「学びの意欲向上」を高校の先生とともに考える本会総合大会のシンポジウムで、講演をお願いしていた高校の村上育朗先生が東日本大震災で自宅も車も含めて全てを失い、1週間以上にわたって所在が確認できなかった。これを企画した本会の一研究会を中心に、2か月後に東京都内で、その体験とともに絆の復活や感じて行動する若者の力を中心に大震災から得たものを語って頂いた。その後、仙台、石巻と被災地に近づき、被災地の高校生による意見交換ワークショップを開き、生の声を聴いて3回のシンポジウムを開催した。こうした被災地の先生や若者との接触を振り返り、絆や仲間の繋つながりの生み出す力とコミュニケーションの役割、未来世代の学びの支援について改めて考えきた。
<起点>
本研究会の活動のスタート点としたシンポジウムは、
2011年3月11日の東日本大震災によって開催断念を余儀なくされました。ご講演をお願いしていた村上育朗先生は陸前高田で被災されましたが、5月29日には東京の学習院大学で「大震災からの学んだことを未来につなげる」シンポジウムを開催、改めてお話しを伺いました。その後、被災地の高校生を招いて仙台と石巻でのワークショップを開催、同年代の仲間が共通の話題を語る中から「特別な体験を生きる勇気と学ぶ意欲」に引き出すことができました。これらの活動は、電子情報通信学会誌10月号の小特集「人間中心の観点での東日本大震災からの創造的復興」で全国の約3.4万人の会員に紹介しました。
参考:フェイスブックから
注)
このページは従来のホームページのリンクやファイル添付資料も順次移動しつつありますが、
「これまでの活動の記録」ページから、従来のホームページ内容のコピーを保存したスカイドライブにも接続しています。
<東北大教育広報活動の一環としたシンポジウム活動>
関連資料<大震災から 1 年間の活動>
第1回 シンポジウム「絆」発見 (2011 年 5 月 29 日 東京)
第一部 “大震災から学ぶ” (電子情報通信学会第三種研究会、同東京支部主催)
「大震災から何を学ぶか?」
原島 博(東京大学名誉教授)
「考えることと感じること -大震災を通して得たこと-」
村上 育朗 (花巻東高校教頭、元大船渡高校、陸前高田市在住)
第二部 “コミュニケーションの大切さを考える” 上記+日本認知心理学会共催)
「学習意欲とコミュニケーション力を育てる学習環境づくり」
市川 伸一(東京大学教授)
パネル討論「コミュニケーション=“伝えること”を改めて考える」
パネリスト:小倉康(埼玉大学准教授)、藤井恵子(日本女子大学付属高校)、日比野雅夫(シニア代表)、
善甫啓一(大学生代表)に上記講師。
HCG 内の第 3 種研究会として 4 月に正式発足、その後 5 月 29 日に東京で「大震災から学ぶ」をテーマ
に、認知心理学会とも部分共催してシンポジウムを開催した。被災した高校の先生から、多くのものを
失った中で避難所の共同生活の中で“人の絆”を取り戻したこと、マニュアルの限界を乗り越えて生き
延びるための個人の判断力の重要性、高校生の勇気ある行動の原点にある感じる力や教育以前の自ら学
ぶ習慣の必要性を指摘され、非常時の行動のためには、感じる力が考えること以上に重要であることが
強調された。また、被災地近くでの学会の開催、生の声を聞くことが要望された。
第2回 シンポジウム 絆討論 (2011 年 7 月 28、29 日 仙台)
第一部 “未来世代の描く社会” 司会 小粥 幹夫(東北大学工学部特任教授)
高校生へのメッセージ
東日本大震災高校生支援事業委員会代表 原島 博(東京大学名誉教授)
“絆“討論報告 私たちの「願い」
高校生グループ (岩手、宮城県三陸沿岸高校)
報告を聴いて「願い」を叶えるために
鈴木 敏恵 (内閣府 中央防災会議専門調査会委員)
