投稿日: Jan 31, 2019 4:19:32 AM
1) 社会の変化と必要な人材
狩猟、農耕、工業、情報を中心とした社会に続き、サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合した社会、Society5が到来、第5期科学技術基本計画では新しい価値やサービスの創出される超スマート社会を実現するための取組を深化させている。しかし、急激な少子高齢化、生産年齢人口の減少により、雇用環境や社会構造は急速に大きく変化,予測が困難な時代となっている。AIやIoTなど進化する情報通信技術を支える人材、特に俯瞰力や汎用力も備えたグローバルなリーダーの育成は本学会の緊喫な課題でもあるが、同時に情報に対する市民のリテラシーを高めることは広く社会の課題である。
文科省、経産省中心に行政は社会人基礎力などの求められる人材像を示し、学術団体や経済団体においても人材育成について議論している。大学や企業の特定な分野の研究者により形成される学会は、その分野特有の視点や考え方を明確にして、基本的な資質能力の育成に寄与することが望まれる。大学入学試験は知識に加えて思考力を重視する方向への改革が進んでいるが、大学は入学を待つまでもなく高校の授業改善に協力、連携して人材育成に取り組まねばならない。
2) 人材育成と教育改革
高校までの初等中等教育の指導要領改訂は10年に一度行われるが、2017年末に答申された新要領は2022年に小中高校すべてで実施される。持続的な高校支援の仕組みを構築することを目指して、今回のシンポジウムをその第一歩として内容を振り返る事から始める。
広い視野からの議論をまとめた中央教育審議会答申は、予測困難な社会の変化に主体的に関わり,よりよい社会と幸福な人生の創り手となるために知・徳・体にわたる「生きる力」が必要であるとし、その資質・能力を「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱で体系化、学習の質を高める授業改善を推進し、高等学校を含む初等中等教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革、学校と社会の接続を重視している。心の豊かさを持って社会で成長、様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め,知識の概念的な理解を通して再構成するなどして新たな価値につなげていくことを求めている。
「何ができるようになるか?」を「何をどのように学ぶか?」より優先、 生き抜くための資質・能力の育成に向けて,生徒の「主体的・対話的で深い学び」のアクティブラーニング(AL)の視点での授業改善と、教科等横断的な学習指導で学校全体として組織的に効果最大化を図るカリキュラム・マネジメント(CM)はこの推進の両輪となる。深い学びには「見方・考え方」、課題へ対応する資質・能力の育成のためには「探究」が重要となる。前者は教科、分野特有の視点や考え方であり、後者は分野を越えた課題への取り組み方法で「①課題の設定②情報の収集③ 整理・分析④まとめ・表現」の学習過程からなる。“各教科等の本質に根差した「見方・考え方」を働かせながら、(自分事として)生きて働く知識の習得や、技能を習熟・熟達させたり、思考力・判断力・表現力等をより豊かなものとしたり、社会や世界とどのようにかかわっていくかという態度等の育成、即ち資質・能力を図る”ことが「探究」である。先生仲間の協働の力で「主体的、対話的で深い学び」に向かう授業改善と教科を越えた生き方の探究支援は、カリキュラム・マネジメントの1つの道具とも位置づけられる。
3) 情報通信の見方・考え方の追究へ
教科授業改善、教科横断の探究を学会はどのように支援できるだろうか?分野特有の「見方・考え方」を考えるにあたって、答申や公示された教科別の指導要領解説を整理した。
「見方・考え方」とは「各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方で、教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなし、深い学びの鍵として、各教科等の学習の中だけではなく、教科等の学習と社会をつなぎ、大人になっても重要な働きをするもので、資質・能力の三つの柱が活用・発揮される過程で鍛えられていく。教師の専門性の発揮によって、生徒が学習や人生において自在に働かせることが可能となる」と説明されている。
