日本サルトル学会会報 第20 2008年 9

Bulletin de l'Association Japonaise d'Etudes Sartriennes no.20 septembre 2008


日 本 サ ル ト ル 学 会 会 報 第20号 2008年 9月


研究例会の報告


 第21回研究例会が下記のように開催されましたので、ご報告申し上げます。

日時 : 6月28日(土曜日) 14:00~17:30

会場 : 青山学院大学 第10 会議室(総合研究所ビル 3F)


 今回の例会では、当初、根木昭英(東京大学大学院)さんと丸山真幸さん(一橋大学大学院)のお二方の研究発表を行う予定だったのですが、根木さんの急病のため、残念ながら根木さんの発表「〈神なき芸術〉とペテン ― J.-P. サルトルにおける芸術的創造の問題」は中止となりました(根木さんのご発表はいずれまた改めて例会で企画したいと思います)。それにかわり、急遽、澤田直さん(立教大学)をコーディネーターとしたワークショップ「サルトル研究の現状と今後の動向」が行われました。研究発表、ワークショップとも、活発な議論が行われ、充実した例会となりました。

 以下、司会者の方々による報告です。


1.研究発表

「到来する自由、あるいは詩の悪について??サルトル、ペトルマン、バタイユ」

発表者: 丸山真幸(一橋大学大学院)

司会者: 生方淳子(国士舘大学)

サルトルとバタイユとの比較研究ではすでに一定の成果が上がっているが、丸山氏はそこに、今までのサルトル研究においてほとんど注目されなかったペトルマンという女性哲学者を加え、その三項関係の中から、自由、善悪、道徳の問題を取り上げ、文学における悪の可能性というテーマに迫った。前半では、バタイユとペトルマンに共通するサルトル批判として、「自由」概念の不備が挙げられた。ボードレールの中に「根源的選択」を見つつ「自由」を認めないサルトルに対して、バタイユは、個人の意思に還元し得ないものがあり、それこそが詩の原理であってそれを通して自由が生起する、と主張、またペトルマンは、サルトルが悪をなす者は自由でないという事実を見ず、「自己に反した自由」も問わなかったと批判する。ともに、自由が自己にとって不随意であるという逆説をサルトルが見なかったとの批判である。道徳を扱った後半では、ペトルマンによる「善悪二元論」の刷新をバタイユが基本的に受け容れつつも、「善の超越」にもとづく彼女の道徳論には与せず、あくまでも「悪」として詩人に到来する自由を重視することが指摘され、詩の悪をもって「政治神学」と対決するバタイユの姿勢が、サルトルのアンガジュマン文学の理念と交差することが示唆された。

 前半の「自由」概念批判については、会場から「サルトルにおける自由の原イメージはまさに断崖の上を歩く者の『自己に反する自由』ではないか」との反論が寄せられた。後半の「道徳」問題については、「倫理を捨てて美を取るスタンスは戦後のサルトルにとって容認できないものだった」、「詩の悪という概念自体が不明瞭」、「政治権力と文学との対峙については、より広い思想史的文脈があるのではないか」などの意見が寄せられ、汲みつくせないこれらのテーマに関して、更なる考察をさそう形となった。

(報告:生方淳子)


2.ワークショップ

「ワークショップ サルトル研究の現状と今後の動向」

コーディネーター: 澤田直(立教大学)

司会者: 黒川学(青山学院大学)

今回、研究発表が一つになったことを受けて、澤田氏によって企画、実現されたもの。澤田氏はちょうど1週間前にパリで開かれたGESのコロックとその理事会に出席してきたばかりであり、まさに研究者向けの「現地の最新情報」が克明に伝えられた。

まず、2005年のプレイヤード版『演劇集』の発行以降、また活発に発表されはじめたサルトルの遺稿について、丁寧なフォローがなされた。単行本は『チフス』(2007)だけで、他は、雑誌発表のため、見逃しやすいものもある。ここでは掲載誌のみ記載すると、「レ・タン・モデルヌ」誌(2005年7-10月号、2007年9-12月号)。Etudes sartriennes n°11(2007)、Conferences n°23,(2006)。