第二部 “大震災から学ぶ” 司会 日比野 雅夫(YDK(株)取締役相談役)
「学会の役割と社会的責任」
電子情報通信学会第 3 種研究会委員長 原島 博(東京大学名誉教授)
「ICTによる創造的復興へ」
本間 祐一 (総務省 国際戦略企画官)
第三部 “東北大学からのメッセージ” 司会 行場 次朗(東北大学文学部教授)
「体験を意志と意欲に」
川島 隆太 (東北大学 加齢医学研究所 教授)
「災害に強い情報通信ネットワーク構築を目指して」
安達 文幸 (東北大学工学研究科 教授)
(パネル討論)
「若者たちの学びに大人ができること」 司会 行場 次朗(東北大学文学部教授)
パネリスト:吉田達行(宮古高校)、佐藤忠司(気仙沼高校)、安藤紀典(河合塾)が上記講師に加わりま
す。
これを受けて、7 月 28 日の東北大オープンキャンパス参加者から希望を募り、115 名を市内ホテルでの
合宿に招待、地元で馴染みの深く経験豊かな川島隆太教授の講演に加えて、「絆」討論と名づけた仲間
での話し合いの場を提供、翌 29 日のシンポジウムで報告してもらった。「気になること」を参加者全
員がラベルに書き出すことから始めた討論では、震災の共通体験を語り合う中から、「一人じゃない」
と感じ、仲間の発言から政治やメディアへの疑問に気づき、行政機能が麻痺して報道も混乱した中での
情報の支援のミスマッチなどを語り合った。討論に不安を抱いていた参加者は、仲間の説明に聴き入り
ながら、多様な一見発散したような個々の意見を模造紙の上で関係づけ、構造化することで苦もなく報
告、面白く感じて楽しんだ。震災の共通体験によって「絆」が芽生え、願いは将来社会への期待にも繋
がりました。特別な体験は学ぶ意欲に昇華したとも言える。
第3回 シンポジウム 絆訪問討論会 (2011 年 12 月 3 日 石巻)
第1部 報告会 「今日の願い」“若者の力で東北復興! 司会 阿部 清人(fm いずみ 797)
開催挨拶 主催者代表/研究会副委員長
持田侑宏(電子情報通信学会企画室長/フランステレコム(株)副社長)
「いしのまき まちづくりシンポジウム報告」
苅谷 智大(街づくりまんぼう(株)研修生/東北大学工学研究科博士課程後期)
「三重からの石巻支援ボランティア活動の紹介」
若宮 一哉(三重県 NPO 法人「未来への絆」/三重県立松阪高等学校)
「IT による復興支援」(A3Together Fandroid 活動紹介)
菊池 隆裕 (日経コミュニケーション副編集長/ITpro プロデューサー)
第2部 特別講演会 “東北大電気情報系における創造的復興活動” 座長 川又政征(工学研究科)
「情報通信による創造的復興」
東北大学電気通信研究機構 安達 文幸 (GCOE 代表・工学研究科 電気・通信工学専攻)
「遠隔医療システムによる被災地救済と新しい医療のかたち」
吉澤 誠 (東北大学サイバーサイエンスセンター・医工学研究科・工学研究科 電気・通信工学専攻)
第3部 高校生意見交換と発表「明日への決意」
“新しい街を創る!”司会 阿部 清人(fm いずみ 797)
このレポートを読んで、研究会のメンバーは、絆の原点がコミュニケーションにあることや仲間の力の
生み出す力を再確認、被災地訪問、意見交換会を 12 月 3 日に開催することを決めた。ここには三重県
からのボランティア活動に参加した高校生 34 名が参加、合計で 75 名、一般も含めて 130 名の参加とな
った。東京や近隣からの訪問者は、仙台からバスで石巻に向かい、途中に津波で破壊された野蒜のNT
T電話施設を見学に続いて、日和山から爪痕の未だ痛々しい市内を自分の目で確認、シンポジウムの会
場では高校生の意見交換時自分の耳で確認、発表に聴き入った。高齢者への支援の必要性から始まった
