【対談】渋沢栄一が現代に語り掛けるもの。

衆議院議員・岡本三成氏の著書「逆転の創造力」2020.3.19発刊・潮出版社。岡本三成メールマガジンVol.65

3氏との対談のうち、渋澤健氏(渋沢栄一の子孫)との対談ダイジェスト(「月刊 潮 4月号」p.62~68)を下記に転載させていただきました。

三浦瑠麗、デービット・アトキンソン氏との対談はぜひ本書で直接お楽しみ下さい。

https://www.usio.co.jp/topics/news/20391.html

わしは暗いところが嫌いじゃ

岡本〉 渋澤さんとは、1990年代にそれぞれゴールドマン・サックスで働いていたこともあって、お付き合いが始まりました。最近では、超党派の国会議員を対象にした渋沢栄一の『論語と算盤』の勉強会の講師も務めていただいております。

渋澤》 岡本さんには、勉強会の事務局長としていつも精力的に尽力してもらっています。

岡本〉 2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」は、若き日の渋沢栄一が主人公の物語です。大河ドラマで財界人が主人公になるのは初めてだそうですね。また4年後2024年には、渋沢栄一の肖像が描かれた新一万円札の発行が始まります。2019年に新紙幣のデザインが発表された際は、どんなことをお感じになりましたか?

渋澤》 時代の流れはキャッシュレスですので、もしかすると次が最後の紙幣になるかもしれません。そんななかで、すごくスマートな決定だと思いました。1000円札は近代医学のパイオニアである北里柴三郎。5000円札は女性教育を大きく推進した津田梅子。そして一万円札は日本に資本主義の礎を築いた渋沢栄一。この三者の組み合わせが良いと思いました。------------------------------------

岡本〉 科学とジェンダー、そして経済。まさに多様性を象徴していますよね。

渋澤》 個人的には、令和時代に持続可能な社会を築くためには、その三つの要素が必要だというメッセージなのかなと思っています。

岡本〉 もしも紙幣のなかの渋沢栄一が、2024年という時代にひとことだけ言葉を発するとしたら、どんなことを言うと思いますか?

渋澤》 「わしは暗いところが嫌いじゃ」というはずです。つまり、タンスのなかに置きっぱなしにしないでくれと。いま、日本のタンス預金は、およそ50兆円あると言われています。日本人全体の現預金は991兆円。その5㌫がタンスのなかに眠っているんです。お金は資源です。日本には資源がないと言われることがありますが、資源がないのではなくて、ただ単に使っていないだけなのです。

岡本〉 渋沢栄一について、私が感じていることが二つあるんです。一つは、渋沢栄一といえば、「優しい資本主義」と思われがちですが、私はそうは思っていないということ。むしろ、基本的な部分は勝負師だったのではないかと考えているんです。

渋澤》 かなり競争心が激しい人だったと思います。ただ、最近の言葉でいうインクルージョン(包摂)の思想は持っていたはずです。それは渋沢栄一が唱えた「合本主義」という言葉に象徴されます。「合本主義」とは、最適な人材と資本を集めて、事業を推進させるという考え方です。

岡本〉 もう一つは、渋沢栄一は生涯のうちに四度、アメリカに行っていますが、最後に渡航したのは81歳のとき。船に乗ってアメリカに行っているんです。あのバイタリティはどこから湧いてきたんだろうということです。

渋澤》 それは、渋沢栄一が生涯を通して時代の流れに敏感だったからではないでしょうか。渋沢栄一が最初に外国に行ったのは1867年(慶応三年)。まだ27歳で、行き先はフランスでした。当時の世界の中心はヨーロッパです。ところが、それが20世紀に入るとヨーロッパからアメリカへパワーシフトが起きます。そうなると、日本としてもアメリカとしっかりとした関係を築かなければならなくなる。きっとそんな思いを持って、1902年(明治35年)に当時62歳の渋沢栄一は、初めてアメリカを訪れたはずです。

精神的な豊かさも追求する

岡本〉 渋沢栄一はその生涯のうちに、470もの企業の設立に関わり、約600の慈善団体などの設立や経営に携わっています。そんな渋沢栄一が後進の企業家を育成するために語り残した経営哲学こそが『論語と算盤』です。この『論語と算盤』のなかで、渋沢栄一が最も伝えたかったことって何だと思いますか?

