強皮症(全身性強皮症)は膠原病の一種で、手指の皮膚が固くなったり、レイノー現象という血流障害を起こしたり、間質性肺炎などの内臓障害をきたす疾患です。
どの年代にも起こりうるが、発症年齢のピークは30~50歳。男女比1:12と女性の方が多いです。難病認定患者数をみると、10万人あたり10人程度がこの疾患を有しているようです。
原因はよくわかっていないが、免疫異常が介在して、コラーゲンの過剰な産生による線維化、血管の障害が発症に関与していると考えられています。
膠原病(≒全身性の自己免疫疾患)の一種ですが免疫異常が介在している証拠として自己抗体の出現がみられます。抗核抗体が90%の患者さんに認められます。自己抗体の種類により、臨床的特徴が異なります。
抗Scl-70抗体(別名抗トポイソメラーゼI抗体)が30-40%の患者でみられますが、皮膚硬化はびまん型、肺線維症の合併が多いです。
抗セントロメア抗体が30%の方にみられます。皮膚硬化は限局型が多いです。皮下の石灰沈着がみられることもあります(CREST症候群)。皮膚硬化がはっきりしないレイノー病の方に陽性となることがあります。
抗RNAポリメラーゼIII抗体が6%で見られます。皮膚硬化はびまん型、強皮症腎や心筋障害が多いです。
抗U1-RNP抗体が検出されるのは30%で、強皮症単独では5-30%にみられ、また混合性結合組織病と強皮症の合併患者さんに多くみられます。手指の硬化のほかに、レイノー現象が高頻度でみられます。肺高血圧症の合併が多いタイプでもあります。
自覚症状
レイノー現象、皮膚硬化、消化器症状、肺症状、腎症状、関節症状などが見られます。
レイノー現象は90%の方にみられ、寒冷刺激により手や足先の血行障害が起こり、指の色が白~紫~赤に変化します。しびれや痛みを伴います。
皮膚はコラーゲンが蓄積し厚く硬くなります。強皮症の「強」は皮膚が厚く硬くなり、強張る(こわばる)ことを意味しています。皮膚の色素が黒くなったり白くなることがあります。血行障害を反映して指先に潰瘍ができてしまうことがあります。皮膚や爪周囲の毛細血管が拡張してみられます。
消化器症状は、線維化を反映して消化管全体の動きがにぶくなります。食道が固くなり胃酸の逆流を起こして胸やけしたり、食べ物がつかえやすくなります。進行すると腸閉塞を起こすことがありあります。
間質性肺炎を起こすと、肺の柔軟性が低下し酸素の取り込みが低下することで、息切れや咳、疲れやすさを自覚することがあります。心臓から肺へとつながる動脈(肺動脈)が固くなり、心臓に負担がかかり心不全を起こすことがあります(肺動脈性肺高血圧症)。
比較的まれですが、腎臓の血管に障害が生じて高血圧になり、頭痛やめまい、吐き気などを自覚することがあります。
そのほか、関節リウマチに似た関節炎を起こすことがあります。
爪上皮(爪の生え際)出血点
点あるいは線状の出血点として、強皮症の70-100%にみられます。
レイノー現象だけの人にもみられますが少ない(10%)ため、強皮症とレイノー現象だけの人との区別に役立ちます。ただし、皮膚筋炎/多発性筋炎でも30%にみられます。
難病に指定されています
診断基準を満たすこと、一定以上の重症度を満たすことで認定されます。
強皮症の分類
全身性強皮症
びまん皮膚硬化型・・皮膚硬化が広範囲(肘より中心側に及ぶ)でより重度。内臓障害もきたしやすい。抗Scl-70抗体陽性が多いです。ほかに抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性の場合があります。
限局皮膚硬化型・・皮膚硬化が肘より遠位に限局していて、皮膚硬化の進展はほとんどないか緩徐です。抗セントロメア抗体陽性が多いです。
限局性強皮症(モルフィア)・・名前は似ていますが限局皮膚硬化型全身性強皮症とは異なる疾患です。皮膚の一部が硬化あるいは萎縮する、皮膚に限局した疾患です。
強皮症と合併しやすい膠原病
シェーグレン症候群
原発性胆汁性胆管炎
強皮症の治療
これまでに免疫を調節する治療法は目立った効果を上げてきませんでした。シクロフォスファミドやステロイドなどの免疫抑制薬はある程度の有効性は確認されてきたものの、その副作用と比べて割の良い治療とは言えませんでした。そのため、血行障害に対する血管拡張薬や、消化器の機能調節薬など対症療法が中心となっていました。関節リウマチや全身性エリテマトーデスの領域では次々に新薬が登場する中で、強皮症の治療の進歩は遅れていました。そんな中で最近になりリツキサン®が強皮症の皮膚硬化に対して保険承認されました。
ステロイド
発症早期で炎症があるときや皮膚や肺の線維化が完成していないときに使用することがあります。
間質性肺炎、関節炎、心筋炎などの合併時に使用することがあります。
強皮症患者のステロイド使用は、腎クリーゼ※を引き起こすリスクがあります。
※腎クリーゼとは、腎臓の血管障害が生じて急激に血圧が上昇し急激な腎不全を生じる病態で、頭痛、吐き気などの症状を伴います。不可逆的な腎不全や致死的になり得る、重症な病態です。
リツキサン®(一般名リツキシマブ)
自己抗体の産生に関わるBリンパ球を除去することで、自己免疫異常を改善します。
リツキサンは、Bリンパ球の表面にあるCD20というたんぱく質に結合することでBリンパ球は排除され、抗体が作られにくくなります。強皮症の病態においてBリンパ球の活動が関わります。リツキサンの投与により強皮症の進行を抑えたり症状を和らげる効果が確認されています。週1回の点滴投与を4回連続して行います。リツキサンは比較的アレルギーが出やすい薬なので、点滴を受ける30分~1時間前に、アレルギー予防薬など副作用を軽くする薬を前もって使用します。
なお、リツキサン(リツキシマブ)を投与すると、その後に接種を受けたワクチンの効果が非常に低下します。新型コロナワクチンに対してだけは、2022年12月現在ではエバシェルドという新型コロナワクチンに対する中和抗体の投与を受けるという方法があります(ワクチンの記事参照)。
その他、それぞれの症状に対する治療法
レイノー現象に対する薬:ビタミンE、カルシウム拮抗薬、サルポグレラートを含む、抗血小板薬、プロスタグランジン、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬
逆流性食道炎・・・胃酸を抑える薬
皮膚潰瘍・・・血流改善薬、細胞増殖因子(フィブラストスプレー)
腎クリーゼに対する救命的治療・・・ACE阻害薬
早期の浮腫が主体の皮膚病・・・ステロイド
皮膚硬化、間質性肺炎に対する免疫抑制療法・・・シクロフォスファミド
間質性肺炎に対する抗線維化療法・・・ニンテダニブ
肺高血圧症に対する治療・・・血管拡張薬、エンドセリン受容体拮抗薬、選択的ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、
参考文献
The Lancet Rheumatology 3(7) 2021, e489-e497
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2022年12月30日 深谷進司