ほかの誰も薦めなかったとしても 今のうちに読んでおくべきだと思う本を紹介します。
という長~い題名の書物を鹿沼市立図書館で見付けました。
30人共著で一人6ページ、全体で200頁。
2012年5月初版・河出書房新社。
大好きな「服部文祥」さんを図書館の端末で検索したらこの本がヒットしました。
30人中私の書棚にある著者は、服部文祥・新井紀子・佐藤優・出久根達郎の4人のみでした。
以下、服部文祥さんの短いお薦め文をご紹介します。この文章は要約困難であるし、要約すべきでない。
また、この原文に辿り着くのも大変なので、著作権上問題ありますが、敢えてそっくり書き写しさせて頂きます。中学生のために。
(いつか中学教科書に載るでしょう)
慎重丁寧にキーボードを打ちます。
服部先生ご容赦下さい。おそらく許して頂けるのではないでしょうか。 (森 記)
~~~~~~~~~~~~~~~~~Ⅱ
世界にも自分にも誠実であるとは
服部文祥
服部文祥さんお薦めの一冊
[本当の戦争の話をしよう]
ティム・オブライエン著
村上春樹訳
文春文庫1998年
考えて山に登る。
その山で、考えてもみなかったことが起こり、個人的な発見がある。それを日本語に置き換えて言語芸術にする。おおざっぱに言って、それが私のライフワークです。
人間が作り出す芸術作品はいろいろな形態がありますが、すべて内容と技術(表現形式)の両輪からできあがっていると私は考えています。絵画ならモチーフとタッチ、音楽なら曲と演奏、文章ならストーリーと言葉です。
音楽的能力が高いと楽譜を見ただけでその作品が頭の中で鳴り響くといいます。しかし、多くの人は演奏や録音を聞かないとその音楽作品を体験することはできません。もし演奏がまずかったらどうでしょう。その音楽作品が持っている魅力はとても伝わらないのではないでしょうか。
言語芸術でも同じことが言えます。文字表現が達者でないと、ストーリーは読者の心に響いてこないのです。
私が紹介する本は、ティム・オブライエンというアメリカ人の言語芸術です。題材はベトナム戦争。日本を代表する作家である村上春樹が二〇年以上まえに翻訳しました。
内容は題名の通り、一兵士が体験したベトナム戦争の報告です。わくわくどきどきさせられるストーリーではありません。
近現代の戦争は「否定すべきもの」という前提で扱うことが日本では習慣になっています。主張が反戦でなければ、もしくは反戦要素が入っていなければ、日本では戦争作品が評価されない傾向にあるのです。
ロボットアニメなどでは戦争や戦闘にともなうロマンを前面に押し出して、ドラマを盛り上げていきます。壇ノ浦の戦いや天下分け目の関ケ原が芸術作品の題材として扱われるときには、反戦要素は考慮されません。なぜ太平洋戦争以降は違うのでしょうか。
戦闘の規模が拡大し、戦士以外の民間人が多く犠牲になったからかもしれません。太平洋戦争が負け戦だったからかもしれません。日本が殺戮行為の対象になったからでしょうか。
本書は戦争の正誤や善悪に関して分析したり解説したりしません。そういうことをほのめかすこともなく、ただ戦争を人の行為としてとらえ、内側からその細部を積み上げることで、戦争とはなにかを浮き彫りにしていきます。
戦争の日常や生活、装備や行軍、兵士の個性、ベトナムの人々、仲間の死、自分が手を下した敵兵の最後などがエピソードとなってランダムに語られます。自国で徴兵拒否するか悩む若者、幼い日々の死を巡る思い出、兵役を終えた兵士の末路など、戦争の周辺にも目を向けてごまかしません。
戦争とは、醜く否定するべきだけのものではないことも語られます。統一を持って展開する部隊の美しさと戦闘の残虐的結末。戦闘の合間に訪れる静寂に感じる平和。仲間や敵の死で感じずにはいられない自分の生、それは醜の中の美、戦争の中の平和、死の中の生、というさまざまな二重性へとつながります。
絶対的な悪とされる戦争が、見方を変えれば内側に善とも言える要素を含んでいる。体験や感情とは、それだけを取り出せば善悪では判断できないものだと私は思っています。それは善悪を越えてそこに存在してしまうものだからです。本書は私がはじめて出合った、戦争をごまかさないでそのまま提示する作品でした。「本当のことが書いてある」と全身で感じることができる作品だったのです。
表現にも触れておきましょう。私はまず、村上春樹の日本語が好きです。うまいと思います。巧みな比喩はもちろんですが、口語的な文語というのでしょうか、難しい漢字や熟語を使わずに、話を展開していきます。たとえば「考える」を「思考する」とか「考察する」などと言わずに「うんうんうなった」とか「首をかしげた」とか「本当の意味を探した」とか、なじみのあるクリアでブレのない表現にして文章を作り出します。演奏のたとえでいうなら、村上春樹の翻訳はメロディーをなんとなく追うのではなく、それぞれの楽器がきっちと丁寧に音を出しているのです。オブライエンが作曲した傑作交響曲を村上春樹交響楽団のすばらしい演奏で日本語に置き換えることに成功したといえるでしょう。
