「公立・公共図書館とは何か。」を考える。
9月に行われる9月定例会で、『「図書館」を知る、「大口町立図書館」を知る』 という題で一般質問※1をする予定です。
一般質問では、その内容を組み立てる段階で色々な調査や研究や勉強をします。
テーマに則した調査、研究をして、自分なりの考えをまとめ、執行部への質問や提案を一般質問の時間を使って行います。
今回は「図書館」をテーマにしましたので、まずは、「公立・公共図書館とは何か。」「公立・公共図書館は、今、どのような状況なのか。」を調べました。
その調査、研究した内容をまとめ、このページに掲載します。
9月の一般質問前と言う事で、ネタバレ的ではありますが、このページを作成しながら、さらに考察を深め、9月の一般質問に活かしたいと思います。
※1「一般質問」とは、年4回ある定例会において、1議員70分の持ち時間を持って、議員が本会議場で直接執行部に質問したり、議員の持つ考えを述べたりする場です。大口町の場合、1議員の持ち時間は70分ですが、市町村によって持ち時間は変わります。
大口町立図書館内の「ひよこルーム」の写真です。読書推進活動「みんな集まれおはなし会」の様子です。-大口町立図書館HPより引用-
一般質問では、最初の質問として以下の質問をする予定です。
(質問) 「図書館は、「美術館、博物館、水族館と似たような公共施設」との認識を多くの人が持っていると思われます。
美術館、博物館、水族館は、入館料などを徴収して運営されている所が多いのですが、図書館は「無料」で運営されています。何故、「無料」で利用できるのか、また、「無料」でないといけないのか、その根拠を教えてください。
執行部のお答えは、9月定例会一般質問のYouTube動画でご確認頂ければと思います。
私が調べたなかでの答えは、以下になります。
(以下から、一般質問の「読み原稿」をベースに記事を書きました。口語調の文体になっています。ご容赦ください。)
ユネスコの「公共図書館宣言」には、「公共図書館は原則として無料とし、地方および国の行政機関が責任を持つものとする。それは特定の法令によって維持され、国および地方自治体により経費が調達されなければならない。」とあります。
民主主義社会における知のインフラとして、「広く市民に無料で提供されるべき」との思想が、ユネスコの「公共図書館宣言」にあります。
国際連合教育科学文化機関、通称ユネスコに、日本は昭和26年(1951年)に加盟しました。
その加盟国である我が国の「公共図書館」は、必然的にユネスコの「公共図書館宣言」に準拠することになります。
歴史をさかのぼれば、「公共図書館は無料」という原則は、ユネスコへ加盟したところから来ているのです。
さて、「無料」である事の弊害もあります。
図書館は、無料原則のため日々の活動から収益を上げることが難しく、自治体にとっては、「運営コストばかりがかかる施設」と、とらえられがちになっている事も事実です。
そのため、自治体によっては、地域の「知的インフラ」「社会的記憶装置」としての「社会教育施設」のみでは、コストに見合った存在意義を見い出しにくいため、自治体のまちづくりと融合した「集客施設の一つとして」や「地域コミュニティの場の一つ」という事で存在感を出して行こう、という動きがあります。
それは、近隣市町の事例から伺い知る事ができるかと思います。
また、大口町においても平成28年(2016年)10月に「人が集まる空間づくり検討会」がまとめた「人が集まる空間づくり提言書」において、“人が集まる空間”に必要な5つの機能の一つとして「滞在型の図書館機能」を上げられ、「図書館の集客力に期待する」事が明記されています。
これら、自治体による図書館に対するテコ入れの背景には、「無料貸本屋」批判からの脱却や、2000年代に進んだ地方分権化などの流れがあります。
特に、2003年に企業やNPOなど民間組織に公的施設の管理運営を委託する「指定管理者制度」がスタートし、民間の参入により、図書館でも多様なサービスが展開されるようになったことが大きいかと思います。
他方、「集客施設」「地域コミュニティの場」という捉え方は、公立・公共図書館の本質から外れたものである、との批判があり、しばしば物議を呼ぶことはあります。
執行部への2問目の質問として、「公立図書館を管理する部局について」質問の予定です。こちらも、執行部のお答えは、9月定例会一般質問のYouTube動画でご確認頂ければと思います。
(質問) 文部科学省、生涯学習政策局社会教育課によれば、現在は、「首長部局から独立した教育委員会が図書館を管理する枠組みが確立されている。」としています。
本町でも、生涯教育部のもと運営されていますが、過去には「大口町立図書館建設構想(案)」などは教育委員会で協議され、教育委員名で「新しい大口町立図書館の建設に対する要望書」が2013年に町長に提出されるなど、図書館の根本は、教育委員会が担っていると考えられます。
そこで質問します。何故、「首長部局から独立した教育委員会が図書館を管理する。」としているのか、その理由を教えてください。
私が調べたなかでの答えは、以下になります。
資料1をご参照ください。
公益社団法人日本図書館協会は、「公立図書館の位置付け」として、はっきりと「図書館は教育機関である」としています。
それは、日本国憲法、教育基本法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律、社会教育法、図書館法という法体系の中で明確に“教育機関”であると位置づけられている事を根拠としています。
法律で「図書館は、教育機関である」としていますので、各自治体では、教育委員会が所管する事になっているようです。
では、「何故、教育委員会なのか。」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
資料下段「2.教育機関としての図書館に必要な要素」をご参照ください。
必要な要素として3つあげられています。
(1)政治的な価値判断に左右されることがない「政治的中立性」、(2)教育を担うものとしての「専門性」、(3)安定的で長期的な運営方針による「安定性・継続性」、それらを担保するために、首長部局から独立した教育委員会が図書館を管理する、という事になるのです。
