サルトル研究会会報 第8 1997年 10

Bulletin du Cercle d'Etudes Sartriennes no.8 oct. 1997


 サ ル ト ル 研 究 会 会 報 第8号 1997年 10月


サルトル研究会第4回例会開催の報告



 第4回例会が1997年6月14日13時より早稲田大学文学部キャンパスにて開催されましたので、御報告申し上げます。


研究発表


「不在の倫理学-ジュネ論をめぐって」

   発表者 坂井由加里氏(東京大学大学院博士課程)

   司会者 生方淳子氏

 未完に終わったサルトルの倫理学的思索の跡を辿り、特に1946年から52年までの紆余曲折を三段階に整理して評価し直す意欲的な発表であった。まず、『存在と無』の「私」と「ある」を中心とする存在論と戦後の「われわれ」と「為す」を中心とするモラルとの矛盾が時代的・政治的文脈とメルロ=ポンティの影響下でいかにして生じたかが論じられ、第二に、『モラルのためのノート』と『真理と実存』において「真理と実存の相即不離」からして規範倫理ではなく不断の回心としての純粋な反省が目指されることが指摘された。そして第三にこの回心の体験を証言する『聖ジュネ』が「参加のモラルの壮大な序説」であることが示され、規範倫理学成立不可能の弁明の書として位置づけられた。サルトルとメルロ=ポンティの出発点のずれやハイデガーとの関わりを巡って多くの質問が寄せられ、有意義な議論に発展した。(文責:生方)


「サルトルと<手>」

   発表者 森田秀二氏(山梨大学助教授)

   司会者 黒川学氏

 「まなざしの哲学」に対し、対象との距離がゼロになる接触からのアプローチが試みられた。まず距離の分類がなされた後、yeux/regard, visqueux/lisse, incarnation r残iproque/non-r残iprocit; ou sadisme等の二項対立が示され、『存在と無』は勿論のこと、『壁』、『戦中日記』から晩年の対談に至るまでサルトルのさまざまなテクストが呼び起こされた。ついで手をめぐる言説に移り、「見られる手」としてmain femelle/main m瑛eの対立、「触る/触られる手」としてmain molle/main dur,「愛撫する手」としてmain muqueuse/main active などの対立がたどられた。ここでは特に『嘔吐』と『存在と無』に焦点がおかれた。周到に選ばれたテクスト自体の魅力と軽妙洒脱な語口に会場からは常に笑いがこぼれ、さらに質問では『出口なし』『自由への道』といった他の作品への言及が続くなど、聴衆の想像力を刺激してやまない発表であった。(文責:黒川)


「サルトルの暴力論の位置」

   発表者 清 眞人氏

 発表者が昨年出版した『〈受難した子供〉の眼差しとサルトル』(お茶の水書房)でも重要なテーマであった暴力論を中心とした明解な発表であった。主な論点は、1)サルトルの思想的営為をその全体性において捉えようとする際に、なぜ暴力論がその中核的構成契機として設定されるのか、2)その暴力論はどのような構造をもち、どのような問題のパースペクティヴの結節環として現われるのか、3)サルトルの暴力論はどのようなアクチュアリティーを持つのか、の三点。『弁証法的理性批判』、『道徳論ノート』におけるサルトルの暴力に関する考察を見事に整理報告した。その際、バタイユの思想を鏡として用いたのが充分効果的であった。報告者が指摘した「相互性のユマニスム」の可能性の問題などをめぐって多くの質疑もあり、たいへん盛り上がった発表であった。(文責:澤田)


 午後5時半より総会が行われ、会計担当の黒川学氏から96年度会計が報告され、97年度会計予算案が提出され、承認された。続いて、生方淳子氏が新たに運営委員に加わることが提案され、承認された(生方氏の担当は会報)。




1996年年度会計報告書

(1996年4月1日-1997年3月31日)


1.収入の部


前年度繰越金

\66,074

会費(38口、内学生12)

64,000

貯金利子

17

雑収入

14,500



合計

144,591



2.支出の部


印刷費

\10,400

例会費

3,813

通信費

37,400

物品費

4,791

雑費

8,750



合計

65,154


収入-支出=  79,437円(次年度繰越金)


会計担当  黒川学  

会計監査  武田昭彦 



1997年年度会計予算案


1.収入の部


前年度繰越金

\79,437

会費(40口、内学生12)

68,000

雑収入

3,000



合計

150,437



2.支出の部


印刷費

\4,000

例会費

4,000

通信費

40,000

物品費

10,000

雑費

10,000

予備費

12,437

次年度繰越金

70,000



合計

\150,437



その後、早稲田大学近くで懇親会が開かれ、盛況のうちに会を閉じることができた。


☆ 第4回例会の会場の手配及び準備を担当して頂きました早稲田大学佐藤眞理人氏

、北村晋氏の御尽力で、理想的な環境で例会を行なうことができました。ここに御礼を申し上げます。

 


☆皆様の96年度のサルトル関連の御業績を事務局の方にお知らせください。E-mailのアドレスがある方はできるだけメールでお送りください。入力ミスを防ぐことが出来ます。要領は前回と同じで、和文、欧文、両方でお願いいたします。(掲載誌の欧文名の漏れが目立ちますのでお忘れなく)



第5回例会のお知らせ



日時:12月20日(土曜日)会場:大阪市立大学文化交流センター


 総会の際には、次の例会を11月中に開催すること案がでておりましたが、諸般の事情により、上記のような日程に決定いたしました。関西で行なわれる初めての研究例会ですので、これまで東京の例会にいらっしゃりにくかった関西在住の方を始め西日本の皆様の多数の参加をお待ちいたしております。年末のご多忙の時期とは思いますが、万障お繰り合わせの上お越しくださいますよう、宜しくお願い申し上げます。また、例会は会員以外の方でも自由に出席できますので、サルトル研究者以外のかたも含め、広く御喧伝いただければ幸いです。


プログラムは近日中に改めてお知らせする予定です。


☆ 新入会員(敬称略)

梅木達郎、片山洋之介、翠川博之


☆ 本年度会費未納の方は、郵便振替にて速めに御納入下さい。


☆ 新任の書記が不慣れなため会報の発行が大幅に遅れ、皆様に御心配をおかけしま

した。心よりお詫び申し上げます。(生方)