。
薬の開始にあたって骨密度を測りましょう。若年者との比較で70%以下ならすでに骨粗鬆症ですが、70%以上でもステロイド開始時点から予防のため骨粗鬆症薬を使うことがほとんどです。よく使用されるのは、内服のビスフォスフォネート製剤(フォサマック®週1回、ベネット®月1回など)とビタミンD(アルファロール®、エディロール®、デノタス®)の組み合わせです。そのほかプラリア ®(半年に一度皮下注射)、フォルテオ®(毎日1回皮下に自己注射)、テリボン®(週1-2回皮下注射)、イベニティ®(月1回皮下注射)、リクラスト(年1回点滴)を使用することもあります。
骨粗鬆症の治療中に抜歯するときは注意が必要です。抜いた穴から菌が入り、まれに顎の骨が化膿してしまうことがあるため、担当の医師や歯科の先生とよく相談してください。
高血糖・糖尿病
ステロイド使用をきっかけに糖尿病になることがあり、元々糖尿病の人は悪化しやすくなります。
ステロイドは直接血糖を上げるだけでなく、食欲が増すため食べ過ぎてしまう傾向になります。血糖上昇にも注意しましょう。
朝から夜に向けて血糖が上昇しやすくなります。特にステロイドの使い始めは定期的な血液検査でチェックします。
予防法はなく、上昇してしまった時は内服薬あるいはインスリンを使用することがあります。
高脂血症
予防法はなく、コレステロールや中性脂肪が高くなる場合は治療を行います。
高血圧
ステロイドには塩分を蓄える作用があり、血圧が高くなりやすくなります。
塩分の取り過ぎに気をつけてください。
血圧が上昇した場合は通常の高血圧治療を行います。
胃炎・潰瘍
予防のため、胃酸を抑える薬をセットで使うことがあります。
気分障害/不眠
寝つきが悪くなったり、途中で起きてしまったりすることがあり、睡眠リズムの状況や希望に応じて睡眠薬を使います。
1日2-3回に分割して飲む場合は、夕食後の分が影響して不眠を起こすことがあり、朝だけにまとめたり、朝と昼だけにしたりすると不眠が解消されることがあります。
気分障害(抑うつ)が生じることもあります
中心性肥満、
ムーンフェイス
ステロイド開始後1カ月程度たつと、ほほやあご、肩などに皮下脂肪がついてきます。水分がたまってむくむのとは異なります。
予防する方法はありませんが、ステロイド量が少なくなれば(大体一日5mg以下)、目立たなくなってきます。
筋力低下
ステロイドには筋肉を分解してエネルギーに変えようとする作用があります。
病状が安定していれば、筋力低下を防ぐため適度な運動を行ってください。
白内障・緑内障
予防はありません。ステロイド使用中は、眼科での定期チェックをお勧めします。
高齢の方は使用する前から白内障があることもあります。
無菌性骨壊死
無菌性骨壊死は特に全身性エリテマトーデス患者さんに起きやすい問題です。
頻度は少ないが起きるとやっかいな副作用です。大きな関節、特に股関節の痛みとして現れることが多いです。症状が出た場合にはレントゲンやMRIでチェックします。骨頭の壊死が進んでしまった場合は手術が必要になります。
手術や重度の感染症の時は、特別な対応が必要です。
ステロイドは「ストレス対抗ホルモン」とも呼ばれ、手術や感染症など体に強い負荷がかかる時には普段よりも多くの量が体内で分泌されます。しかしステロイドを長期使用すると、いざというときにステロイドを増産できなくなります。そのため、ストレス時には、普段の量よりも多くステロイドを使用することがあります。どれくらい増やすかはこれまでのステロイドの使用期間、量、ストレスの内容により個別に決める必要がありますので医師に確認してください。全身麻酔を伴う予定手術の場合には、手術を担当する科とリウマチ膠原病内科で相談して決めますので、その指示に従ってください。
その他、不明な点があれば主治医へ直接ご確認ください。
※細かく用量調整が行われるため、その都度飲む量を確認しましょう。
記事作成・更新 2022年4月1日 深谷進司