日時:2026年3月15日 (日) 16:00-18:40
場所:東京大学(本郷キャンパス)法文2号館 2F 教員談話教室
企画:橋詰 史晶(敬愛大学)
提題者:鈴木 崇志(立命館大学)、八重樫 徹(宮崎公立大学)、平岡 紘(武蔵野美術大学)
※第24回フッサール研究会の企画として開催いたしますので、参加費等については第24回フッサール研究会のページをご覧ください。
フッサールをある程度読んだことのある者であれば誰でも、フッサール現象学の複雑で多岐に渡る主題を、バランスよく選び出し、限られた紙幅のなかで全くの初心者にも理解できるよう平易な言葉で説明することが、いかに骨の折れる作業であるかを知っている。鈴木崇志氏の手になる『フッサール入門』(筑摩書房、2025年。以下『入門』)は、その模範を提供してくれている。教壇に立つ人間からすれば、ぜひ教科書として使いたいと思わせる良書であろう。
しかし、入門書としての完成度の高さだけが本書の魅力なのではない。たとえば著者は特に第六章において、本書の美点である簡明な文体を維持しつつも、フッサールの他者論について入門書としてはもう一歩踏み込んだ興味深い議論を展開している。著者は、従来「感情移入」と訳されてきた「Einfühlung」に「エンパシー(empathy)」という訳語を提案しつつ、フッサールの他者経験の理論をエンパシー論とコミュニケーション論の二部門に整理する(254)。そして、コミュニケーションとは「君」から発せられた「何かを伝えようという意図を〔「私」が〕受け取ること」によって始まるものであり、フッサールとともに、そのように「語りかけを受容すること」こそが「社会〔一般〕の根源」だと指摘するのである(257f.)。
鈴木氏のこのような議論は、氏が以前刊行した『フッサールの他者論から倫理学へ』(勁草書房、2021年。以下『倫理学へ』)における綿密な研究に基づいている。したがって本合評会では、同書についても適宜言及されることになるだろう。『倫理学へ』は、フッサールにおける倫理学と他者論を接合することを試みる野心的な著作である。そのために同書は、著者自身が「周縁的」(i)と認める「伝達(Mitteilung)」やそれに関連する諸概念に敢えて注目する。そしてこれらについての概念史研究を梃子として、従来親しまれてきた主要著作だけでは見逃されてしまう、フッサールの立場の微妙だが重要な変化・深化を鮮やかに描き出すのである。
つまり、『論研』第一版におけるフッサールの言語分析の範囲は「独白的な語り」という主観の内面に限定されており(53)、この研究態度が、フッサールの倫理学を「個人倫理学」に制限してしまい、他者との関係に基づく「社会倫理学」への進展を阻んでいた(76)。しかし後年フッサールは独白する主観への偏重から脱却し、伝達の受け手としての他者をも考慮に入れるようになり、『入門』でも「社会の根源」として指摘される「語りかけの受容(Aufnahme der Anrede)」について考察することになる(155)。そして『倫理学へ』はこの「語りかけの受容」の理論を、フッサールの倫理学に抜け落ちていた社会的側面を補完し(260)、さらには、レヴィナスやテンゲイの倫理学との対話を通じて倫理学一般の発展にも資するものと位置づけるのである(276)。
評者には、フッサール倫理学の専門家でありフッサールに限らずエンパシー論についても造詣が深い八重樫徹氏と、レヴィナスやジャンケレヴィッチの思想を参照しながら他者との関わりのなかでの〈私〉の在り方について研究されてきた平岡紘氏にご登壇いただく。それぞれの視点から他者や倫理の問題に長年取り組んできた両氏からの提題はまさに、意義深い「語りかけ」となるに違いない。
16:00-16:10 オーガナイザ(橋詰)からの趣旨説明
16:10-16:20 著者(鈴木氏)による自著紹介
16:20-16:50 八重樫氏からの提題
16:50-17:20 平岡氏からの提題
休憩(10分)
17:30-17:50 著者による応答
17:50-18:40 フロアを交えてのディスカッション