日本サルトル学会会報 第13 2006年 8

Bulletin de l'Association Japonaise d'Etudes Sartriennes no.13 aout. 2006


日 本 サ ル ト ル 学 会 会 報 第13号 2006年 8月


第18回研究例会の報告

第18回研究例会が下記のように開催されましたので、ご報告いたします。

日時:7月8日(土曜日)14:00~17:00 

会場:青山学院大学 第4会議室 (6号館1F)


1.研究発表

「『賭はなされた』における〈道〉-占領期のパリの風景とサルトルのまなざし」

発表者 竹内康史氏(筑波大学大学院博士課程)

司会 鈴木正道氏(法政大学)


 サルトルの文学作品を、「道」というテーマを軸に分析している竹内氏が、比較的取り上げられることの少ない映画作品『賭けはなされた』に取り組んだ。いつもながら、対象となるテクストの概要、周辺の情報、先行研究を、見やすい形にまとめた配布資料に基づき、氏は発表を進める。「『郊外(banlieue)』の『道路(route)』という観点から分析することによって、同テクストがレジスタンス活動を描いていることによって政治性を帯びていると漠然と見なすのではなく、ディテールのなかにその政治性を見出す」ことが氏の発表の目的である。

 竹内氏は、『賭けはなされた』において、体制派の階級に属するエヴの登場場面と反体制の運動に挺身するピエールの登場場面に共通する背景として、規律の象徴である軍隊の行進が設定されていることに着目する。またその行進の行なわれる場所が郊外の「道」である点が、都市や田舎を舞台とするサルトルの文学作品においては特異であることを指摘する。さらに竹内氏は、19世紀の後半以来、パリ周辺が工業化され、労働者が郊外に移住した結果、両大戦間期に「赤い帯」としての郊外が形成されるようになったことを説明する。従って『賭けはなされた』における郊外の描写は、共産主義的・レジスタンス的な郊外という占領下のパリを反映していると言える。他方、エヴとピエールが、貧民街で救い出した少女を預ける女性の住むこぎれいな一戸建てのある郊外は、母性、家庭愛、清潔を強調している点でナチの理想を具現しており、対独協力的な郊外のイメージを映し出している。このように、サルトルは、このシナリオにおいて、占領下のパリを表わした二つの対照的な郊外を描くことによって、政治的視点を形成していったと、竹内氏は結ぶ。

 会場からは、この映画において、「郊外」は本当にテーマとして強調されているのか、郊外自体が登場するのは、当時の作家においてはそれほど珍しいことではないのではないか、そもそもこの映画に描かれた郊外は、パリの郊外とイメージが重なると言えるのかなどの質問がなされた。しかし「郊外」、「道」というテーマを軸に、サルトルの政治的問題意識の映画作品における演出を読み取ろうとする竹内氏の試みは、ユニークであり、興味深いと筆者は見た。会場からもさらに指摘があったように、フランス語による「道」という概念をより明確に定義づけ、それをサルトルのテクスト読解の鍵として生かしていくことが、今後の氏の課題となるだろう。(鈴木正道)


2.総会

研究発表の後、総会が開かれました。会計報告、事業報告の後、今後の学会のあり方をめぐって出席者による話し合いが行われました。

1) 魅力ある例会作りについては

などの提案がなされました。

2) 例会以外の新たな活動については

などの提案がありました。今回出された案も参考に、事務局では、学会のあり方をより魅力的なものにすべく新たな試みを行いたいと思っております。今回総会に参加いただけなかった会員のみなさまも、ご意見がございましたら、ぜひ事務局までお知らせ下さい。

事務局からのお知らせ

☆ 次回例会は12月に大阪で開催する予定です。

☆ サルトルとボーヴォワールの来日40周年を記念して、フランス演劇界をリードするコメディーフランセーズの俳優4人が来日し、能舞台での「出口なし」が上演されます。9月2日から7日、青山の能舞台で上演されます。公式サイトhttp://www.deguchinashi.comで予約も行えるようです。


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