掌蹠膿疱症とは
手のひらや足の裏(掌蹠)に、慢性、無菌性膿疱性発疹が再発を繰り返す皮膚疾患です。無菌性膿疱性発疹とは、膿がたまった小さい袋のような特徴的な発疹を調べてみても病原菌はみられないということです。
ほかに紅斑、手のひらや足の裏ではない部位に孤立性膿疱、爪の病変がみられることがあります。また後述する骨関節病変がみられることがあります。
以下は、実際の患者さんの写真です。 ※ご本人の了解を得て掲載しています
掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)
掌蹠膿疱症の患者の10-30%に骨関節炎を合併し、掌蹠膿疱症性骨関節炎と呼びます。年齢は30代から50代に多く、男女比では女性に約3-4倍多いです。多くの場合、皮膚と関節の症状が同時期に出ますが、皮膚症状だけが先行したり、逆に関節症状が先行することもあります。
日本の調査で掌蹠膿疱症は人口の0.12%(約830人に1人)にみられたという報告があり、その20%が骨関節炎を合併するとすると、人口の4200人に1人が骨関節炎を合併していることになります。
罹患する関節は、前胸部(胸骨-鎖骨の関節、胸骨、胸肋関節)が80%と多く、 手・足、 仙腸、膝、肘、 指趾、腰椎は少ないです。仙腸関節・脊椎関節が侵される点で仙腸関節炎の臨床症状に似ているが、掌蹠膿疱症性脊椎関節炎はHLA-B27との関連はみられません。
診断
園崎らが1981年に提唱した診断基準では、1かつ2を満たすものを掌蹠膿疱症性骨関節炎と呼びます。
よく似た疾患概念にSAPHO症候群があります。SAPHO症候群の方がより広範囲な概念となります。Benhamouらが提唱した診断基準がよく用いられています。SAPHOとは、Synovitis(滑膜炎)、Acne(ざ瘡=にきびのこと)、Pustulosis(膿疱)、Hyperostosis(過剰骨化)、Osteitis(骨炎)、をつなげたものです。
原因
遺伝素因、扁桃炎や歯周炎などの病巣感染、金属アレルギー、自己免疫反応などが考えられています
喫煙
慢性扁桃腺炎
歯周病
治療
掌蹠膿疱症の方は体内に慢性炎症部位があると、それが回りまわって皮膚や関節へ炎症が伝わることがわかっていて、これを「病巣感染」といいます。具体的には、慢性扁桃炎、副鼻腔炎、歯周病などです。また喫煙が悪化要因になることと、禁煙により症状の改善が期待できることがわかっています。扁桃摘出手術だけで50%の患者さんが完全に掌蹠膿疱症が治り、76-95%の患者さんでよく改善したと報告されています。このように、患者さん側で改善のために協力してもらうことがあります。「タバコはやめる気はないけど、薬の治療はしてください」は少し違うのではないかと個人的には思います。
薬物療法
この疾患に対する薬物療法の臨床試験のエビデンスが乏しいため、2022年時点で学会がとりまとめたガイドラインはありません。これまでの論文報告や少数の臨床試験の結果を集約した医師の判断に基づいて行われます。
掌蹠膿疱症性骨関節症に対しては、非ステロイド系消炎鎮痛剤、コルヒチン、ビスフォスフォネート、抗生物質、抗リウマチ薬(シクロスポリン、サラゾスルファピリジン、メトトレキサート)、生物学的製剤などが用いられます。最初に掌蹠膿疱症の膿疱は基本的に無菌であると書きましたが、時に局所感染を合併することがあり抗菌薬が有効の場合もあります。
掌蹠膿疱症に対して、保険診療で使用することが公認された唯一の生物学的製剤が、グセルクマブ(商品名トレムフィア®)です。IL23p40を阻害することでIL23からIL17へと伝達される炎症の経路を抑えます。皮膚病変に対しての薬ではありますが、合併する骨関節病変にも有効であることが示されています。非常に高額で8週ごとに32.5万円の薬剤費がかかります。保険が効くので患者さん負担は1-3割です。高額療養費制度の対象になりやすいです。
その他、生物学的製剤ではTNF阻害薬が主に用いられ、骨関節病変と皮膚病変の両方に対して高い効果を示します(保険適応外の使用となります)。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2022年7月31日 深谷進司
参考文献
Yamamoto et al. Clin Pharmacol. 2021;13 :135-143
Yamamoto et al. Int J Dermatol. 2020;59:441–444