サルトル研究会会報 第10 1998年 3

Bulletin du Cercle d'Etudes Sartriennes no.10 mars. 1998


 サ ル ト ル 研 究 会 会 報 第10号 1998年 3月


サルトル研究会第5回例会開催の報告



 第五回例会が1997年12月20日(土曜日)14時より、大阪市立大学文化交流センターにおいて開催されましたので、ご報告申し上げます。参加者は25名(うち聴講者5人)。


共同討議:『文学とは何か』再考


司会  石崎晴己氏


提題者 海老坂武氏 「文学とユマニスム」

    澤田 直氏 「呼びかけとしての文学」

    鈴木正道氏 「romanesqueとjournalisme」


 現在『文学とは何か』の新訳を用意されている海老坂先生の発表では、人間とはなにか、という問がどのようにこの文学論を支えているのか、サルトルはhumanismeをどのように考えているのか、時代とともに考えは変わったか、それは文学論とどう係わったのか、という問いのもと、まずhumanismeをめぐる議論の変化が詳細に辿られた。「文学とは何か」については、とくに「労働におけるユマニスム」との関連で、作家と労働の関係、自由の自覚の契機が論じられた。さらにsensもしくは沈黙の問題、後期の「besoinのユマニスム」まで、サルトルが使用する概念の明確化に意を注いだ提議であった。澤田氏の発表は、『文学とは何か』を同時期に構想された第一のモラルと相互に照らし合わせ、文学論にcommunicationとappelという倫理的テーマを読み抜くぬくという大胆で刺激的なものであった。サルトルはこの文学論において読者の役割を重視し、あらゆる文学作品は呼びかけであるとするが、この呼びかけを作者から読者への一方的メッセージではなく、相互的なコミュニケーションとして捉え、ここに対他存在の相克から脱する倫理的手だてをみる。つまり呼びかけは同一性ではなく他者性を前提にしており、そのもの自体にcommunicationが想定されているとする。ここからさらにジェネロジテとしての文学が考察された。鈴木氏の発表は、『嘔吐』に見られるromanesqueと「コンバ」、「フィガロ」への寄稿、「レ・タン・モデルヌ」創刊など戦後の活動として際立つjournalismeとの対立をたて、そこに『文学とは何か』を定位させようという試み。romanesqueは厳粛なもの・「凝縮」として、journalismeは日々書き続けるもの・「膨張」として特徴づけ、いずれもサルトルのファンタスムとする。この二項の精妙な分析のあと、journalismeの所産である「文学とは何か」ではromanesque的なものは一見消えたようにみえるが、実はナルシスティックなものの追求としてのプレテクストになっていると結論する。続いて討議に移ると、石崎先生の巧みな司会のもと、すぐにパネリスト間での厳しいやりとり、会場からの発言が続いた。さらには司会者からの熱のこもった介入もあり、非常に白熱した議論が繰り広げられた。ここで特に問題となったのは以下の点である。appelを結びつけるのはparlerか残rireか。読書論としての先進性と限界。コミュニケーションと倫理、共同性の問題。また幾度となく『弁証法的理性批判』への言及があり、一方でengagementの語の由来をめぐる議論もあった。すなわちサルトルの用いる概念の展開とそれに見合う議論の広がりがあり、発言はつきなかった。これは『文学とは何か』が新たな読解を待っている証左でもあろう。海老坂先生の新訳が待たれるところである。また、滞日中であったGESのsecretaireであるGilles Philippe氏(アミアン大学)が会場を訪れ、挨拶されたともに、18時より行なわれた懇親会にも参加されたことも付記しておきたい。(黒川記)


 大阪市立大学の津川廣行先生のご協力と、会場の準備をされた岡村雅史氏のお蔭で、素晴らしい場所で例会を行なうことができました。ここに御礼を申し上げます。

 また、運営側のミスで関西での他の催しと日時が重なり、参加できなかった会員のみなさまには、お詫び申し上げます。


☆ 皆様の97年度のサルトル関連の御業績を事務局の方に4月下旬までにお知らせください。E-mailのアドレスがある方はできるだけメールでお送りください。要領は前回と同じで、和文、欧文、両方でお願いいたします。


☆ 新入会員(敬称略):松本充弘、沼田千恵


☆ 次回例会の予定は次号でお知らせいたしますが、今年の9月27日にはメルロ=ポ

ンティ・サークルとの共同研究会を京都の立命館大学で行なうことを予定しています。発表ご希望の方は事務局にご連絡ください。


☆ Bulletin d'Information du Groupe d'Etudes Sartriennes n。 11が2部だけ研究会事務局にあります。一部3000円(+送料)でお分けします。ご希望のかたはお申し込みください。先着順ということでご了承ください。


☆ 訃報:サルトルの研究・翻訳に貢献された白井健三郎さんが亡なられました。御冥福をお祈りいたします。


☆ 図書ニュース : 久米博著『現代フランス哲学』、新曜社、1998年2月、2400円(18人の現代フランスの思想家のトップにサルトルが取り上げられている)


☆ 本年度会費未納の方は、郵便振替にて速めに御納入下さい。