総評
総評
極論を言ってしまえば「party nite MIXが求める音」であれば全曲が合格となってもおかしくはありませんが、今回合格とさせていただいた楽曲は5曲……実質的には3曲となりました。
なお、審査に携わった「Prismatica Material Records」のメンバーはfunny drunker、Kim./TKC、Asuka Sakuraiの3名です。
では、どのような「音」を求めていたのかについてをもって、総評とさせていただきます。
1.一定以上のクオリティの音源
これはどのようなコンペでも変わりはないと思います。
基本的には例えば意図的ではない、と審査員が判断した不協和音をそのままにしている、あるいはMIXのバランスがあまりにも悪すぎる、などといった楽曲はその時点で減点となります。
また「このジャンルを手掛けるのであればこの音をなぜ入れないのか」という点も減点の理由になっています。
この辺りを特に厳しく見ていたのはKim./TKCで、StepManiaというゲームがDance Dance Revolutionのクローンであるが故か、比較的スピードレイヴ――要は音ゲーレイヴやユーロビートに属する曲の応募が多かったのですが、その殆どがユーロビートなどで使われているシンセリードの音を使用していない点について、かなり強めに言及しています。
「フリーウェアだとVitalやSYNTH1、DAWがFL studioならSylenth1の、ユーロビート系音源のプリセットを無料で配布しているケースが多々あるのに、何故探す手間を惜しんでこの音にしている?」
という意見があったほどです。
また、【Re:VISION】時点でFUNKOTが2曲というパッケージであるがため、FUNKOT / HARD FUNKでの応募もありましたが、こちらは実際にFUNKOTのトラックメイカーでもあり、DJをやったこともある自分がかなり厳しく審査し、結果として落選となりました。
「FUNKOT / HARDFUNK」というジャンルでは命題ともいえる「さかさま」であったのが最大の理由です。
また、曲がりなりにも日本のFUNKOTシーンの黎明期にトラックメイカーとして活動し、本場インドネシアのDJに楽曲がプレイされたことがある自分としては、仮に自分がDJとしてこの曲をプレイするか? というと「NO」だったのも理由です。
該当曲に関しては、自分と同様に黎明期にトラックメイカー兼DJとして活動していた、「Prismatica Material Records」の姉妹サークルである「FUNTEK LAB.」の代表のMIXAGOにも意見を募りましたが、彼の解答も「NO」でした。
実際に何十曲も手掛けている側からすると、思いのほか「FUNKOT」というジャンルは独特のビートに加えて、アッパーな声ネタやリードを「刻んでいる」なら成立する、と思われがちなのですが、FUNKOTは本質的にはベースミュージックです。
まずベースが骨太であること、これこそが「FUNKOT」の命です。
2.REMIXを通じて「何がやりたいのか」が明確である
これは「KEEP YOUR FAITH【Re:VISION】」というコンペのタイトルに込められていました。
直訳すると「君の信念を貫け」というのが、今回のこの企画のテーマでした。
この基準を最も満たしていた、と感じたのは「Parfait (Ipheion Mix)」です。
J-R&Bにありがちなスクラッチ音を盛り込んでおり、世紀末から00's前半の、それこそ宇多田ヒカルや倉木麻衣など、音ゲーで言うと「Really Love」などのJ-R&Bの名曲たちが生まれた時代こそが自分の好きな音楽だ、というのが非常に強く伝わってきました。
また「Ahead the Lotus」もStepManiaのクローン元、DDRならではのハイボルテージなレイヴサウンドを、という「理想とするDDR」を全力でぶつけてきていたと感じています。
3.「StepMania」というゲームがどういうものなのかを理解している。
普通のコンピレーションCDのコンペであるならばまず気にすることのない要素だと思いますが、あくまでこの「KEEP YOUR FAITH【Re:VISION】」というのは「StepMania」というゲームの楽曲コンペです。
すなわちどのような楽曲にも「譜面」が必ず付きます。
この基準を最も満たしている、と感じたのは「Parfait (Cafe "famille" Remix)」です。
合格発表で名義を「Master Y改めヤスナガフミアキ」と記載した通り、内部スタッフによる応募でした。
実はヤスナガフミアキ以外にもD.J.IristearやCzQ、それ以外にも「Prismatica Material Records」所属のメンバーほぼ全員の応募がありました。
常識的に考えてまさか内部スタッフが楽曲を送ってこないだろうと慢心していたせいなのですが、まあお祭り企画だしいいだろうとし、その代わり審査はかなり厳し目にしていました。
なので、「DDR party nite MIX」を知る人間からすると「まさか」とも言える、D.J.Iristear名義のREMIXが落選しています。
StepManiaというゲームはプレイヤーのステップにより音が鳴るわけではないので、極論を言ってしまえば全部128分のノーツで埋めても問題ないゲームです。
ですが「この音を踏ませたい」という主張がハッキリしている曲の方が、譜面制作という観点では非常にやりやすいです。
4.「party nite MIX」というパッケージをどういうものなのかを理解している。
例えばですがハードコアテクノ専門のレーベルにヴィジュアル系ロックを送ってもどうしようもないと思います。
それと同様に、「party nite MIX」というパッケージの音楽性がどういう方向を向いているのか、を理解している楽曲、というのが審査基準のひとつでした。
プレイヤーの方々が「DDR party nite MIX」がどういう音楽ジャンルのパッケージなのかは、ハードコアテクノが根底にある、創作ジャンルの哀愁系のMEMOIRをまず真っ先に思い浮かべると思います。
そしてそれ以外ではHAPPY HARDCOREやTRANCECOREなどといったハードコアテクノ系の楽曲、そして「sphere」や「Authbach 2005」、「delphinium」のようなTRANCEだと確信しています。
ですが制作スタッフは「Heaven」や「Fantastic Light」、最初期には「MONA=LISA」や「deep in you (2step remix)」のような曲を、パッケージを支える屋台骨として大事に扱っていました。
これを最も満たしている、と感じたのが「FINAL LETTER ("ZV" night after the love remix)」です。
これもまた身内からの応募、それどころか作曲者の片割れがセルフリミックスした音源が、この審査基準のうちのひとつで満点を叩き出してきました。
前述の通り「party nite MIX」というパッケージはハードコアテクノやトランスが強いパッケージではありますが、それと同時に【Re:VISION】シリーズで再録となった「Fantastic Light」や「strolling at midnight (twostep remix)」のように、ハウスミュージックや2STEPなどの、お洒落系のジャンルがしっかりと基礎を固めているパッケージです。
同様に「Parfait (Ipheion Mix)」もJ-R&B風というお洒落要素で構成された楽曲です。
5.「やべーやつ」
ネットスラング的に言うと「やべーやつ」としか言いようが無い音源があります。
今回の「KEEP YOUR FAITH【Re:VISION】」で、作曲者本人の推薦により課題曲として設定した「dive into the chaos」ですが、元ネタの曲をサンプリングし、StepManiaというゲームの特性を理解しつつも、原曲の作曲者であるAsuka Sakuraiが悪意をもって課題曲として設定し、難易度の高い楽曲であるはずの「dive into the chaos」を、自分の色で塗りつぶしています。
また「FINAL LETTER ("ZV" night after the love remix)」も愛好家がかなり存在していたハードウェアシンセの「JV-1080」のプリセットを使用し、あえてbeatmaniaの5鍵盤――つまり初代BEMANIの音源を再現してくる、という飛び道具を使ってきていました。
以上、総評となります。
2024/08/01 - Prismatica Material Records / UltraEcho a.k.a. funny drunker