この本は私がはじめて自分の本を作るときに何度となく読み直したものです。登山とはなにか、登山者とはなにか、「本当のことを書きたい」と思いつづける私は、今でも本書をよく読み返しています。内容に関しても、表現に関しても、学ぶことが多く、書き手としての覚悟も教わった本書を、私の一冊としてお薦めします。
服部文祥
1969年、神奈川県生まれ。登山家・作家。国内外に登山記録を持つ一方で、みずから「サバイバル登山」と名付けた登山を実践する。すなわち、食料を現地調達し、装備を極力廃した長期の登山である。その実践の記録として「サバイバル登山家」「狩猟サバイバル」(以上、みすず書房、思想を記した「サバイバル!」(ちくま新書)、「百年前の山を旅する」(東京新聞)、編著に狩猟の精神に迫ったアンソロジー「狩猟文学マスターピース」(みすず書房)がある。
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服部文祥さんの本に出合ったのは10年以上前「サバイバル!」です。
日本海を出発して、上高地までの約200キロ(直線100キロ)を、獣道を辿り、沢を登り、避難小屋を無視し、岩魚を釣って食べてサバイバル登山を果たした、生還記録でした。
何気なく街の本屋さんで購入した新書版の本でしたが、一気に読みました。その後何回か気になって読み返した本です。
ただ当時からストーリーや登山内容に驚くばかりで、一歩一歩あるきながら一語一語紡ぎ出していく「言語芸術家」であるとは思い至りませんでした。
今回、上記「世界にも自分にも誠実であるとは 」に出会って初めて服部文祥さんがなぜ山に登りなぜ言葉を紡ぐか、その覚悟の片鱗にようやく触れたように感じました。
世界にも自分にも誠実でないと生きていけないし書けない内容なのです。
世間でなく世界というのがまた最高に素晴らしい。
(森 記)
~~~P戸松孝夫氏感想2020.2.3~~~石垣島より~~~~~~
はっとりさんちの狩猟な毎日 服部文祥
こちらに遊びに来ていた校長先生も帰り、退屈し始めたので、昨日石垣市立図書館へ行ったきた。(クラブメッツに関しては坂本論文の掘り起こしで貴兄に大変な手間をかけ、校長先生が自分のタブレットで全文読めることになった筈だが、その後反応なし)。
以前に貴兄から紹介があり、読んでみたいなと思っていた掲題の書を探して見たのだが、本島唯一の図書館には置いてなかった。
ネットに載っていた河出書房の大塚さんとのインタビュー記事冒頭の彼女自筆の漫画が上手かったし、題名の「狩猟な」との新形容詞(普通の名詞 に「な」をつけて創られた独特の単語)の使い方が素晴らしく、本文全体の内容に興味が惹かれていたのだが。
ついでに貴兄が何冊か読まれたという旦那の登山家服部文祥氏の本でもと思い著者名で検索してみたが、1冊も出て来ずこれも不発。
笹倉出版のFielderとかいう雑誌もなく、離島の図書館てこんなものかと失望し、しばらく読んでいない新聞全国紙を何新か読んで帰ってきた。
今朝ネットをいじっていたら、文祥氏が勧める「本当の戦争の話」(村上春樹訳)の全文が出ていた。面白かった。外国人の筆者の主張に共感出来た。
iPadから送信
~P戸松孝夫さんへ 2020.2.3 11:09 Q森 正之~~~
息子と狩猟に 服部文祥
お早うございます。
下記も御薦めです。岡山へ帰ったら図書館で借りて下さい。中古でも結構高いです(下記参照)。
「息子と狩猟に」 服部文祥
中古価格 ¥1,001(税込) 定価より ¥759 おトク!・・・Book-Off Onlineでで。
新品定価 ¥1,760(税込)
※「息子と狩猟に」はもうひとつ「K2」が入っています。ヒマラヤK2登山記です。壮絶なサバイバル記録です。
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先日「本当の戦争の話をしよう」をBook-Off Onlineで、200円で買ったら、文庫本のため字が小さく、やっと五分の一くらいしか読めてない。
たまたま今朝 Book-Off Onlineからメールが入り、単行本の文芸春秋社発行の大きい厚い本がたった200円! すぐ注文しました。
これなら読むのに楽なので到着まで待ちます。
もちろん眼に楽でも、おそらく脳と心臓に苦しい本!
森 2020.2.3