麻布大学名誉教授 鈴木潤さん・新型ウイルスの拡大に思う ㊤2020年3月26日/㊦3月28日聖教新聞
新型コロナウイルスの感染拡大で世界に不安が広がる中で、私たちには何ができるのか――。
細菌感染症が専門で、麻布大学名誉教授の鈴木潤さん(※)からの寄稿を紹介する。・・・> ※創価学会 副学術部長(管理人注)
人類の歴史は感染症との戦い・・・・・・『参考』NHKコロナウイルス特設サイト
新型コロナウイルスの感染拡大はパンデミック(世界的流行)と認められると、WHO(世界保健機関)が発表した。一日も早い終息を祈るばかりである。 歴史を振り返れば、感染症は“人、モノの拡大”に伴って広がってきたことが分かる。インドが起源と見られる天然痘は5~8世紀にシルクロードをたどって東西に波及し、奈良の都では藤原一族ら、多くの死者が出た。この天然痘は、16世紀にはアメリカ大陸に持ち込まれ、メキシコにあったアステカ王国とペルーにあったインカ帝国が滅亡。さらに19世紀から20世紀にかけ、インドを起源とするコレラは中東、アフリカ、そして日本を含むアジア諸国などに広がった。
また、生物学的には、さまざまな発生説があるが、感染症が発生する背景には「戦争」や「人心の荒廃」があることは否めない。
中央アジアで発生したと考えられるペストが猛威を振るい、欧州での死者が人口の3分の1にも達したと推定される14世紀頃には、イギリスとフランスの間で百年戦争があった。世界の6億人が感染し、2000万人以上の死者(日本でも38万人以上が死亡)が出たスペイン風邪は、第1次世界大戦中に起こった。
そして現代に見られるグローバリゼーション、環境破壊による地球温暖化……。そうした中、今世紀に入ってからは、2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群)、そして今回の新型コロナウイルスのパンデミックが起こっている。
しかし、これまで、人類はそうした局面でも、たくましい知恵で感染症に立ち向かい、乗り越えてきた。
例えば、人類最大の感染症といわれたスペイン風邪では、猛威を免れた村もあった。この村の教師が“わが村からは一人も罹患者を出さない”との心で立ち上がり、持てる知識を使って拡大を防ぐ方法を全住民に強く訴え、村独自の検疫体制を敷いたからである。
共助や利他の心が脈打つ社会築く学会の使命は大
そもそも、感染症の拡大を防ぐには、次の三つの視点が重要である。
一つ目は、体内にウイルスを入れないこと。それには、入念な手洗いや消毒などが必要となる。
二つ目は、ウイルスが身体の中に侵入しても体内の免疫力で排除すること。そのための方法として風呂に入って体を温めたり、適度な運動や睡眠、バランスの良い食事などを心掛けたりすることが大切である。これらは免疫細胞をつくる上で重要だと知られている。
そして三つ目は、免疫抗体を獲得すること。これはウイルスを排除する上で、最も大事である。だからこそ現在、ワクチンの開発や抗ウイルス剤の開発研究に、世界中の研究者が取り組んでいる。
そう考えれば、私たちにとって重要なのは一つ目と二つ目の観点なのである。
ここで、病原体の特徴である生育速度について考えてみたい。
病原体が細菌である場合、1個が分裂を起こして2個になる時間は15分から30分である。この間隔を「世代」と言うが、この速度で分裂を繰り返すと、時間の経過とともに2、4、8、16と増えていき、一晩で1個が数十億個にもなる。病原体の生育は、対数増殖だからである。ゆえに、感染症拡大においては、いかに「1個の病原体を抑え込むか」「一人に抑え込むか」という視点が大切になる。
自分だけ助かっても、誰かが感染してしまえば、そこから病原体は増えていく。その意味では、対策の中に「一人だけ助かれば良い」ではなく、手洗いなどの予防の基本を人々に伝える、必要な人にマスクを届けるといった、「皆で助け合おう」との「共助」や「利他」の哲学が必要なのではないだろうか。
日蓮大聖人が「立正安国論」を執筆された時も「天変地夭・飢饉疫癘・遍く天下に満ち」(御書17ページ)と仰せの通り、疫病が蔓延していた。当時の状況は鎌倉時代の記録『吾妻鏡』などに記載があり、疫病は天然痘や赤痢、そして三日病などといわれているが、この「三日病」について、日本医史に詳しい中村昭氏は、3日間熱が下がらないという症状から“インフルエンザではないか”と指摘する。
そうした中にあって、大聖人が「汝須く一身の安堵を思わば先ず四表の静謐を禱らん者か」(同31ページ)と記された意味の重要性を、私は感じてならない。
スペイン風邪を防いだ村のように、「共助」や「利他」の心が脈打つ社会を築く。ここに、創価学会の使命もあるのではないだろうか。
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学術部から寄稿 新型ウイルスの拡大に思う㊦ 麻布大学名誉教授 鈴木潤さん 2020年3月28日
