山田 香織 (社会学部)
本活動は、近年、移住と二拠点居住によって人口増がすすむ軽井沢町で、まちづくりの実態を理解することを目的とするものだった。現地では、まちづくり活動をおこなう町内のまちづくり組織(2つ)、観光協会、町役場、自然保護とエコツーリズムに取り組む民間企業でヒアリングをおこなった。
今回の活動では、軽井沢町における多様なアクターにお話をうかがった。その結果、軽井沢町が、近年、移住先として注目される背景、移住が進んだことで浮き彫りとなった課題、その解決に向けた実践の様態を理解することができた。
まず、移住先として注目される背景だが、短期的にみれば、新幹線の延伸や理想的な教育環境(幼稚園、小中一貫校)を要因が挙げられる。しかし、お話を聞いてみると、それだけではなかった。こうした近年の人びとの流入の背景には、明治時代のヨーロッパ人による別荘地としての軽井沢の発見とこれを端緒とした別荘地開発、別荘地開発を推進の一方で景観や宅地の細分化回避に目配りをした建設制限、別荘地と町内住宅地における自然保護と植林促進のための条例制定、抑制的な観光開発、こうした長期的展望をもったまちづくりによって育まれ・維持されている豊かな自然環境、そして、長年のまちづくりのなかで確固たるものとなっている「軽井沢」という地域ブランドといった要素があり、これらが複合的に作用して、地域の魅力を創出していることがわかった。軽井沢町では、約50年前に、景観保全や植林に関する条例を制定したとのことで、当時のまちづくりの指針が、いま大いに活きていることをうかがい知ることができた。つまり、まちづくりにあたっては、短期的視点だけではなく、長期的視点を持つことが肝心ということである。
つぎに、移住が進んだことによる課題についてである。軽井沢町には、長年このまちに暮らす住民のほか、別荘を有する人びと、近年この町にやってきた移住者ならびに二拠点居住者が暮らしていることから、住民の価値観や生活スタイルはこれまで以上に多様化しているという。そこで課題となっているのが、各コミュニティ内ではネットワークがあるものの、居住年やまちへの関心、生活スタイルが異なる「住民」どうしをつなぐ機会が十分ではなく、また、新たなニーズに応えてくれる場がないことだという。しかし、こうした課題は提起に留まっているわけではなく、後者については、必要なことを自分たちで楽しくというスタンスで活動をおこなう組織が課題解決(例えば教育現場で手が回りきらない部分のカバー)に取り組んでいた。前者については、新たに組織されたNPOが、町に長年暮らす住民の知恵や技、ネットワークと、移住者のスキル、そして、行政をつなぐことに挑戦していた。
今回、まちの歴史や環境を勘案し、ハード・ソフトの両面においてまちづくりを推進している、移住地の先進地域である軽井沢町の実情を多角的に把握できたことは、他地域での地域活性化などの調査研究に取り組むことに関心を寄せる学生たちが貴重な視点を得る機会となった。