植村玄輝著『真理・存在・意識 フッサール『論理学研究』を読む』合評会

日時:2017年9月9日(土)14:00〜

場所:東京大学(本郷キャンパス)法文二号館 二階 教員談話室

企画:佐藤駿(東北大学),松井隆明(東京大学)

提題者:植村玄輝(岡山大学),富山豊(東京大学),葛谷潤(日本学術振興会・専修大学),秋葉剛史(千葉大学)

【開催趣旨】

『論理学研究』には独特な読みにくさがある。その第一巻をなす『プロレゴメナ』が(論理学的)心理主義をめぐる議論に対して相当の貢献をしたことは明らかだろう。また,その第二巻に提出された概念や思想が後のフッサール現象学にとって出発点となったことも疑いえない。これらのことは入門書に目を通せば比較的容易に知りうることだが,いざテキストそのものに立ち向かってみると,フッサールの論述は入り組み,しばしば途方に暮れてしまう。難しさは論述のややこしさに由来するだけとはかぎらない。そもそも〈論理学に関する諸研究〉とも読めるタイトルを持つこの著作は,相互に関連すると考えられるいくつかの論考を寄せ集めた論集に近い形態を持っている。そこで読者は,全体を通底する統一的なテーマをうまく読みとれずに困惑するのである。

実際,その第二巻についてはフッサール自身がこう書いている。「このように不備もあり,思考の筋道の多くが完全に明瞭であるとは言えない著作を公にするのは小さからぬ冒険であった。それは著者〔フッサール〕の十分自覚するところである。本書を構成する諸研究は,そもそも公刊を意図して編成されたものではない。認識論をいっそう体系的に基礎づけるための基礎,言い換えれば純粋論理学を認識論的に解明するための基礎としては筆者にとって役立つだろう,そういう性格のものだった」(XIX/2, 783)。だが,そうは言っても二巻合わせて800頁近くにもなるこのテキストのうちに,フッサールという哲学者の抱いていた全体的な哲学像を示唆するいくばくの手がかりもないと考えるのはむしろ不自然だろう。事実,周知のように,フッサールは後にこの著作を「突破口」(XVIII, 8)と呼ぶことになるが,その意味は単にここで現象学がはじまったというにとどまるものではないかもしれない。

この点で,今年3月に上梓された植村玄輝氏の著作『真理・存在・意識フッサール『論理学研究』を読む』(知泉書館)は,『論理学研究』のテキストのうちに「フッサール哲学」(必ずしも「フッサール現象学」ではない)とも呼べる,包括的・統一的な哲学的構想を浮かび上がらせようとする野心的な著作であると言える。氏のこれまでの研究を知る者ならば,この著作を目論見と内実を一読して済ますことは許されないということも理解しうるであろう。本書は,フッサール哲学を形而上学構想として読むという清新(かつ多かれ少なかれ挑戦的)なアイディアのもとに,テキストの綿密で丁寧な読解に溢れている。あらゆる点からみて,本書の検討はフッサール研究の今後にとって重要な意味を持つだろう。

評者として富山豊(東京大学),葛谷潤(日本学術振興会・専修大学),秋葉剛史(千葉大学)の三氏にご登壇いただく。富山豊氏は初期および中期フッサールの志向性理論に関して優れた業績を持ち,その見識は『論理学研究』を中心的に扱った当該著作の検討に不可欠である。葛谷潤氏はフッサールのみならず英米圏現代哲学への造詣も深く,当該著作の読解に奥行きを与えてくれるだろう。秋葉剛史氏は『論理学研究』を扱った業績を持ちながら,現在では日本における現代形而上学研究の中心で活躍している。「真理」と「存在」をモチーフとする植村の著作を氏の視点から独自に検討していただく。

【プログラム】

14:00~ 趣旨説明

14:10~ 自著紹介(20分)

14:30~ 評者による提題(1)富山豊氏

14:55~ 評者による提題(2)葛谷潤氏

15:20~ 評者による提題(3)秋葉剛史氏

15:45~15:55 休憩

15:55~16:40 著者の応答と議論

16:40~17:40 フロアを含めて議論

* 評者の提題順は,提題の内容に合わせて変更される可能性があります。