祈りと励ましが免疫力高める
☜ 電話のかけ方を練習する親子。たった一本の電話でも、真心の励ましで周囲を笑顔にできる
現在は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、一人一人の行動は制限されている。
しかし、その中でも学会の同志は、皆が「今できること」を懸命に考えながら、一日も早い終息を祈り、周囲に励ましを送っている。そうした活動は、「共助」「利他」の心を世界に広げる行為にほかならない。そして私たちの地道な活動は、免疫学の観点からも、免疫力を自他共に高めるものだと感じている。
笑みを絶やさず
前向きに生きる
その一つが「笑い」の効能である。
「がん」を例に挙げれば、笑いによる脳への刺激が免疫機能を活性化するホルモンの分泌を促し、通称「殺し屋」の異名を持つ「NK(ナチュラルキラー)細胞」が活性化する。NK細胞は、常に体内をパトロールし、がん細胞を見つけると殺す役割を担う。つまり、「笑う」ことは「がんになりにくくする」ことにつながるのである。
周囲を笑顔にする私たちの励まし、また困難に直面しても“笑みを絶やさず前向きに生きよう”とする私たちの生き方にも、免疫力を高める同様の効果があると考える。
実は、細胞に含まれる遺伝子解読に関して、こんな話題がある。
これまで「有用」(トレジャーDNA)とされていたのは、たったの2%。残りの98%は、何の働きもしない「ゴミ」(ジャンクDNA)とされていた。ところが急速な技術の進歩で未知の領域の解読が進んだ結果、「ゴミ」といわれていた中に“病気から身体を守る特殊なDNA”や“私たちの個性や体質を決める情報”があることが、次々と明らかになってきたのだ。ここには、健康長寿を実現したり、誰もが潜在的な能力を発揮したりするヒントもちりばめられている。
日蓮大聖人は「法華経題目抄」で、南無妙法蓮華経の「妙」の字に込められた功力を「開の義」「具足・円満の義」「蘇生の義」の三義として説かれている。
この「妙の三義」に、現代の免疫学の知見を重ね合わせると、次のように展開できると考える。
第一の「開の義」について、大聖人は「妙と申す事は開と云う事なり」(御書943ページ)と仰せである。これは、法華経こそ諸経の蔵を開く鍵であることを明かされたものであり、ひいては妙法には人間をはじめ、あらゆる生命の持つ可能性を開いていく力があることを示された御文である。
生命には、本質的に「開」という特性がある。
私たちの身体を構成する何十兆個もの細胞は、その一つ一つの間で、例えば“落ち着いて”と伝える制御性T細胞など、さまざまなメッセージ物質を頻繁にやりとりしていることが知られている。そのメッセージに応じて、必要な合成や変化を起こすからこそ、私たちの身体の調和は保たれているのである。
ここで大事なことは、そうしたメッセージをやりとりするために、一つ一つの細胞の膜では、いつでもメッセージを受け取れるように、ほかの細胞に対して“常に開かれた状態”にあるということである。
この「開」という本質は、細胞核にあるDNAにとっても変わらない。なぜなら、細胞の中にメッセージ物質が取り込まれた時、必要に応じて“眠っていたDNA”が発現するからである。
また、第二の「具足・円満の義」とは、妙法に一切の功徳が欠けることなく具わっていることを指す。細胞レベルで考えると、全身の細胞一つ一つには、病気を治す力など、あらゆる可能性を秘めた遺伝情報が潜在的に具わっていることを指し示している。
さらに、第三の「蘇生の義」とは、妙法には万人に生きる活力を与え、みずみずしく蘇らせる力があること。これは、一つ一つの細胞の中にある遺伝子の働きによって、細胞の代謝が始まっていくことを意味している。
その上で、重要なのは“眠っていたDNA”のスイッチを入れていくことであるが、興味深いのは、それぞれの分野で最先端の研究を重ねる学術部員と語り合う中、“私たちの励ましや祈りは、遺伝子に働き掛ける力を持つ”等と指摘する人がいるということである。
現代は交通手段などの発達によって、新型コロナウイルスの広がりは、従来の感染症に比べて格段に速くなった。
しかし一方で、インターネットの普及に伴い、メールやSNSなどを使って、瞬時に励ましを送れるようになり、動画などを見て語り合うこともできる時代になった。どこにいても、距離の壁を越えて希望を送れる時代となったのだ。
感染症と戦ってきた人類の歴史を踏まえれば、これからも、新種のウイルスが人類に脅威を与えるかもしれない。だからこそ励ましを通して共助や利他の心を広げ、祈りによって自らの生命を強くする私たちの信仰が、社会の希望の光となっていかなければならないとの思いを強くしている。
☜ YouTube(限定公開)を活用した男子部の「LIVE講義」。会合開催などを見合わせている今、大学校生らの信心錬磨の機会となっている
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