こむら返り(有痛性筋けいれん)はほとんどすべての人が経験したことがあるでしょう。
一時的とはいえ強烈な痛みを生じるし、繰り返す場合もあり不快なものです。ます。
こむら返りは、意図しない筋肉の強い収縮(けいれん)のことです。筋肉が「つる」と表現することもあります。ふくらはぎに起きることが多いです。
なお、「こむら」はふくらはぎのことです。
様々なタイプのこむら返り
一口にこむら返りといっても、色々な原因があります。
夜間の安静時に起こるもの。高齢者に多く繰り返す。
タイピング作業などの細かい繰り返し動作に伴って起こすもの。
運動選手が起こすもの。
熱中症の症状として起こすもの。
神経疾患に伴うもの(筋萎縮性側索硬化症、神経炎、神経根圧迫など)。
甲状腺疾患、糖尿病、肝不全、腎不全、閉塞性動脈硬化症、などに伴うもの
薬剤(利尿剤や吸入βアゴニストなど)(参考文献5)、血液透析(特に大量の水分を除去している場合)
妊娠中におこるもの
どうして起こるの?
上記の様にこむら返りのタイプが異なれば、それぞれの原因もかなり異なります(参考文献2)。
例えば、熱中症のけいれんは塩分と水分のバランスの問題で、相対的に水分が過剰になったためにおきます。塩分入りの水分摂取がとても重要ですが、高齢者に多い夜間けいれんには、あまり水分と塩分の不足やバランスの偏りは関係が乏しいようです。
筋痙攣のメカニズムは十分解明されていませんが、筋肉の反射のしくみの誤作動の影響が大きいと考えられてます。伸ばしすぎたばねが戻らなくなるように、筋肉が伸びすぎると傷めてしまうため、防御的に縮まろうとする反射が起きます(膝をトン!と叩いてふとももの筋肉がピクン!となるあの反射です)。逆に、筋肉が収縮してその両端にある腱が引っ張られると、それ以上の力がかからないように筋肉を緩める反射が起きます。このように筋肉や腱には長さや引っ張りの力を監視するセンサーがついています。このセンサーが疲労や加齢により誤作動を起こして、変に不必要な起こして筋肉を緊張させてしまったり、逆に筋肉を適切に緩める反射が起こらずに緊張が続いてしまうということが、夜間けいれんの原因ではないかと考えられています。高齢になると多くなるのは、筋力低下して筋に負荷がかかりやすいことや加齢により反射の誤作動が多くなるためと考えられています。夜間に多い理由はよくわかっていませんが、夜間に発汗して脱水になりやすいこと(特に高齢の方はトイレに行く回数を減らすため水分摂取を控える傾向がある)、体温が低下して血流が低下するせいかもしれません。
こむら返りは通常予測できない現象ですが、筋肉を短縮した姿勢で急に強く収縮させると自分で再現することができます(参考文献2)。つまりそのような状況を作ると起きやすいわけです。ハイヒールを履くと、ふくらはぎの筋肉は短縮した状態で強く負荷がかかるため、こむら返りが起きやすくなります。「重い布団をかけて寝るとつりやすい」という説がありますが、これも重い布団によりつま先がのびた形になりやすいため、けいれんをおこしやすくなるということかと思います。
運動後に起こるこむら返りのメカニズムはよくわかっていませんが筋疲労や筋障害の後に続いて脊髄反射の異常が起きて、こむら返りが発生するとされています。トレーニングシーズンの初期に、強い負荷の運動、特に暑い時期に起きやすいです。一部の状況では水分と塩分のバランスが悪くなると起きることが分かっています。この場合熱中症と同じように、水のみを摂取するのではなく塩分入りの水分を摂取しけいれんを予防するべきです (参考文献2)。
疾患に伴うもの
糖尿病. 週1回以上のこむら返りは、健常者1.9%、糖尿病患者11.5%と糖尿病患者に多かった(参考文献7)。低血糖時に起きやすい(参考文献6)。神経障害の回復時に多い。末梢神経が高度のものより正常の人に多い。末梢神経障害が高度になってしまうとかえって少なくなるのではないかと考えられている(参考文献7)。
閉塞性動脈硬化症患者に多い
低カルシウム血症患者に多い(テタニーという)
里吉病という、若年者で全身性にこむら返りを繰り返す疾患がある。原因はよくわかっていない。