渋澤》 それはサスティナビリティ、持続可能性でしょうね。渋沢栄一のライフワークは、国力を高めることだったと言えます。日本は明治維新を経て、わずか数十年間で先進国に追い付き、物質的には豊かな国の仲間入りをしました。しかし、晩年の渋沢栄一はそのことに満足をしないだけでなく、むしろ日本人の精神的な貧しさを危惧していたくらいです。ただ単に物質的な豊かさを求めるだけに留まらず、精神的な豊かさも追求する。これを渋沢栄一の言葉に置き換えれば『論語と算盤』になり、いまの言葉に言い換えると「持続可能性」になると思うんです。

岡本〉 物質的な豊かさが『算盤』で、精神的な豊かさが『論語』。それらの組み合わせが持つ現代的な意義が「持続可能性」ということですね。

渋澤》 そうです。持続可能性のためには算盤は欠かせません。しかし、それだけを見つめていると、どこかでつまずいてしまう。一方、論語しか読まないと、それも持続可能ではない。論語と算盤は、未来に向かって前進している車の両輪のようなものです。どちらか片方が大きくて、もう片方が小さいと、まっすぐに進むことができず、同じところをグルグルと回ってしまうのです。

岡本〉 利益だけを追求して一時的に大成功を収めたとしても、それを持続可能ものにするためには、やはり哲学が必要になる。ただし、この哲学というのはなんでもいいわけではありませんよね。良い哲学を持たなければ持続可能にはなり得ない。

渋澤》 そうですね。普遍性がなければ持続可能にはなり得ないでしょうね。私は講演などでよく「“か”の力」と「“と”の力」について話をします。ここでの「か」と「と」は、それぞれ「論語か算盤」の「か」、「論語と算盤」の「と」を指します。

「“か”の力」は効率を高めますが、どちらかを選択しなければならないので、そこでは新しい創造は生まれません。他方、「“と”の力」は一見矛盾するように見えるし、最初は試行錯誤を繰り返すものの、うまくマッチングすればそこで新しい創造が生まれるんです。

岡本〉 なるほど。先ほどの「競争心があった」とか、「勝負師だった」という話にも通じますが、渋沢栄一が示したサスティナビリティって、「10」できるものを「2」とか「3」だけやり続けることで持続可能にするといった消極的なものではないですよね?

「10」できるのであれば、常に「10」を目指す。それを持続可能にすることを目指している印象を持っているんです。

渋澤》 そもそも持続可能性とは、同じ状態がずっと続くことではないと私は考えているんです。持続可能性をひとことで言い換えれば世代を超えられるかどうかであって、そのためには常に変わり続ける環境に応じて、こちらも新陳代謝を続けなければならないんですよね。

岡本〉 かつて200万人を超えていた出生数が、2019年は86万4000人と、統計開始以降初めて90万人を割り込みました。少子化・人口減の社会のなかでのサスティナビリティについては、どんな考えをお持ちですか?

渋澤》 未来には二種類あって、一つは「見える未来」、もう一つは「見えない未来」です。今の日本における「見える未来」は言うまでもなく少子化・人口減の加速でしょう。

他方、「見えない未来」にはこれから起こり得る新たな課題というネガティブな側面もあれば、社会がより良く変化する可能性というポジティブな側面もある。だとすれば、私としてはポジティブな側面を信じたいと思っているんです。

岡本〉 私もそれには大賛成です。日本の未来についてネガティブに考える人が少なくありませんが、私は日本にはまだまだ潜在的な力があると思っています。それを信じ、引き出していくことこそ、政治家が果たすべき役割ですよね。

若い人たちには、渋沢栄一から何を学んでほしいですか?

