初期のリウマチかも?
と感じた方へ
(関節リウマチの早期診断と治療)
初期のリウマチかも?
と感じた方へ
(関節リウマチの早期診断と治療)
関節が腫れてきて、リウマチかもしれないと思ったときに、どのタイミングで検査をうけたり、治療を開始したらよいでしょうか。
はっきり言えることは、誰がどう見てもリウマチとわかる状態になってから診断を受けるのでは遅いということです。その時にはすでに軟骨や骨の破壊、変形が現れていて、一度壊れてしまったそれらは中々元に戻すことは難しいわけです。そのためできるだけ早く正確に診断して、早く治療を開始しようとする努力が行われています。
このことは治療の進歩と関係があります。
20数年前までは早く診断をしたとしても、あまり効果的な薬がなく進行していってしまう患者さんも多かったのですが、1999年にメトトレキサートが承認され、2003年に初めての生物学的製剤が、また2015年に初めてのJAK阻害薬が発売されてから、治療の選択肢が多彩になりました。それらの薬は効果的で、症状が全くない”寛解”と呼ばれる状態になることもできます。
そのため、以前よりも早期診断・早期治療の意義が大きくなったといえます。
関節リウマチの診断
関節リウマチの初期には、必ずしもリウマチらしい特徴がそろっているわけではありません。早く診断しようとするとその分だけ、違う疾患が紛れ込む可能性が高くなります。もっとはっきり言えば、過剰診断や誤診が混ざり得ます。関節リウマチの治療薬の多くは免疫を抑える作用がありますので、そのような方に、特に炎症性ではない問題に対して抗リウマチ薬で治療してしまうことは潜在的には害になりうるのです。ですから診断時にはできるだけ正確に、関節リウマチだけに現れる特徴を捉える必要があります。
現在、関節リウマチの診断には2010年に発表された分類基準が参考になります。
それ以前には1987年の基準が用いられていました。
1987年診断基準と2010年診断基準の違いの一つは、新基準ではレントゲンを参考に入れていないことです。レントゲンでわかる変化があればそれはすでにある程度進行した状態であり、誤診は少ないです。しかし治療開始のタイミングとしては遅すぎています。そのため、早期診断を狙った2010年の新基準ではレントゲンを参考にしていません。
また、関節リウマチは左右対称、多数の関節が罹患する疾患ではありますが、初期は必ずしもそうではありません。炎症反応が高いこと、血清反応(抗CCP抗体やRF)が高値であること、持続期間が6週以上、などの特徴が揃っていたら、2010年の基準では小さい関節1か所の罹患でも関節リウマチと診断できることになります。
※誤解のないように記載しますと、最初の診察の時にレントゲンを撮ることは一般的に行われています。変形性関節症や石灰沈着などほかの疾患との区別のためには役立つことが多いからです。また、その後の進行がないか見ていくための出発点として、レントゲンを撮っておきます。
小話:関節リウマチの基準が診断基準ではなく分類基準と呼ばれているワケ
基準に従い点数をつけて、6点以上なら関節リウマチ確定、点数を1点でも下回ったら関節リウマチではないと決めつけるためのものではありません。本当は関節リウマチでも点数を下回ることもあるし、逆もあります。この基準に照らす場合にはほかの疾患をきちんと見分けること、という条件が付け加えられています。
点数をつけて線引きするのはその方がわかりやすく、研究を行うときに関節リウマチ患者さんの集団を定義しやすいという利点があるからです。関節リウマチを診断するのは訓練されたリウマチ医の見立てがゴールデンスタンダートであるという考え方に基づいています。そのため分類基準とされ、診断基準とは呼ばれていないのです。
しかしこの2010年の基準でも、発症早期関節リウマチとなるとかなりの割合でこの基準を満たしません。発症早期にはRFや抗CCP抗体が上昇しておらず、遅れて上昇してくることもあります。様々なリウマチ専門家が適切な早期関節リウマチ診断の指針づくりに取り組んできました。
ある文献では、抗 CCP抗体陽性の診断未確定関節炎患者(=分類基準を満たさないが、関節炎がある)は、30か月後には80%以上が関節リウマチを発症していたと報告しています(引用文献2)。そのため、抗CCP抗体陽性+何かしらの関節炎がある状態であれば、ほぼ関節リウマチに発展すると考えて早いうちに治療を始めてしまうのが良いと考えられます。
ほかにも、将来関節が壊れやすいか否かをあらかじめ予測ができると、治療方針をたてるのに役立ちます。前述のように、レントゲンは前述のとおり関節が壊れた結果をみるに過ぎないので、骨の破壊が進みやすい徴候をほかの画像検査でみつけることができないでしょうか。それには関節エコーやMRIが役立ちます。関節に炎症を起こしていることをより客観的に判断できます。これらの検査で炎症があることが分かった場合、将来の関節破壊の危険が高いです。
江口らの報告では(引用文献7)、
自己抗体(抗CCP抗体やIgM-RF)高値
炎症所見(MMP3,CRP)高値
MRI画像で骨髄浮腫.骨侵食を認める
※MRI撮像ができない場合に代わりにMMP-3が使える
に該当する場合、将来の関節破壊の危険が高かったという結果が示されています。
この場合は治療を効果的な薬で早いうちから行うべき、という指針になるでしょう。
初期から使える生物学的製剤
通常の治療の流れとして、最初はメトトレキサートを使い、効果不十分の場合に生物学的製剤やJAK阻害薬を使用することを日本や欧米のガイドラインでは推奨しています。いきなり生物学的製剤を使うのは、必ずしも経済的に優れないからというのが一つの理由です。
しかし初期のメトトレキサートの使用中でも一部の患者さんでは関節破壊の進行が起こってしまいます。それに対して、一部の生物学的製剤(アダリムマブ(ヒュミラ®、アダリマムマブBS®)とセルトリズマブぺゴル(シムジア®))では発症早期に使用することで、メトトレキサートよりも関節破壊の進行を低く抑えられた、という結果が出ています。おそらくほかの生物学的製剤でも似たような効果が期待できると思われますが、臨床試験で成果を示したことから、この3つの薬剤に限っては診断直後から使用開始してもよいことになっています。
参考文献
(1) 三森常世 日本内科学会雑誌 101(10) 2844-2850
(3) Takeuchi T, et al. Ann Rheum Dis. 2014; 73: 536-543.(HOPEFUL-1試験 26週)
(4) Yamanaka H, et al. Rheumatology(Oxford). 2014; 53: 904-913.(HOPEFUL-1試験 52週)
(5) Atsumi T, et al. Ann Rheum Dis. 2016 Jan;75(1):75-83.(C-OPERA試験 1年)
(6) Atsumi T, et al. Ann Rheum Dis. 2017 Aug;76(8):1348-1356.(C-OPERA試験 2年)
(7) 江口勝美 日本内科学会雑誌 97(9) 251-258
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2023年1月3日 深谷進司
2023年1月2日 深谷進司