熱中症に伴うもの。病院勤務をしていると夏の救急外来で良く熱中症の方が搬送されてきます。屋外あるいは換気の悪い屋内での作業中に具合が悪くなることが多いです。多くの方は高度の脱水に陥っており、大量の食塩水を点滴すると改善します。塩分入りの水分補給による予防効果ははっきりと示されており、鉱山や鉄工所の労働者で塩水摂取によりけいれんの発生を大幅に減らすことができたと報告されています。
夜間けいれん・・多くの人に起こり、繰り返す
ある調査では、50歳以上の3分の1が最近2ヶ月間にこむら返りを経験しており、
そのうち40%が週に3回以上、6%が毎晩けいれんを起こしていたそうです (参考文献4)。
治療は
夜間けいれんは、マグネシウム摂取、水分摂取、掛布団を軽いものにする、血行を良くする、筋肉の疲労をとるためのマッサージなどが提案されていますが、十分な医学的証拠が確認されているものは少なく、そのため民間療法の域を出ていない話が多いです。対策をしたらこむら返りが良くなった、という直接的な証拠ではなく、血行を良くするにはこれこれが良い、筋肉の疲労をとるにはこれこれが良い、だからこむら返りにも効くはず。という理由付けが多いように思います。
勧められている治療法の根拠と思われるもの
筋の収縮・弛緩にはカルシウム、マグネシウムが関わっている。
筋肉疲労には、タウリン、ビタミンB1が良い。
脚気(末梢神経障害)は、ビタミンB1不足で生じる。
布団が重いと、つま先が伸びた(ふくらはぎは縮んだ)姿勢になりやすい。
その場ですぐできる応急処置は反対側に筋肉を伸ばすことです。また、立って少し歩くと、反射が自然に是正されて収まることが多いです。
また、芍薬甘草湯(参考文献8)は即効性があります。知る人にとっては「68番」の愛称で親しまれている漢方薬です。患者さんからの評価が高いと感じます。様々な基礎疾患に伴う筋けいれんに有効で即効性を示します。肝硬変、血液透析、糖尿病性神経障害、脊柱管狭窄症による筋けいれんに対してことが分かっています。長期連用による低カリウム血症の副作用に注意する必要があります。
ほかに筋弛緩薬、抗不安薬が使われることがあります。
マグネシウム不足は腱紡錘の機能低下につながるとされますが、高齢者の夜間けいれんに対するマグネシウム補給の効果は乏しいようです (参考文献3)。
筋肉疲労、水分不足、冷えによる血行不良の改善、筋肉の緊張をほぐすストレッチが良いとする意見もあります。
水分や塩分の不足が関係するという説があります。熱中症のけいれん予防には明らかに塩分不足が関係し、大量に汗をかく環境での仕事中には塩分入りの水分摂取が熱中症とそれによるけいれんの予防に役に立つことが知られています。しかし、高齢者の夜間けいれんには、あまり水分と塩分の不足やバランスの偏りは関係が乏しいようです。
就寝前のストレッチは効果があるとする報告とないとする報告があり意見が割れています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2023年2月23日 深谷進司
参考文献
1) Eur J Neurol. 2019 Feb;26(2):214-221.
総説。
2) Maughan RJ, Shirreffs SM. Sports Med. 2019 Dec;49(Suppl 2):115-124.
3) Cochrane Database Syst Rev. 2020(9)
マグネシウム補給に関するレビュー。無料で全文閲覧可能
4) Age and Ageing, 23(5), 1994, 418–420,
5)Age Ageing. 2016 Nov;45(6):776-782.
6) Wheelock FC Jr, Marble A (1971) Surgery and diabetes. In: Joslin's Diabetes Mellitus. 11th Edit Marble A, White P, Bradley RF, Kral
7) 北岡治子ら 糖尿病における有痛性痙攣の特徴 糖尿病 34(10), 865-871,1991
8) K Ota et al. J Gen Fam Med. 2020 May; 21(3): 56–62.
芍薬甘草湯の効果に関する総説
9) Journal of Physiotherapy 60(3) 2014, 174