すべての教科毎の「見方・考え方」が示されているが、情報通信に関係深い「理科」の指導要領解説では、「自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること」とし、「エネルギー」、「粒子」、「生命」、「地球」の代表的な4領域で、量的・関係的、質的・実体的、多様性と共通性、時間的・空間的等の視点を特徴として挙げている。これは物理、化学、生物、地学の学問分野の説明であり、授業支援の具体的イメージが沸いてこない上、探究で重視する社会の繋がりも見えてこない。そんな中で教科の1つである「科学と人間生活」は,自然に対する理解や科学技術の発展が日常生活や社会への影響,役割を、観察,実験を通して興味・関心を高め,科学的に探究するために必要な資質・能力を育成すると位置づけている。また新設の「理数探究科」は、自然科学だけではなく,社会科学や人文科学に関するもの,芸術やスポーツ,生活に関するものなどあらゆるものを含み,様々な事象に向き合い自ら課題を設定しようとする動機付けを重視しているほか、SSHと同様に学術研究を通じて知の創出をもたらすことができる人材育成を目指している。
このように見てくると、理科は対象に自然の事物・現象に限らず、科学技術によってもたらされた人工物を含み、米国等におけるSTEM教育に採用されている問題解決型やプロジェクト型の学習、観察・実験等を取り入れ、探究の中核となることが重要である。学習から探究に変った「総合的な探究の時間」は、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を総合的・統合的に働かせることを通して、自己の在り方生き方に照らし、自ら問いを見いだすことを目標としている。「事象を,情報とその結び付きとして捉え、情報技術の適切かつ効果的な活用(プログラミング,モデル化、シミュレーション、情報デザインを適用等)により,新たな情報に再構成すること」との「情報科」の見方・考え方も加えて、電子情報通信学会の扱う分野での見方・考え方を示すことで高校支援を目指したい。
4) 学会のできる事
本学会ではこれまでにSSH、出前授業などを通して高校を支援、広くは小中高校生に楽しさを伝える科学教室を開催、ビデオ教材の開発や配信なども行ってきた。身近な大学改革や入試改革に加えて、以上のような指導要領改訂の理念を参考に、改めて学会のできる支援を考えたい。生徒の学び支援は目的とするところであるが、直接的に広く行うことには限界があり、生徒の実態を把握している先生を介して間接的に行うのが現実的である。教科指導内容と身の回りのものを繋ぐことで生徒の思考を促す授業への改善推進、課題解決の実例を通して自分事として社会との繋がりを考える探究授業のデザイン等への教材提供は可能であろう。SNS活用の対話を通した協働で時間と空間を越えて連携を展開する他、データベースでその進捗や成果を共有して持続的な改善を可能とし、人工知能を個別に活用することを可能とできるであろう。イノベーション関連の学会も巻き込むことで、こうしたボトムアップの力をトップダウンの政策に繋げる道を開くこともできるであろう。探究の時間では研究者、技術者としての体験、生き様を直接生徒に語りかけることで、教科を越えて社会と繋ぐこともできる。ビデオやアニメーションなどの視覚メディアも活用することで、生徒をワクワクさせる探究プログラムの開発も有効である。
5) 一緒にやりませんか!
こうした活動は現役の会員に加えて、組織から解放されて第2、第3の人生を送る年金生活者の方に勧めたい。物が豊かになった時代に心の豊かさを求める新たな文化構築は、人生100年時代におけるシニアの役割でもあるでしょう。(文責 小粥)
<参考>
1)文部科学省 学習指導要領「生きる力」 > 新学習指導要領
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm
2)総合大会シンポジウム:
https://sites.google.com/site/cmlhcgieic/activities/activity2017
2014年TK7 「(結)楽しい学び-by ICTで学習者の理解から!」
2015年TK5 「21世紀に生きる力と教学改革」
2016年TK10「教育の改革へ向けて-高大接続一体改革とAL-」
2017年TK4 「教育改革を推進するための高大連携?-見方・考え方育成-」
2018年TK4 「教育理念と学会の役割~対話のデザイン~」
3)学びのイノベーションフォーラム(毎年12月に開催)