「時間」

概要

 フッサール現象学に馴染みのない人はもちろん、多くの現象学研究者にとってさえも、フッサールにおける〈時間〉は最も憂鬱なテーマの一つであろう。それが重要だとはよく言われている(そのため「押さえておかなければ…」とは思う)のに、議論の内容は錯綜しており、謎めいた概念も多く、論点も(場合によっては何がそんなに重要なのかさえも)よく分からない。このような状況を見るに、時間論が「フッサール現象学の鍵概念」の第一回目のテーマに選ばれたのも頷ける。今回は仮想の聴講者として「フッサール時間論に関心を持っている(しかし文献を読んだことはほとんどない)M1の院生」を想定し、彼・彼女らにフッサール時間論の概略を提示することを目標にしたい。

この目標達成のために、今回は特に「体験流」を話の中心にする。この「体験流」に関しては様々な問いが立てられ得る。例えば、そもそもこれは何か、これはどのようなものとして・どのように構成されるのか、これによって何が可能になるのか、などだ。「体験流」にまつわるこれらの問題を扱うことで、時間論における主要な問題に、全てではないにせよ一通り触れることができるだろう。今回は、予持・把持・原印象という知覚の基本的な時間構造、時間意識の無限遡行(の回避)の問題、生き生きした現在と反省の問題、また判断論とも関連する個体化の問題や、間主観性の問題などに言及するつもりだ。

話し手・解説:栁川耕平(北海道大学) 

進行:佐藤駿