渋澤》 それは「同じ場所にいないでほしい」ということじゃないでしょうか。日常のループの中では新しいスイッチは入らない。それこそ若い頃の渋沢栄一は、尊王攘夷運動に加わってみたり、パリ万博使節団の一員としてフランスに行ったり、大蔵省を辞めて今でいうスタートアップのベンチャーを起業したりと、同じ場所に留まらなかった。今の若い人には、普段なら行かない勉強会に行ってみたり、一人旅をしてみたりと、日々の行動パターンを少しだけずらしてみることをおすすめします。

岡本〉 今のご指摘は、日本人の転職に対する心のハードルの高さにも通じているように思います。時々、野党議員からこんなことを言われるんです。「年齢は30代、同じ会社で長年働き、残業が多い。それなのに年収200万円以下の人もいる。そういう人々のつらさを政府与党はわかっているのか」と。

もちろん、政治家としてそうした声はしっかり受け止めなければなりません。しかし、現実として世の中にはもっと条件の良い仕事はたくさんあります。ぜひ自分の能力を発揮できる、そして努力が評価される場所を、積極的に自分で見つけてほしいのです。もし先ほどのような方がいれば、それまでの日常からほんの一歩でいいから、外に足を踏み出し、視野をポジティブに広く持てば、より良い場所が見つけられます。また、そういう機会をより多く提供していきたいと思っています。

ポテンシャルを引き出すために

岡本〉 一方で60~70代の方々は、渋沢栄一からどんなことを学べると思いますか?

渋澤》 自分たちが作ったレールに固執しないことですね。人も社会も満足をした瞬間に停滞するものです。まさに、60歳を過ぎてから新たな世界の中心地であるアメリカに4度も渡航した渋沢栄一のように、これまでとは違うスイッチをONにしていくべきだと思っています。

岡本〉 私は、60代や70代の人には、渋沢栄一はこんなふうに言うんじゃないかと思っています。あなたたちはまだ高齢者じゃない。ちゃんと富を生むことができるんですよと。

渋澤》 確かに。人生100年時代という観点からも、後世に良いロールモデルを残してください、と言うかもしれませんね。

岡本〉 いわゆる“高齢者”の域に差し掛かると、多くの人が「論語」に傾倒して「算盤」を手放しがちです。だけど、60代や70代って「算盤」を捨てるにはまだまだ若いと思うんです。政治の役割として、希望する方であれば60代や70代でも、積極的に採用してもらえる仕組みを作っていく必要があると感じています。

渋澤》 人生100年と考えれば、まだまだ現役ですよね。

岡本〉 若い人たちに対しては「同じ場所にいないこと」というアドバイスがありました。私も学生時代のイギリス・グラスゴー大学への留学や、社会人になってからの海外勤務の経験で多くのことを学ぶことができました。いまのすべての学生たちにも留学経験を積んでもらいたいという思いはあるのですが、政治の力でそれを実現するのは難しい。ただこんなことはできるんです。

茨城県境町では、2018年度より、高いスキルを持ったフィリピン人講師を町内の全小中学校に配置する「スーパーグローバル事業」を開始しました。義務教育においてネイティブ・スピーカーと触れ合うことで、次世代の英語力を向上させ、彼らの選択肢を増やそうとしているのです。この先進的な英語教育には注目が集まり、それを目当てに境町に移住する人々や、全国の自治体関係者による視察が後を絶たないようです。いま、境町のホームページでは、子どもたちが英語で町のPRをしているんですよ。私はこの事業の創設に尽力させていただきました。

渋澤》 それは素晴らしい取り組みですね。もっと社会に知られてほしいですね。

岡本〉 私はいま、渋沢資料館がある東京都北区に住み、公明党の東京第12選挙区総支部長(北区全域・足立区西部・豊島区東部・板橋区北部)を務めています。地域の活性化という意味では、境町の取り組みのように、私の住む地域でもそれぞれの強みを生かして、さらに活性化させることができると思っています。

渋澤》 岡本さんには議員として、北区もそうだし、日本全体が持っているポテンシャルをいかんなく発揮するような仕事をしてもらいたい。岡本さんの良いところはとにかく明るいところです。現実に様々な難しい課題があるからこそ、未来を信じるためにはその明るさが必要なんです。

岡本〉 ありがとうございます。今後も全力で頑張ります。 ▯▮

『逆転の創造力』岡本三成著

三浦瑠麗デービット・アトキンソン渋澤健といった各界のオピニオンリーダーと、日本の「逆転」をめぐって激論を交わした特別対談を収録。岡本三成の半生を綴った初の著作!3月19日発売。税込み900円。潮出版社刊。


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