とりわけ、出版されたばかりのEtudes sartriennes n°12(2008)に掲載されたフランス革命をめぐる論文の重要性が指摘された。1951年頃執筆のこの断章では、特権性としての「自由」を貴族の要求、法の前での「平等」をブルジョワの要求として、両者が対比的に論じられており、サルトルがフランス革命をどうとらえていたかを示す興味深い記述とのこと。今後サルトル解釈のさまざまな局面で参照される、重要なテクストになるものと思われる。

さらには、ジル・フィリップ、J=Fルエット、ジュリエット・シモンの編集によって、プレイヤード版の3巻目として『自伝』(『言葉』、戦中日記、アルブマルルなど)の準備が進行しつつあり、未発表原稿も多数収録されるらしいとのこと。これもまた、新資料から「新たなサルトル像」を描き出したいという、研究者なら振り払うことの難しい願望を、いたく刺激するものだった。

かくして、公式発表前の出版情報や、フランスの若手研究者の人事異動をめぐるオフレコ情報にまで触れつつ、彼らの手によって着実に成果があがってきている遺稿出版について、ヴィヴィッドに語られた刺激的なワークショップであった。

(報告:黒川学)


3. 総会

研究発表の後、総会が開かれました。

1) 事務局から、2007年度会計報告、2008年度会計予算案の報告があり、承認されました。同じく事務局から、2007年度事業報告、2008年度事業計画の報告があり、承認されました。

2) 事務局から、次回の例会の予定が報告されました。

3) 来年度の例会で、『倫理学ノート』を読むワークショップを再開することが確認されました。次回のワークショップのコーディネーターは、生方淳子氏にお引き受けいただくとことなりました。

4) 学会のホームページ上に「サルトル辞典」のページをつくり、会員で分担して項目を執筆する、という計画が、事務局から提案されました。

5) 事務局から理事の改選の提案がなされ、岡村雅史、黒川学、澤田直、鈴木正道 、永野潤、各氏の再任が承認されました。事務局長は引き続き、永野潤。

6) 現在、当学会には「会長」の職が設けられていませんが、対外的な面などで若干の不都合を生ずることがあります。そのため、事務局から、新たに会長職(任期2年)の設置(したがって会則の改訂も含みます)と、初代会長として鈴木道彦氏の推薦がなされ、承認されました。

(報告:永野潤)


2007年度会計報告

(2007年4月1日-2008年3月31日)


1.収入の部

会費     57,000

雑収入    55

前年度繰越金 87,046

────────────────

合計 144,101


2.支出の部

例会費  935

通信費  16,160

物品費  8,622

印刷費  2,200

事務局費 10,000

雑費   0

────────────────

合計   37,917



収支決算:収入-支出= 106,184 (次年度繰越金)

会計担当  黒川学  

会計監査  澤田直



2007年度会計予算案


1.収入の部

予算

前年度繰越金 106,184

会費     50,000

────────────────

合計     156,184


2.支出の部

例会費  10,000

通信費  50,000

物品費  20,000

印刷費  10,000

事務局費 10,000

雑費   10,000

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合計   110,000


事務局からのお知らせ


☆ 12月に、ボーヴォワール生誕百年を記念して、「サルトルとボーヴォワール」というテーマで例会を行う予定です。会員である井上たか子氏を中心に、現在計画中です。場所は東京の立教大学を予定しています。このテーマにそった発表を行いたい方がいらっしゃいましたら、発表題目を添えて、ぜひ事務局まで応募してください。

☆ 2008年9月26日(金)~10月19日(日)(全26回公演)、東京の天王洲・銀河劇場で、市村正親主演の「キーン」が上映されます。S席 ¥9,000、A席 ¥7,500、当日引換券 学生席  ¥3,000(※1公演あたり20席限定(25歳以下・要学生証提示))(全席指定・税込)ということです。詳しくは、http://blog.e-get.jp/kean/ ホリプロチケットセンター(03-3490-4949)にお問い合わせください。