入退院に関する家族間の対立
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
在宅でのターミナルケア
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
80歳代のHさんは、脳こうそく発症後3年間、在宅療養をしていた。重度の上下肢麻痺が見られ、訪問看護を利用して、リハビリを受けている。数か月前から誤嚥(えん)性肺炎による入院を2度繰り返し、徐々に衰弱してきている。訪問看護師が食事摂取時の誤嚥予防の指導を行っていた。
Hさんは、妻、長男夫婦、孫の五人家族で、嫁が主介護者の役目を果たしていたが、主な用事は妻に頼んでいた。
訪問看護師は、Hさんの状態が悪化したため、医師と連絡をとった。医師は、患者が重篤な肺炎を起こしていると診断し、救急車で病院に搬送することを申し出た。しかし、その場にいた妻と嫁は、「お父さんは常々もう入院はしたくないといっていたから、このまま家で治療できればと、先生にお願いしたい」と希望した。
医師はこれを受け、在宅では入院して受ける医療のようにはいかないこと、重篤な肺炎であり、このまま在宅で亡くなってしまうことなどを説明した。だが、Hさんと家族の意思は固く、在宅での治療を選択された。
このように、同居の家族は在宅治療で一致していたが、他の兄弟や親せきは入院を進め、家族間で意見の相違が見られた。嫁は「他の兄弟は、H氏は肺炎なのだから入院して治療を受けた方が良いのではないかと言う。同居の家族は、みなこのまま在宅での治療を希望しているが、他の兄弟や親せきの気持ちも無視することはできないので悩んでいる」と話してきた。
訪問看護師は、Hさんの現状を他の兄弟にも理解してもらう必要性があると判断し、医師から説明してもらった。説明後、家族内で話し合い、そのまま在宅療養を継続することとなった。
6.出所
財団法人 日本訪問看護振興財団(監修)、角田直枝(編集)『訪問看護のための事例と解説から学ぶ在宅終末期ケア』中央法規、2008年1月、p.166-174.