特に、図書館の根幹を成す「図書の選書」において、政治等による恣意的選書にならないよう、中立性の高い教育機関、教育委員会が所管をすることは納得のいくものです。
ココで特に覚えておいていただきたいのが、「図書館は教育機関である」という事です。
そして、教育機関としての必要な3要素である「政治的中立性」、教育を担うものとしての「専門性」、安定的で長期的な運営方針による「安定性・継続性」が担保されている事が公立・公共図書館には必須である、という事です。
公立・公共図書館を考えるとき、この事の前提に立つことが必要となります。しばしば起こる「図書館論争」はココが基点となっていますので、ぜひ覚えておいてください。
次に「公立・公共図書館の現状について」、考察したいと思います。
苦境に立たされている図書館運営
資料3-1の左の図表に「図書館数」が載っています。1992年は2038の図書館がありました。そこから30年程経った2023年には、1272増え、3310の図書館が全国にあります。
しかし、専任職員として従事していた職員は、1992年には14,317人いましたが、2023年には9,366人と5000人程減っています。
予算も、施設数で割りますと相当減っていると言えます。
資料3-2をご参照ください。
公立図書館は、無料原則のため経費を削る、となると、どうしても「人件費」になります。そのため、運営体制の7割以上が非正規雇用職員となっている事が確認できるかと思います。
大口町においても一般職が3人、会計年度任用職員が7人の10人体制で運営されています。
この事は、いわゆる「官製ワーキングプア」という問題につながって来るのですが、それは図書館に限ったことでは無いので、ココまでとしておきます。
さて、この30年の間、図書館の在り方に大きな変化をもたらした出来事が2つありました。
1つは、先ほども述べましたが、2003年に「指定管理者制度」が制定された事です。
「指定管理者制度」とは、公共施設の管理運営を民間事業者も含めた幅広い団体にも委ねることができる制度です。
民間のノウハウを活用しつつ、「サービスの向上」と「経費の節減」等を図ることが目的とされています。
公立図書館も「指定管理者制度」の対象となりました。
この制度が制定され、民間企業が運営を担う図書館が増え、図書館のサービスやイベントが活性化しました。
資料4-1をご参照ください。
その一例として、指定管理者制度の開始から10年を経て、2013年4月に佐賀県の「武雄市図書館(たけおしとしょかん)」がオープンしました。
資料4-1は、その武雄市図書館の簡単な概要であります。
レンタルチェーンのTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となって運営、ポイントを貯められる「Tカード」を導入したり、スターバックスコーヒーと蔦屋書店を併設したり、これまでの公立図書館の常識をいくつも飛び越えていったのが武雄市図書館です。
その事の評価は二分されており、「図書館革命」という評価もありますが、一方では、「公設民営ブックカフェ」と揶揄されたり、「ツタヤ図書館」などと言われたりと、批判的な見方もされています。
資料4-2は、通称「ツタヤ図書館」に関連する自治体についての一覧表です。
お隣の小牧市さんが掲載されていますので、少しだけ触れたいと思います。
小牧市は、当初「ツタヤ図書館」を目指していましたが、2015年その計画は白紙撤回となりました。
その後、2016(平成28)年に教育委員会の諮問機関として学識経験者や市民、関係団体の代表などからなる「新小牧市立図書館建設審議会」を設置し、約1年にわたって17回におよぶ審議を行いました。
その答申を尊重し、建設場所を駅前とし、運営を、ココが大事なのですが、市の「直営とする」など、新たな建設方針を策定しました。
そして、2021年、その運営建設方針に則り、小牧市中央図書館として開館し、現在に至ります。
資料5をご参照ください。
2つ目の大きな出来事は、2014年に総務省から各自治体に対して、「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」という名目で公共施設等総合管理計画を作る要請が出された事です。
この事について、前述の資料3に掲載させて頂いた金城学院大学教授で図書館学が専門の薬師院はるみ(やくしいん・はるみ)先生は、「この要請には『自治体が公共施設の需要などを見極め、縮小再編する必要がある』といったことが記されています。」と述べています。
「公共施設の需要などを見極め、縮小再編する」
総務省から出されたこの要請により「運営コストばかりがかかる施設」として捉えられがちな図書館に対して、その需要や存在意義に厳しい視線が向けられるようになりました。
この要請により自治体の図書館に対するコスト意識が一層進んできた、という事です。
図書館の根本は、民主主義を支える「知的インフラ」であり、図書館は、「教育機関」である。
「教育機関」としての、政治的な圧力を受けない「中立性」、教育を担うものとしての「専門性」、安定的で長期的な運営方針による「安定性・継続性」が、指定管理者制度導入によって民間事業者が入った場合、それらが担保されるのか、また、ユネスコの「公共図書館宣言」に準拠し、民主主義を支える「知的インフラ」を根本とするなら、「公共施設等総合管理計画」の中に図書館が入る事、一律に経費削減対象となるのはおかしいのではないか、など、薬師院(やくしいん)先生は、問題提起をなされています。
一方、税収減や社会保障費の増加等の理由で、自治体の財政状況は基本的にどこも厳しくなっています。
国や自治体の側に立つなら、聖域なき財政改革、そしてその手法として、「指定管理者制度」の導入、「公共施設等総合管理計画」の策定による、公共施設の見直し、縮小、削減、再編、統合、廃止は、やむなき流れと言えます。
「図書館も例外ではない。」としているのです。
「はたして、公共図書館とは何か。」「これからの図書館は、どうあるべきか。」
「新たな公共図書館像」を模索しているのが、「今」の「公立・公共図書館」なのです。
それでは、我がまちの大口町立図書館は「今」どうなっているのか、ですが、それは9月の一般質問の後にこのホームページでご説明したいと思います。
次回の掲載までしばらくお待ちください。