連載〈ライフウオッチ 人生100年時代の幸福論〉
中谷さん㊨とペアを組む山下稔さんは昨年、入会。「22年かかりました」と
障がいがある人と健常者が一体となって、“バリアー(障壁)のない舞台”を創り上げる「まゆみ劇団」。
主宰者である中谷まゆみさん(69)=大阪市平野区、地区副婦人部長=は「たまたま障がい者になって、嘆いているより、少しでも生きるって素晴らしいことやと感じてほしい」と語る。
底抜けに明るい彼女の強さに、人生100年時代を生きるヒントがある。(記者=野田栄一、掛川俊明 写真=種村伸広)
劇団を主宰して21年になる。自主公演にイベント出演、施設への慰問など活動は幅広い。 もともとは、ウィルチェア(車いす)ダンス中心のミュージカルを行っていたが、今では詩吟、琴・三味線などの邦楽演奏、影絵の劇まで演じる。
「21年もやってると、みんな高齢化して、激しいのは無理。動かんでいい演技が増えてんよ」
それもそうだが、15人も劇団員がいれば、障がいもさまざま。「手が使えれば、楽器。車いすに乗れない子にもできる演目を、と考えていって。全部、覚えて教えなあかん、こっちは大変やで」
脚本から作詞作曲、ダンス、詩吟、楽器の演奏指導も中谷さんが担当する。しかも、そのほとんどが、50歳を過ぎてから始めたというから驚きだ。
2歳の時、ポリオ(小児まひ)にかかった。娘の将来を案じた両親が1954年(昭和29年)、創価学会に入会。 常勝関西の草創期、両親に連れられ、親戚中を折伏に歩いた。物心つく頃には、勤行・唱題を実践し、小学2年で任用試験にも合格した。
外出も小学校の登校もずっと母に背負われての生活。“歩けるようになりたい”と祈り、訓練に励み、小学5年の春、初めて杖をつき、一人で登校することができた。
しかし、校門の前で同級生に石を投げられた。その日から壮絶ないじめが続いた。それでも、くじけなかった。「家に帰って、何くそって題目あげて」
中学2年の夏、近畿地方の障がい児が集まる合宿に参加した。その夜、同じポリオの女子生徒に言われた。 「私らは一生、この体のままや。結婚もできへん」
それまで母から「祈れば、いつか治る」と聞かされていた。愕然とした。「それからは反抗期まっしぐら!」
心配した女子部の先輩が訪ねてきても、取り合わない。ある日、母に諭された。
「あの子はな、複雑な家庭環境で苦労しながら、一人で信心してんねん」
“それなのに私のために……”。先輩の思いが心に響き、素直に話を聞くように。
「仏法では『願兼於業』と説かれてるんよ。今は分からへんかもしれんけど、私らには使命があるねん」
感動し、再び、信心に目覚めた。
高校進学は断念し、手に職をと和裁を学ぶ。ひたぶるに祈る中、18歳で結婚。子宝にも恵まれた。だが、すれ違いが重なり、29歳で離婚する。 シングルマザーとなり、幼い娘を育てるため、内職して生活費を賄った。
その頃までは杖で生活していたが、徐々に体が動かなくなり、車いすに。
持病の肺気腫も悪化し、毎晩、せきで寝付けなくなった。
失われていく体の自由。“私の使命って何なん……”。御本尊に泣きながら祈った。
そして、ある思いが湧く。「障がいがある私やからこそ、社会に飛び出さな!」
障がい者の施設や作業所を回って、何をすべきか模索した。暗い顔をした人たちが気になった。化粧もせず、服にも無頓着――。
「障がい者が輝く姿を、いろんな人に見せたい。そんな舞台があったらいいなあと思って」
1999年(平成11年)に劇団を結成する。ウィルチェアダンスを始めるも、活動は低迷したまま。
そんな頃、民音公演のアルゼンチンタンゴに魅了された。 「傷ついた気持ちを素直に表現するタンゴは、私にぴったりやった」
来日したプロの舞踊家に指導を仰ぎ、レッスンに励む。車いすで踊るアルゼンチンタンゴは一躍、話題を呼んだ。
劇団員も増え、テレビでも特集され、さまざまなイベントに引っ張りだこに。
しかし、活躍すればするほど、周囲の嫉妬にさらされた。足を引っ張られ、諦めた事業もある。
壁にぶつかるたび、「強くあれ」との池田先生の言葉を思い返した。 「先生は、できないことは言われへん。“私も強くなる”って題目あげてあげて。そしたら、ちょっと強くなりすぎました(笑い)」
夫・政夫さん㊧と自宅で談笑 46歳で一緒になった夫・政夫さん(80)=副常勝長(副ブロック長)=とは再婚同士。
子どもも3人ずついて、一族は大所帯に。集まればいつも、にぎやかだ。
中谷さんは諦めていた進学にも挑戦。59歳で夜間高校を卒業した。
「私の人生は限界ばっかり。けど、へこたれへん。悩んだら、聖教新聞。先生が背中を押してくれる。そして、何回でもやり直す。結婚も3回したしね(爆笑)」
池田先生は語っている。
「あらゆる差異を突き抜け、人間としての根源の力で人々を救うのが地涌の力です。“裸一貫”の、ありのままの凡夫、『人間丸出し』の勇者。それが地涌の誇りなのです」
「まゆみ劇団」のメンバーと 「まゆみ劇団」は12年前、NPO法人「フレンド」に。地元・大阪市平野区内で、健常者と障がい者が一緒にボランティア活動を行ったり、小・中学校の人権の授業に招かれたり、地域密着の活動を続けている。
しかし、現在は、新型コロナウイルスの影響で、劇団は慰問や公演を見送っている。学校の授業も自粛になった。 介護施設の職員から「利用者さんが会いたがってます」と言われると、心が痛む。
だが、嘆くより、輝く。今は力を蓄える時だと、琴や詩吟の稽古にいそしむ。
「ようやく障がい者もおしゃれして、街へ出ていく時代になった。だけど、バリアーは残ってる。私らの輝きで社会を変えていかな。使命は大きいねん」
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