高校生の意見交換の報告や感想は止まるところを知らず、改めて現在の高校生の姿勢と発言に感銘を受
け、未来への可能性に意を強くした。
<シンポジウムを振り返って>
一連のシンポジウムのキーワードは絆でした。人と人の絆は体験からの思いや情報を共有して、心と心
が通う状態とも言えます。大震災という特別の体験をした被災地の高校生は、オープンキャンパス参
加、経験豊かな講師の講義などの外部の刺激に接し、仲間の発言に気づきを得て、内に秘めていたもの
を披歴する中で外への目を開き、元気を出して学びの意欲に高めたようです。こうした意欲は仲間の絆
の生み出す内発的動機であり、活動のエネルギーでもあります。
絆はコミュニケーションの原点であり、その本質に迫るものであります。絆は感じて行動させる原動力
なのです。魅力を説明して意欲を感じさせることはコミュニケーションに他なりません。単に学ぶ意欲
の対象としてのコミュニケーション科学でなく、意欲を沸かすために不可欠な手段としてのコミュニケ
ーションを意識するに至りました。こうして研究会名に含まれる意欲とコミュニケーションの新たな繋
がりを発見することができました。
<これから>
大震災によって、行政や社会システムは、規則やルールに縛られ、その担い手が被災したこともあり、
機能が麻痺してしまいました。こうした状態での避難、救済活動は、その場に居合わせた個人の自主的
な判断に頼らざるを得ない状況でした。想定に基づいて作成されたマニュアルや訓練は役に立たず、独
自の行動や判断や行動を迫られました。かろうじて逃げ延びた人には過去の体験や情報、学びからの自
己判断がありました。情報通信の事業、技術やサービスの研究開発に携わるものにとって、今回の大震
災の教えることは多い。役に立つ技術を目指して、現実を自分の目と耳で確認する基本を忘れてはなら
ない。自らの力で情報判断行動できるリテラシーの重要性をも認識して、未来を担う世代の成長支援を
追及する必要がある。
-あれから 1 年 学びから創造的復興へ-
サロン風研究会~高校の先生と学会会員、志を同じくするメンバーの集まり~
(2012 年 5 月 19 日 日本女子大学)
「科学技術を改めて考える」
原島 博(東京大学名誉教授)
「大震災から 1 年 -仮設住宅の窓から見えるもの-」
村上 育朗(元岩手県立大船渡高校、陸前高田市在住)
「2012 年度入試小論文から見た震災のテーマ」
大堀 精一(学研教育みらい)
「情報ボランティアの果たした役割」
北村 孝之(NPO ボランティアインフォ)
総括討論「小さなことも集まれば大きな力に -仲間の絆の力を改めて考える-」
シンポジウム「特別な体験を学ぶ意欲へ」&情報教育関連研究発表会
高校の先生のための福島フォーラム
(2012 年 10 月 13,14 日 福島学院大学)
<第I部> 13:15-14:50 大震災からの学び
フォーラム開催経過と狙い
高校の先生のための福島フォーラム実行委員会
東北からの報告「震災復興の進捗と課題」
橋爪 清成(福島県立福島高校)
広島からのメッセージ
田中 伸二(広島市立舟入高校)
特別講演 電子情報通信学会誌 10 月号小特集
「人間の観点での東日本大震災からの創造的復興‐避難と情報‐」から
災害時の認知心理
邑本 俊亮(東北大学災害科学国際研究所)
<第II部> 15:00-17:45 学ぶ意欲向上へ
大震災で見えてきた情報教育の課題
奥村 晴彦(三重大学;情報処理学会 CE 研究会)
「アクティブラーニング(能動的学習)」型授業としての高校物理
小林 昭文(埼玉県立越ケ谷高校)
最新の米国物理教育研究
岸澤 眞一(拓殖大学、元埼玉県立越谷北高校)
タブレット端末による情報共有と共創の試行
松浦 進一(宮城県石巻高校)
総合討論